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グローバル企業にフォーカスした背景を理解する

AT&Tジャパン社長を直撃!日本での事業売却の裏側に迫る

2011年01月14日 09時00分更新

文● 大谷イビサ/TECH.ASCII.jp

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2010年9月、IIJがAT&Tの国内ネットワーク事業を買収したというニュースを掲載した。果たしてAT&Tは日本から事業撤退してしまうのか? 同じく2010年9月にAT&Tジャパン代表取締役社長に就任した岡学氏に聞いた。

アウトソーシングサービス売却の舞台裏とは?

 AT&Tの国内ネットワーク事業の売却について理解するには、まずAT&Tジャパンの変遷を理解するのが不可欠だ。AT&Tジャパンは、米国AT&Tの子会社として設立され、法人向けのコーリングカードのサポートなど古くから事業を展開してきた。しかし、1999年に日本IBMがグローバルネットワーク事業をAT&Tに売却したことが転機となり、国際回線だけではなく、国内の法人向けネットワークアウトソーシングまで手掛けるようになる。「さまざまなパートナーから回線や機器を調達し、構築から運用・管理までを請け負うというアウトソーシングサービスを展開してきました。AT&Tジャパンは、この国内のアウトソーシングサービスの割合が他国のAT&Tと比べて突出して高かったんです」(岡氏)という。

AT&Tジャパン代表取締役社長に就任した岡学氏

 今回、IIJに売却されたのが、主にこの国内のアウトソーシングサービス事業を担当していた従業員245名、1600社にのぼる国内顧客が新会社のIIJグローバルソリューションズに移管され、事業を継続することとなる。この背後には、この数年間AT&Tが進めてきたグローバル戦略の変更がある。

 ご存じのとおり、今の米AT&Tは昔のAT&Tではない。米国の地域電話会社の1つであったSBCコミュニケーションズがAT&Tを買収し、社名を認知度の高いAT&Tに変更した結果、誕生したAT&Tだ。岡氏は国内のアウトソーシングビジネスの売却について、「新生AT&Tがグローバル戦略を改めて考えた結果、やはりグローバルに展開している顧客にフォーカスすべきだろうという方向性になりました。国内に自前のインフラを持たないAT&Tでは日本での大きな投資が難しく、顧客に限定的なメリットしか与えられないという判断になったのです」と説明する。とはいえ、国内でのサービスは旧AT&Tジャパンの担当者が在籍するIIJグローバルソリューションズと連携してこれまでどおり提供していくため、顧客にとってのマイナスはまったくないという。

グローバルでの最適化に貢献する

 一方のAT&Tジャパンは、国内外に拠点を置くグローバル企業に対するビジネスにフォーカスする。グローバルな国際VPNがメインだが、インターネット接続やホスティング、ユニファイド・コミュニケーション、ネットワークインテグレーションなど多彩なサービスを用意している。また、ネットワークに付加価値を追加するという発想からエンド・トゥ・エンドでサービスレベルを確保できることを強みとしており、利用状況やレポートは「ビジネスダイレクト」という顧客用ポータルですべてチェックできるという。

AT&Tのグローバルネットワークマップ

 そして、AT&Tジャパンとしてのメリットを活かせるのは、グローバルでの最適化だという。現在、各社とも共通しているのは、各地域でITシステムがあること。グローバル展開を行なっている企業は、多かれ少なかれITシステムの統合や標準化を進めているが、組織や言語、商慣習の壁、各地域のみに最適化されたシステム、ポリシーやサービスレベルの違いなどが存在し、これらを最適化するには大きな労力がかかるという。「AT&Tジャパンが社内で体感している『グローバル化のストレス』は、まさにお客様のストレスでもあります」(岡氏)とのこと。

 これに対して、岡氏は「AT&TはM&Aをここ5年で進めた結果、社内に請求システムだけでも500あることに気が付いたのです。これを現在は30にまで統合してきました」と、まさに身をもって最適化を進めている。日本の顧客のグローバル化をリードしていくために、顧客のニーズを汲み取りつつも、いたずらに日本化を進めるのではなく、グローバルレベルの投資と自社での経験をフルに活かしたサービスを提供するという。

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