Google Appsの導入などを手がけるサイオステクノロジーは、クラウドビジネスの現状を共有する記者発表会を開催した。商談現場の生々しい話を踏まえ、クラウドがSI市場にどのようなインパクトを与えるかが披露された。
リーマンショックとクラウドがユーザー指向を変えた
サイオステクノロジーは、テンアートニという社名で1997年に創業されたIT企業で、Linuxやオープンソースソフトウェア(OSS)、Java関連のシステム開発とインテグレーションを中心に手がけている。近年は、クラウド事業に注力しており、Google Appsの国内有力販売代理店として知られている。
同社のクラウドビジネスへの注力は、ユーザーの指向の変化、既存のSI事業の限界などの要因があるようだ。サイオステクノロジー 執行役員 Google ビジネス統括の栗原傑亨氏によると、まずリーマンショック以降、ユーザーのコスト削減意識が高くなり、ユーザー自身でIT導入の一部を肩代わりするセルフサービス化、段階的で柔軟な価格付けが求められるようになったという。「使っている時間だけ、あるいは人数分だけ支払うという料金制が求められるようになった」(栗原氏)。
また、3・11の大震災でBCPの概念が定着し、サーバーなどの仮想化も購入の前提になりつつある。こうした状況の中、クラウドの導入が一気に進んでおり、特にノンコア領域のGoogle Apps利用が増えたとのことだ。
栗原氏が考えるノンコアの領域とは、グループウェアやワークフロー、経費精算、営業支援、勤怠管理、プロジェクト管理などで、これらはGoogle Appsのようなパブリッククラウドの活用が進むと予想される。「かなり穴はあるが、クラウドでまかなえる」(栗原氏)。一方で、会計や販売管理、給与などのERPがカバーする分野はなかなかクラウド化までは難しいものの、クラウド化したアプリケーションと仕分けや受注・売り上げデータのやりとりが不可欠になってくるという。
さて、気になるユーザーの指向の変化は2010年からの1年で大きく変化し、「初期費用で多額投資・その後は償却+保守」という指向から、「初期費用を極力抑え、ランタイムライセンスで購入」になってきているという。「SaaSになると、ユーザーは初期構築費ではなく、導入支援として見積もりをSIerに要求することになる。セルフサービス化も進んでおり、ユーザー自身が設定などを行ない、コストを削減することも増えている」(栗原氏)とのこと。また、ノーツやExchangeの入っている社内サーバーの撲滅前提で、クラウドの指名買いする動きが進むほか、利用量や人数に比例した従量課金での予算編成に変化していくと見ている。
こうなると当然、既存のSIビジネスは大きな岐路に立つ。今まではできあいのパッケージでは対応できないということで、フルスクラッチで業務ソフトを開発していたが、むしろパッケージに業務を合わせるようになる。さらに、導入形態もカスタマイズやパッケージ導入だけではなく、サービスを購入し、運用・保守もマネージドサービスを活用することになる。栗原氏は、「もはや企業独自の画面を作るという労働集約的なビジネスは成立しなくなる。SIではなく、業務にあわせたサービスを組み合わせるプッシュ型の提案が重要になるので、上流工程のエンジニアはプリセールスやマーケティングのスキルを持つ必要がある。保守系のエンジニアはマネージドサービスに移行し、そもそもプログラマーはSaaSのR&Dのみになる」と、SI市場の終焉を予言した。
こうした市場に対応し、サイオスもクラウドプロバイダーとしてビジネスをいち早く展開し、「もはやうちをSIerと呼んでくれるな」(栗原氏)くらいの会社になっているという。
イントラの業務システムがクラウドへ向かう
また、栗原氏によると、リーマンショックでいったんストップした投資が復活しつつあるものの、イントラでのシステムではなく、クラウドに向かっていると話す。「2000年以降、Visual Basicのクラサバアプリから、JavaとOSSのイントラ型へ移って来た。今は、ちょうどこれらがリプレースの時期を迎えている。延命し続けてきた日本のNotes/Dominoシステムも、ほとんどがサポート切れになった」という状況で、クラウド移行は待ったなしだという。
これに対し、クラウドであれば、汎用オフィスアプリは数時間でできてしまうという。栗原氏は弁当の注文システムを引き合いに、「昔ノーツで1週間、1人月かかっていたこのようなシステムは、アンケート作成ツールのGoogle FormsやGoogle Docsを使えば、数時間でできる。時間がかかるのは、むしろ背景のイラストだ」と説明。ワークフローは同社のアドインなどを使えば済み、Google App EngineやSalesforce.comなどのPaaSを活用することで、会社ごとの業務アプリケーションもカバーできるという。
クラウド移行に際して、サイオスがユーザー企業をアセスメントすると、移行対象となるアプリケーションは実は4割にとどまるとのこと。残りの6割は、重複しているか、利用頻度や重要度がきわめて低く、捨てるか、並行利用することになるという。PaaSで業務アプリケーションを開発する例も実際は5%程度で、ほとんどは出来合いのサービスや簡単なスクリプトでスピーディにクラウド移行が実現するとのことだ。また、クラウドへ移行する際は回線品質やセキュリティ面で気を遣ったり、IT統制を意識する必要があることもあわせて指摘した。
かなり衝撃的な内容だが、クラウド分野で高い実績を誇る同社だけに、傾聴すべき点も多い。プレゼンテーションでは実際の顧客の声がふんだんに盛り込まれており、日本のIT業界を一部を現した内容であることは間違いない。
Google Apps導入アカウント70万件という実績
こうしたクラウドから派生した案件単価下落の嵐に、サイオスはどう対応しているのか? サイオステクノロジー 代表取締役社長の喜多伸夫氏は、「もともとOSSのような無料ソフトウェアで儲けてきているので、(低価格競争の激しい)こういう事業は得意。SaaS事業でもきちんと付加価値を提供している」と述べる。
同社は、より働きやすく、生産性の高いオフィスを実現するため、システムのクラウド化、ロケーション&デバイスフリー、そしてコミュニケーションの革新という3つをワークスタイル変革として提唱しているという。そして、これを実現するためのツールとして、シングルサインオンやSNSクライアント、システム間連携、グループウェア化などの付加価値を付けたGoogle Appsを提案している。
「パブリッククラウドだけでは顧客のニーズに応えられない。弊社は企業内システムとの連携など付加価値も合わせて提供している」(喜多氏)ことで、ユーザーのニーズに応え、差別化を進めているという。こうした施策もあり、Google Appsの導入数に関しては、国内で70万アカウントの導入を達成。また、日経BPのパブリッククラウド導入支援サービス部門でベストサービスに選定され、満足度ランキングにも入っているとアピールした。