11月30日、シマンテックは米本社の社長兼CEOのエンリケ・セーラム氏の来日記者会見を開催した。同氏は、同社の新たなビジョンの説明を行なうとともに、同日発表された富士通のワールドワイドでの戦略的提携の背景についても明らかにした。
「人と情報を保護する」の意味とは?
米シマンテックの社長兼CEOのエンリケ・セーラム氏は、今後の同社の戦略の基本となる「新しいビジョン」について語った。
同社はこれまでもセキュリティベンダーとしてさまざまなセキュリティ対策ソフトウェアを提供してきたのだが、同氏は「重要なのは“人”と“情報”であって、デバイスやアプリケーションを保護するのはさほど重要ではない」と語る。ユーザーがプライベートや業務で利用するデータやアプリケーションは全てクラウドに保存され、ローカルのデバイスには重要な情報は何も残らず、どのデバイスからでも信頼性の高い認証手段を介して自分のデータにアクセスすることができる、という状況は、既に「来るべき未来像」ではなく現実になりつつある。同氏はこうした状況を踏まえて、セキュリティ・ベンダーが守るべきは従来のITの発想に基づくデバイスやアプリケーションではなく、人と情報だという。ここでは、先日買収したベリサインの技術による「信頼できる認証システム」の存在が大前提となっている点が重要だろう。
さらに同氏は、「人と情報の間をITがつなぐ、というモデルは根本的な変化を遂げる。人と情報それぞれに“属性”(アトリビュート)を与え、適切に定義されたポリシーが属性に基づいて人と情報をつないでいくようになる、というのが新しいビジョンだ」とした。
こうしたコンセプトを踏まえ、同氏はシマンテックを「セキュリティ・ベンダー」ではなく、「インフォメーションプロテクション(情報保護)ベンダー」だと規定した。
富士通との戦略的提携をますます拡大
また、同社は同日付で富士通との提携関係の拡大について発表を行なった。ポイントは大きく「Symantec Endpoint Protectionが富士通が提供するクラウドサービス『オンデマンド仮想システムサービス』に採用される」と「Backup Exec特別版が富士通のPCサーバーであるPRIMERGY向けに(安価に)提供される」の2点。これだけだと、よくあるバンドル提供の話にしか見えないが、これは両者の世界戦略が一致したことによる戦略的な提携強化の一環なのだという。
説明を行なった同社の代表取締役社長の河村 浩明氏は「富士通は、エンタープライズ市場には強いが、SMB市場ではまだ伸びる余地が大きい。そのため、シマンテックのソフトウェアとの組み合わせでオールインワンソリューションを実現することで武器とする」とした。一方でシマンテック側の意図についてセーラム氏は、「今後は限定された適切な相手をパートナーとする」と語り、提携相手を厳選していく姿勢を示した。この背景には、IT業界で垂直統合の動きが強まっていることに対する「ソフトウェア企業としての生き残り戦略」があるようだ。自社単独ですべてを提供していこうという「垂直統合志向」の企業として同氏はIBM、HP、オラクルといった名前を挙げたが、同社はこうした企業ではなく、相互補完的な関係で「Win-Win」のパートナーシップを確立できるベンダーと協業していくという方針だという。富士通との提携も日本市場限定ではなく、ワールドワイドでの提携となるといい、両社にとって重要な関係であることが伺える。
そもそも富士通は半導体からアプリケーション/サービスのレイヤまでITの全事業分野をカバーする垂直統合型の企業だという気もするが、セキュリティやバックアップの分野では自社技術よりもシマンテックの技術を選ぶことで「ベストオブブリード戦略」を選んだと理解すればよいのだろう。ともあれ、PC全盛期にコンシューマ向けセキュリティソフトウェアで成長を遂げたシマンテックだが、クラウド時代/脱PC時代を迎えるにあたり、いち早く新戦略を確立し、再始動する、という宣言だと受け止めるのが良さそうだ。