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『アクセル・ワールド』TVアニメ放送直前SP企画 第3回

われらAW設定研究会(後編)

『アクセル・ワールド』気分を味わうには300BPMの曲を聞け!?

2012年04月06日 17時00分更新

文● ASCII.jp編集部

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(C)川原 礫/アスキー・メディアワークス/AW Project

日本人はザリガニの脳をつなぎ、フランス人はオマールエビをつなぐ

遠藤 「(前日の話の続きから)要は、経産省が通産省だった頃に巨額を投じて脳型コンピューターを作ろうとしたのよ。で、その中心人物である松本元氏に月刊アスキーで連載をお願いしようと話を聞きに行った。その内容が難しいんだけど興奮する。脳型コンピューターの開発過程では脳そのものも研究するんだけど、要するに、“分子レベルで脳の働きを把握した”ということなんですね。

 脳内の神経細胞に樹状突起というのがあると。そこが情報を受け取って、出口として軸索というのがあって、その動きが一種の論理回路なのよ。コンピューターでいうところの論理回路とはだいぶ違うんだけど、ともかくそういう回路が集まって脳が動いていると。

 じゃあ、そこまでわかったならシリコンで作れるじゃん! っていうのが脳型コンピューターなの。それで実際に細胞1000個分ぐらいをLSI化したんですね。ただ、1000億個に対して1000個という分量だからあくまで実験的なところなわけだけどね。

 あとこれは余談だけど、松本氏が実験で動物の脳をぱかっと開けて、電荷を帯びると色が付く物質を脳に注射した上で、富士フイルムに特注した高速シャッターを使って撮影した。それによって、脳の実際の活動のようすが初めて視覚化して見れるようになった。私も、その映像を見せてもらいましたが、脳は、脈動するように活動していたんですよ」

野口 「一方で、ホーキングと一緒にブラックホールの特異点定理を表わしたイギリスの数学者、ロジャー・ペンローズは、脳の活動は(分子より微細な)量子レベルの動きまで解明しないと理解できないと言ってますね」

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遠藤 諭。「月刊アスキー」元編集長。今回はコンピューター技術全般のうんちく担当。著書に、国内コンピューター業界のパイオニアたちを取材した『計算機屋かく戦えり』など多数。現在、アスキー総合研究所 所長

野口岳郎。自作PC誌「ASCII DOS/V ISSUE」元編集長。今回はコンピューターの歴史と量子コンピューターなどの話題を担当。社内屈指のCPUマニアで、長年にわたってCPU開発の歴史を追い続けている

遠藤 「脳の仕組み話でいうと、池谷裕二氏のインタビューさせていただいたときもBMI(Brain Machine Interface)の話が出てきて、『ザリガニの脳を2個つなぎました』と言われておどろきました。ずいぶんマッドですねって返したら、『フランスはオマールエビをつないでいる』って」

野口 「それ池谷氏の持ちネタじゃ(笑)」

遠藤 「それが真面目な話なんですよ。人工シナプスを使ってザリガニの脳を2つ、コンピューター介してとりあえずつなぐ。そしてAからBに電気を流すと、Bは一応それに呼応して動くそうです。

 そしてここから一気に本題に戻るんだけど、『アクセル・ワールド』の世界では、人間もコンピューター同様、心臓を振動子としてクロックで――コンピューターと同じ仕組みで動いているという基本設定だったよね。

 事実、脳にはクロックとは言えないまでも、ざわめくような周期はあるらしいのですよ。それを司る神経細胞があって、しかもそれにうまく刺激を加えると、つないだ脳同士がなんと同調するというんだ」

野口 「そんなマッドな実験、口外していいんですか……。それってザリガニの脳を1000匹つないで、1000匹分のパワーを使って情報処理しようぜ、みたいな話もあり?」

遠藤 「大あり。ニューロンとニューロンをつなげると単純な1+1以上の活動パターンを示すんだよ。おそらくそのボリュームが数百億個とかになったとき脳の働きをし始める。では、階位を1つ上げて、脳と脳をつなげたら、それこそ何百億個の脳をつなげたら……これまでとはまったく違う思考・生命システムが誕生するのではと期待されているわけ。

 一見、マッドサイエンスに聞こえるけど、すごく意味あるんですよ。脳は原始的な動物から育ってきて、だんだん外に広がってる。一番新しくできたのが外側の大脳新皮質だけど、その大脳新皮質ですら、身体的なものしか反映していない。

 どういうことかというと、人間が知的な活動と思い込んでいることは、すべて身体的な活動が代理で担っているんです。池谷氏によると、足し算をするときはほとんどの人が目玉を右に動かす回路を使っていて、引き算をするときは左に動かす回路を使っていると」

野口 「またまたぁ~(笑)」

サルの場合、脳幹がすべてを制御しているが、人間は進化の過程で大脳皮質が大きくなっていった。そして細胞数が脳幹よりも多くなると大脳皮質が自律し、今度は逆に大脳皮質が脳幹を制御する瞬間が訪れる。脳の構造に一種の相転移が起きたといえる

遠藤 「まあだから興味のある人は、自分で最新の脳本を読んでみてください。21世紀は脳の世紀、脳のことが分かってくる世紀と言われただけの発見がある。で、要するに1個の脳では身体スケールを越えたコンピューターにはならない。

 もともと知的活動とか宗教とかは、人間の活動に必要なかったものなので、当然脳内にもそれを担当する場所が存在しないわけ。だから、例えば“痛い”と言われる範疇の事項全般は、実際に痛がるための回路を流用しているらしいんですよ」

―― では、「さっきの魚を釣り逃したのは痛かったなあ」と思っているときも、痛がる回路が動いている?

遠藤 「それどころか、痛車を見て『これは痛いデザインだねー』とか言ってるときもその回路である可能性がある(笑)。あのネーミングってBMIの進歩にとって重要な発見と密接に関係してくることになりますが」

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