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ソーシャルメディア時代の広告とは?

2011年08月05日 14時30分更新

文●Web Professional編集部

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 アスキー・メディアワークスとルグランが共催したセミナー「第1回Digital Marketing College」が7月29日に開催された。講師に『教えて!カンヌ国際広告祭』(アスキー・メディアワークス刊)の著者・佐藤達郎氏を迎え、「ソーシャルメディア時代に求められる広告」をテーマに、カンヌの最新情報を交えながらデジタルマーケティング時代における広告のあり方が議論された。セミナーには、広告代理店などで広告制作やマーケティングに携わっている参加者が多く、佐藤氏と泉氏のパネルディスカッションでは時間一杯まで会場から多くの質問があり、活況だった。以下は第1回「Digital Marketing College」の概要である。なお、ルグランのWebページに掲載されている佐藤氏とルグラン代表泉浩人氏の対談の様子とあわせると、「ソーシャルメディア時代に求められる広告」への理解が深まるだろう。

「ソーシャルメディアとデジタルマーケティング新時代」泉浩人氏

 ルグラン代表の泉浩人氏からは、「ソーシャルメディアとデジタルマーケティング新時代」のテーマで検索の果たすべき役割やソーシャルリスニングやユーザープロファイル分析の重要性などについての話があった。検索の役割は既に需要が顕在化しているユーザーに対して効果的なツールであってこれからも必要不可欠な存在であり続ける。一方で、まだ自社の商品やブランド、サービスに興味・関心を持っていないユーザーに対して、どうやって需要を創造し、検索からコンバージョンへのプロセスへ誘導するかの「Pre-Click」(クリック前)の対策も重要だ。

 Googleが提唱しているZMOT(Zero Moment Of Truth)という概念にも触れられ、消費者は店頭で商品を実際に手にする(First Moment of Truth)前に、検索だけでなくソーシャルメディアによる口コミ、レビュー、動画等でも積極的に情報を収集した上で、購入を検討する傾向にあり、その意味でもPre-Click対策の重要性に対する認識は高まりつつある、という。

Pre-Click対策が重要に! ZMOT:Zero Moment Of Truth

 「Pre-Click」対策では、自社あるいは競合他社のユーザープロファイル分析、Twitter、ブログなどのクチコミから消費者のインサイトを探る「ソーシャルリスニング」が有効であることが実例を挙げて説明された。特に、キリンビバレッジから発売されたばかりの新商品「生茶 ザ・スパークリング」について、ツイッターやブログなどソーシャルメディア上で、ユーザーの反応がどう変化していくかを紹介した事例については、参加者の反応がよかった。

ソーシャルリスニングの重要性 ツイッターでのユーザーの反応を実例に

「カンヌに見る、これからのソーシャル・クリエイティビティ」佐藤達郎氏

 多摩美術大学教授の佐藤達郎氏からは、カンヌ国際広告祭(今年から『カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル』に名称変更)の歴代受賞作を例に、ソーシャルメディア時代における広告のあり方について話があった。

 「ソーシャルメディア時代における広告」として紹介されたCMには大きく2種類あり、ひとつはストーリー性や芸術性が優れた佐藤さん「“トラディショナル”なクリエイティビティで評価を受けたCM」、もうひとつは、最近のカンヌ受賞作品の特徴でもある「“伝播性”という新たなクリエイティビティが光る斬新なCM」だ。

 “トラディショナル”なCMの特徴は、ユニリーバのCMのように「一見すると何の脈絡のないところから始まりながら、最後は商品に繋げる」という視聴者を「あぁなるほど」と感心させたり、ニヤリとさせたりするようなストーリー性を持つCMである。

 一方、“伝播性”を持つCMは、T-MobileやキャドバリーのCMのように、ストーリーというよりも「何かよく分からないけどすごい!」「面白い」と思わず人にも伝えたくなってしまうのが特徴だ。

08年のカンヌ国際広告賞でフィルム部門のグランプリを受賞したキャドバリー社のCM

 実際に映像を見ると、「なぜこれがカンヌで受賞?」という疑問もわいてくるが、佐藤氏によれば「これらのCMには“伝播性”という大きな力がある」という。たとえばT-MobileのCMは強い伝播性によって放映直後から話題となり、YouTubeの再生回数は3000万回を超えている。伝播性の源が佐藤氏のいう「ソーシャル・クリエイティビティ」だ。企業が伝えたいメッセージを「企業から人へ伝える」のが従来の広告だったのに対し、ネットだけでなく、オフラインの広告を含めて、「メッセージが人と人をつなぐ」「人から人へ伝わる」のがソーシャルメディア時代の広告なのだ。

ソーシャル・クリエイティビティ ~「伝える」から「つなげる」へ~

「ソーシャルメディア時代に求められる広告」佐藤 達郎氏 × 泉浩人氏

 2人の講演に続いて、佐藤氏と泉氏の対談があった。主なやりとりは次のとおり。

泉 浩人氏(以下、泉):ゴリラのCMは大変「伝播性」があり面白いですが、クリエイティブ側では、「こういうものが人々の琴線に触れる」といった何らかのデータに基づいて制作しているのですか?

佐藤達郎氏(以下、佐藤):いわゆる「クリエイティブジャンプ」が必要ですからデータではなかなかできないですね。トラディショナルなクリエイティブは方法論等かなり確立されていますが、新しいクリエイティブは皆それぞれ悩みながら創っていると思いますよ。一方で伝播性を持たせるために「ストーリーとしてのオチをつけない」といったように、わざと「突っ込みどころ」を残しておくようなことは、ある程度意識しているかもしれませんね。

泉:「生茶 ザ・スパークリング」の例ではTwitterユーザーの反応をグラフでお見せしましたが、こういったデータはクリエイティブ側ではどういう風に活かしますか?

佐藤:「生茶 ザ・スパークリング」の例では、一見ネガティブと思えるクチコミがあっても、「青汁まずい!もう一杯!」というCMみたいに、ネガティブさを逆手にとったCMができるかもしれない。ただやっぱりデータだけで構築すると、「クリエイティブジャンプ」が起きず、誰が作っても同じようなCMになる可能性はありますよね。

データとクリエイティビティとの関係は?

泉:クリエイティブジャンプについてもう少し詳しく教えてください。

佐藤:難しいなぁ。クリエイティブジャンプはひらめきだったり、ある程度は学べたりするものですが、一方でこれまで学んできたことを壊す作業でもありますかね。「欧米の有名な広告会社にはクリエイティブの方法論があるのではないか」といった話があって、私もいろいろ調べましたが、そういうものはないんですよ。実際多くの人が「今までのことと反対のことをやれ」といったことを言っていますが、それくらいしかないんです。あとは個人やチームのクリエイティビティに頼るしかないですし、頼った方がいいと思います。そうしないと“インプットしたら出てくるものが決まってしまう”ということになってしまいますよね。

泉:では「クリエイティブジャンプ」はある種の才能なんでしょうか?

佐藤:おっしゃるとおりです。ただアーティストとは違うので、すべてが才能という訳ではないでしょう。そこがクリエイティブビジネスの面白さだと思います。たとえばクリエイティブジャンプした作品をクライアントに説明する場合には、逆に論理立てて説明しなければならず、これは非常に難しいです。データとクリエイティビティとの関係は、全てデータで説明することは難しいかもしれませんが、検証はできると思います。私は今やどんな突飛なクリエイティブもクライアントにしっかりと説明できますよ。(会場が笑いに包まれる)

 対談後も質問が多数あり、セミナー終了後も積極的に質問する参加者が多いのが印象的だった。「Digital Marketing College」は今後も定期的に開催する予定だ。内容が決まり次第、Web ProfessionalやルグランのWebサイト、ニュースレター、フェイスブックページで告知することになっている。

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