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ロードマップでわかる!当世プロセッサー事情 第136回

GPU黒歴史 2Dと3Dを1枚に乗せて性能不足 Voodoo Rush

2012年01月30日 12時00分更新

文● 大原雄介(http://www.yusuke-ohara.com/

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2D性能も低く競合に太刀打ちできず
Voodoo 2の成功で3dfxからも黒歴史扱い

 これに追い討ちをかけたのが、2Dグラフィックの性能の低さである。もともとPUMAなんぞを使っている関係で、2Dのフレームバッファーへのアクセス性能が落ちているから性能が高いはずもないのだが、それ以上に2D描画エンジンそのものが、決して褒められたものではなかった。

 Alliance SemiconductorのAT25というチップは、それ以前に同社が開発した「ProMotion AT24」という2Dグラフィックチップを、Voodoo Rush向けにカスタマイズした製品である。だが、このProMotion AT24自身が、性能が高いとはいえなかった。2Dのアクセラレーションは「BitBlt」などほぼ最小限の機能に留まった。

 Alliance社によれば「世界初の128bitグラフィック」という話だったが(この主張もちょっと怪しい)、128bit構成をとる場合はフレームバッファーサイズが4MBになってしまい、やや価格が上がる。そのため実際の製品は2MBとか、2+2MB(基板上に2MB分を実装しておき、残り2MBはソケットのみ残されオプション扱い)という構成のものがほとんど。そうなると必然的に性能は低下する。

 実際の性能は、それ以前からあったシーラス・ロジックのグラフィックチップ「CL-GD543x」シリーズと同等といったところで、「可もなく不可もなく」といった程度だった。比較的デバイスドライバーの安定度には評判があったが、これはほとんどアクセラレーター機能がないことの裏返しである。

 これはMacronixのMX86251も、ほとんど同じであった。Voodoo Rushと組み合わせずに単独でEDO DRAMを接続すると、それなりに高い描画性能が出るという触れ込みであったが、こうした構成を取った製品は見たことがない。描画アクセラレーターとしてはBitBltのみで、このあたりもAT25と同じである。

 AT25との違いは「Video Codec Accelerator」を搭載しており、とても簡単にビデオ再生支援機能を搭載できた点にある。また、MPEG-2デコーダーをコプロセッサーとして外部に接続するためのインターフェースを用意していたが、こちらも実際に搭載していた製品を見たことはない。というか、MX86251に対応したMPEG-2のデコーダーが登場したという話そのものを聞いたことがないので、このインターフェースは事実上宝の持ち腐れである。

 AT25にせよMX86251にせよ、描画アクセラレーターがBitBltだけであっても、それなりにメモリーアクセス性能がよければ快適に動いたのかもしれない。だが、メモリーアクセスがPUMA経由とあっては、期待できるはずもない。

 Voodoo Rushが登場した1997年という時期は、Matroxの「Mystique」とかATIの「Rage XL」「Rage Pro」、NVIDIAの「RIVA 128」といった製品が登場した頃である。こうした製品と同等の価格で、より貧弱な2D性能というのはなかなか厳しかった。おまけに3D性能がVoodoo Graphicsの半分とあっては、よほどの物好きでなければ買おうと思わないだろう。結果、商業的には大失敗であった。

 3dfxにとっては幸いなことに、これに続きハイエンド向けに投入した「Voodoo 2」が大ヒットしたために、Voodoo Rushの失敗はそれほど大きなインパクトとはならずに済んだ。また、その後に登場したVoodoo Bansheeは、今度こそまともな2D/3D描画性能が出て、しかも低価格に収まった。こうした成功を受け、3dfx自身がVoodoo Rushに一切言及しなくなり、(決して3dfx自身も歴史が長くないにも関わらず)見事に黒歴史に葬られることになったのは、ある意味仕方ないというべきか。

 Voodoo Rushの場合、「この失敗が後に生かされた」かどうかもよくわからないあたりがさらに哀れではあるが、「とにかく性能が出ずに黒歴史」という、わかりやすい構図ではあった。

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