キャラビズの海外展開とインフラ構築に国が果たすべき役割とは?
シンポジウムの最後のパートは、各社の展開とそこでの課題、期待される国の役割について語らうパネルディスカッションとなった。
アニメアニメの数土直志編集長をファシリテーターに、講演を終えたばかりの杉本氏・手塚氏、そしてタカラトミーアーツの久保弥氏(マーケティング統括部長 兼 広報宣伝部長)、壽屋の篠田順司氏(取締役 兼 第二事業部長)が加わり、各氏にキャラクタービジネスについての突っ込んだ質問が投げかけられた。ここではその一部を紹介しよう。
数土氏 「信頼のおける海外パートナーとは?」
杉本氏 「信頼も大事だが、力も大切。つまり放送、販売がきちんと行なえることが大切だ」
手塚氏 「ハイエンド(大人向け)のアニメ作品は、放送の必要性は低い。ユーザーはネット配信で作品を見ている。『ヴァンガード』をシンガポールでテレビ放送しているのはキッズ向けだから」
久保氏 「ユーザーがキャラクター商品を欲しいと思っても手に入らない状況を改善したい。具体的には1ヵ所ですべてが手に入る場所を構築していく。国内ではパートナーと共に、アーケード筐体から生まれた女児向けキャラクターについて、アパレル店舗内にも筐体やおもちゃを置くという施策を進めている」
数土氏 「キャラクタービジネスにおけるアニメとは?」
久保氏 「世界観を広く、そして早く伝えるにはやはりアニメが有効」
杉本氏 「ただしアニメ放送にはリスクとコストが伴う。やらなくても認知されることが理想。爆丸の場合はトイニメーションというコンセプトのもと、カードゲームのみでも楽しめるように作っていった(=アニメ放送がない時期でも、カードやシステムを更新することで、認知と定着を図ることができる)。
ただ、パートナーにとってはアニメが終わってしまうと、ビジネス自体も終わりという印象を与えかねないので、そこは注意が必要」
数土氏 「キャラクター/ユーザーの世代交代についてはどう捉えているか?」
杉本氏 「米国パートナーからは、ポケモンのサトシのような存在(爆丸ではダン)を長い目で育てていきたいという要望をいただいている。アジア的感覚では(ユーザーの成長に応じて)3年程度で登場キャラクターも変えたいのだが、そこは文化の違いだろう」
海外での日本の存在感は?
数土氏 「政府・国に対する要望は?」
久保氏 「コンテンツの企画力は確かに日本がトップ。クリエイターのピラミッドが大きい。マンガ雑誌のメディアの力も高い、ライトノベルと合わせ原作の源泉。
だが、ビジネスへの気迫が少ない。クリエイティブで満足してしまってはいないか? 海外に売り出そうという気概を持ったプロデュース人材が少ない。これにはある程度の経験値が必要。時間もかかるし、英語力も必要。
それを学校で育てるのか、国ができることがあるのか、(あるならば)国が援助していると表明することが大事」
杉本氏 「やはり人。中国人の英語教育熱は高い。韓国は移住も含めてグローバル戦略を採っている。日本人の海外に出て行こうというパワーが弱い。企業はそこに割ける予算が小さい。小学生を見ていても特に男の子の根性が弱い。そこからの育成が必要ではないか?」
数土氏 「海外での展示会での日本企業の存在感はいまどうなっているか?」
杉本氏 「NY、香港、ドイツの展示会での存在は小さくなっている。自費、自力で出展するだけのリソースが足りない。やはりパートナーと組んでというのが現実解だろう」
篠田氏 「中国市場への進出支援(特に情報面)、海賊版対策は支援してほしい。対抗(訴訟)に疲弊する悪循環を絶ちたい。訴訟に対する保険もない。物的な支援として、海外拠点の集積地を用意し、ホンモノ(ジャンルを問わず)を展示するという展開もありでは」
杉本氏 「中国ではゴールデンタイムに海外アニメが放送できないというのもネック。政府からの働きかけがほしい。スピード感も必要」
手塚氏 「インフラを作らないとダメ。“リトルアキハバラ”といった集積地もその一案。でもそれだけじゃ足りない、現地のパートナーや放送局任せではダメ。意図がずれてくる。ひっくるめてやらないと無理。情報を流通させ、遊べる場所を共に作る必要がある。しかし企業単体ではなかなかしんどい。
狭い業界で情報交換をしている、手もつなぐ、でもそれだけでは足りない。国がとりまとめる、お金を出すというところで、やはり支援をしてほしい。会社では数年で結果を求められるが、文化を輸出するのはもっと長いスパンでみなければならない。イベントだってスポットで終わってしまう。
アニメ好きな人は、日本のお菓子が好き。だから、ジャンルは問わない連携が必要。なんでもありなので、そこへの支援がほしい」
数土氏 「とりまとめると要するに“ネットワーク化”。企業同士、そしてクリエイターを広くつないだうえで、海賊版対策など一企業で手に余る部分の支援には国の手が必要ということ」
海外戦略は連携とインフラ輸出がカギ
2時間にわたるシンポジウムの模様は、ニコニコ生放送でも中継され、視聴者にアンケートを採ったり、質疑応答を受け付けるなど、インターネットを活用したものとなった。また、当日の収録映像はUstreamにアーカイブされている。
クールジャパンは、アニメ・マンガなどのキャラクタービジネスの領域だけでなく、食やファッションなど広い領域にその守備範囲を広げている。インターネット上の流通・消費によって、映像や書籍そのものだけではマネタイズを図ることが難しくなるなか、ジャンルやカテゴリに縛られない連携が必要という実務家の意見に、経産省・三原氏はじめ来場者も頷いていた。
また、コンテンツを単に輸出するのではなく、幅広い連携を含めたインフラの輸出・構築が必要であり、そこに国の支援の余地があるという考え方にも共感できる。自然エネルギーを合理的に活用しようというスマートシティや、新幹線のような交通システムの輸出でも重視されているような、インフラとしての輸出への取り組みが求められるところだ。
このシンポジウムを起点に、こういった官民連携が実を結ぶかどうかにも引き続き注目していきたい。
著者紹介:まつもとあつし
ネットベンチャー、出版社、広告代理店などを経て、現在は東京大学大学院情報学環博士課程に在籍。ネットコミュニティーやデジタルコンテンツのビジネス展開を研究しながら、IT方面の取材・コラム執筆、コンテンツのプロデュース活動を行なっている。DCM修士。『スマートデバイスが生む商機 見えてきたiPhone/iPad/Android時代のビジネスアプローチ』(インプレスジャパン)、『生き残るメディア 死ぬメディア 出版・映像ビジネスのゆくえ』(アスキー新書)も好評発売中。Twitterアヵウントは@a_matsumoto
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