GPU黒歴史の8本目は、旧ATI Technologiesの「Rage Fury MAXX」を取り上げよう。ATIは意外にも、黒歴史製品が少ないメーカーである。厳密に言えば、「R400」とか「R500」のように、そもそも製品になる前に消えてしまったものがある。またAMDによる買収後に、オリジナルとは別物になってしまった「R700」といったものもある。また想定ほどに性能が出ずに格下げになってしまった「RV370」もあるが、このあたりは黒歴史というほどには酷くない。
逆に言えば、黒歴史入りするような製品が少ないからこそ、いまだにGPUベンダーとして最前線で生き残れているということかもしれない。そうしたATIの歴史の中にも、しっかりと黒歴史入りする製品は存在する。今回のRage Fury MAXXがそれだ。
MachシリーズでDOS時代に好評を博したATI
Windows時代は3D Rageシリーズで反撃開始
ATI時代のGPUロードマップは、2年ほど前の連載15回で説明しているが、その際は「RADEON 256」からの説明であり、それ以前の製品はざっくりと触れただけだった。まずRadeon以前のATI製品について、簡単に解説しよう。
元々ATIは、「Mach 8/32/64」というグラフィックチップのシリーズで、MS-DOSの世代では大きなシェアを握っていた。特に「Mach64」は、Windows向けのGDIアクセラレーションもそれなりに高速であり、MS-DOSからWindowsへの転換期には、根強いファンも多かった。しかし、GDIの最高速はMatroxの「Millennium」シリーズに奪われたし、Direct 3Dの登場により、ゲーム向けグラフィックチップが3Dへの対応を進めるようになってきたことで、シェアも次第に落ちていった。
こうした動向に対応して、Mach64の2Dエンジンに新開発の3Dエンジンを組み込んだのが、1995年に登場した「3D Rage」である。開発コードは「Mach64 GT」で、これを搭載したのがATIから発売された「3D Expression」というグラフィックスカードである。
3D Rageをプロセス微細化により若干高速化するとともに、EDO DRAMだけでなくSGRAMのサポートを追加してメモリー帯域を強化したのが、1996年に投入する「3D Rage II」である。こちらは「Mach64 GT-B」というコード名で知られており、3D Rageとのピン互換性も保っていた。3D Rage IIは「3D Expression+」「3D Pro Turbo」といったグラフィックスカードに搭載されて販売された。
3D Rage II用に、「ImpacTV」というテレビエンコーダ用のチップも開発された。そして3D Rage IIにImpactTVとテレビチューナーを搭載した製品が、「All-in-Wonder」として発売された。All-in-Wonderはカード1枚で画面表示以外に、テレビの受信と表示、録画/再生まで可能ということで、そうしたニーズを求めていた層にぴったりマッチした。安くはない値段で販売されたにも関わらず、All-in-Wonderシリーズは同社を支えるロングセラー製品として、長く愛用されていくことになる。ちなみに、3D Rage IIをベースにモバイル向けに開発されたのが「Rage LT」で、これは3D Rage IIに液晶ディスプレーのLVDSインターフェースを追加した製品である。
1997年には、3D Rage IIにトライアングルセットアップエンジンを初めとして、いくつかの3D描画機能を追加した「3D Rage Pro」が投入される。これは同社としては初めて「AGP」に対応した製品でもあり、SGRAMに加えてWRAMのサポートも追加された。とは言え競合製品となったNVIDIAの「RIVA 128」や、3dfxの「Voodoo」に比べると、性能は低いレベルに留まった。
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