ボカロ隊が人力で名曲を“掘って”いる
── しかし、海外への情報発信で、最初に作ったのは日本語というのはなぜ?
あべ 国内の人でも、今、ボカロの情報提供が不足している状況があります。ボカロは昔からニコ動で聴いてるコアなファン層だけでなく、ニコ動を飛び出したティーンエイジャーにも流行りだしている。そんな「初音ミクとかボカロって聞くけど、何?」という人が、いきなりニコ動でボーカロイドと検索しても、どの曲から聴けばいいのかわからない。
── 確かにそうですね。
あべ ニコ動の中の人たちはもちろん、外の人たちに対してちゃんとわかるように示していかないと、多分内向きに先鋭化していってしまうんじゃないかと。それほどボカロはコンテンツが拡大かつ深化してるんです。だから、初心者層に対して、「ここにくると色々わかるよ」というのが、最初のステップですね。
ただ、それだけだと上っ面をなぞった感じになって、ヒット曲のみの場所になってしまうので、今はまだささやかですが、コア層向けに“ピックアップ動画”も入れてます。再生数が1万以下の、「うわコレ知らなかったわ!」とうなずける、埋もれた名曲を探している。
── そのピックアップは、機械ですか? それとも人力?
あべ 人力でやってます。実はドワンゴ社内に「ボカロ隊」というのがいてですね……。
── ボカロ隊! ネーミングが外人部隊みたい!
あべ ドワンゴ社内の若者が、ひたすらボーカロイドを見まくっています。毎週のトレンドや、今後浮上してきそうなボカロP、派生してるMMDとかをウォッチしている。企業がデカくなると、どうしてもユーザーが求めている文化から離れていくことがありますよね。よく分からないまま作ったイベントや新企画が的外れだったりする。そうならないように、ちゃんとアンテナを立て、ボカロ文化を理解した運営ができるようにボカロ隊ができたんです。
── 「ボカロ音楽」と同時に発足した?
あべ それに近いですね。ボカロ隊は、ポータルサイトだけやってるわけじゃなくて、たとえば「このイベントでこういうボカロ曲を流したい」という相談があったら、ぴったりな曲を提案するとか、そういう役割も担っています。
── すごい! 人力ライブラリーじゃないですか。
あべ ボカロって本当に広すぎて、ジャンルも無限にある。それを機械的に抽出してくるのがなかなか難しい。すでに1人で担うには重すぎるので、数人が共有しながらライブラリーとして人力で貯めていっている感じです。
坂本 なので、「ボカロ音楽」のページは技術的には難しいことは何もやっていなくて、力を入れたのは“リサーチ”なんです。ユーザーさんが作ったタグを元にジャンルごとの新着動画を出すにしても、どのタグがあって、どう使われているのか。その実体をきっちりリサーチするのが、キモなんですよね。
── この「ボカロ音楽」に関わってる坂本さんやあべちゃんさん、ボカロ隊の人は、元々ボカロ好きだなんですか?
あべ いや、僕はもう“ボカロ廃”だったですね。
── あれ、あべさんってダンマス(「踊ってみた」系ユーザーのパーティイベント「Nico Nico D@nce M@ster」)の担当をやってますよね? 踊ってみたでニコ動に入ってきた人だと思ってました。
あべ いや違います!(笑) 元々は朝から晩まで仕事を放棄してニコ動とニコ生を見続ける“ニコ廃”的な生活をしていて、中でも音楽ものではボカロがめちゃくちゃ好きで、そこから派生した「踊ってみた」「歌ってみた」が同じくらい好きになったんですよ。元々、ダンスは自分が踊る側だったんですけど、それって2000年から2005年の間で、ニコ動がない時期だったんですよ。ニコ動ができてからは、ボカロをメインに「ニコ動全体のカテゴリを一日16時間、毎時チェックは欠かさない」みたいな。
坂本 僕はボカロに関しては、ニコ動初期のすごく盛り上がっている時は見ていたんですけど、そのあとは少しずつ離れていってしまったクチです。
── 投稿者や作品が増え過ぎて、追いきれないですよね。
坂本 「マトリョシカ」や「ワールズエンド・ダンスホール」など、すごく有名な曲はもちろん知ってるんですが、再生数は伸びてないけど、いい曲というのはわからない状況になってた。それが半年ぐらい前ですね。
── 多分、ボカロ好きでも、多くの人はそんな状態にあると思います。
坂本 その代表みたいな感じです。でも、改めてちゃんと見ると、やっぱりすごくいい曲がそろってる。僕はもともとクラブミュージック好きなんです。最近の流れだと、ライトな感じの曲がメインストリームだったりするんですけど、掘ると好みで素晴らしい曲がどんどん出てくる。好きな曲が派生していくのを見るのも本当に楽しいです。だから、追いきれなくて離れていっちゃった人を戻してくるというのも考えていかなければいけない。