デザインへの興味と、目下そして将来の目標
iD Tech Campで渡辺氏はiPhoneアプリのクラスしか取らなかったが、隣で行なわれていたPhotoshopとIllustratorのグラフィックスデザインのクラスがとても気になっていたそうだ。中にはもう何年も毎年このクラスに通ってくるPhotoshopマスターがいたり、クラスで作ったハンバーガーのイラストのクオリティの高さに度肝を抜かれたり……。
アプリ「借金時計」の開発ではプログラムにかける時間以上にデザインを作る部分に時間がかかったという経験もあり、自分もやってみたいという意識が芽生えたという。こういう出会いもまたiD Tech Campならではの視野が広がる経験だ。数年後にはスゴ腕のPhotoshopマスターと一緒に、アプリをデザインしているかもしれないと思うと、ワクワクしてくる。
iD Tech Campの経験を生かして、日本に戻ってきてさらにアプリ開発に打ち込んでいる渡辺氏。キャンプのクラスでサンプルとして作ったゲームを改良したバージョンを仕上げてApp Storeに出すべく、準備を進めているそうだ。今回はデザインも良くするほか、競争が激しいゲーム部門で戦うのではなく、別のカテゴリーに出せるような付加要素を加えていくという。日本での経験とアメリカでの経験の結果を集めた作品にもうすぐ出会えそうだ。
渡辺氏は目下の目標について次のように語った。
「まずゲーム開発をしたいです。OpenGLを使った3Dゲームが作れるところまで、スキルアップしようと思っています。あとはやはり、App Storeのランキングに残るアプリを送り出したいと思っています。人の心に残るような良いアプリが作れるように努力していきたいです。それからAndroidも勉強して、iPhoneとAndroid両方でアプリが作れるようにもなりたいですね」
アプリ開発をしている渡辺氏に、学校の友人たちはそこまで関心を示しているわけではないそうだ。高校生(もしくはその親)の間では“iPhone=高い”というイメージが強く、iPhoneを持っているのは帰国子女を中心とした人たちに限られていることがその理由のようだ。
「ソフトバンクももっと高校生にiPhoneを広められるはずなのに」と渡辺氏は話すが、これからiPhoneに加えてAndroidも普及する中で、スマートフォンから世界に目を向ける高校生が増えるとおもしろいのではないか、とも見ている。その先にある渡辺氏の夢について聞いた。
「今回のアメリカでの経験で、アメリカの大学に進学して、シリコンバレーで仕事がしたいという思いを強めました。アプリ開発はその1つの手段です。日本に戻ってきて孫正義さんみたいに、日本を変えていく企業を作りたいと思っています。
日本ではなくアメリカに行きたいと思ったのは、GoogleやAppleのキャンパスを見たことが理由です。Googleのオフィスはとにかく大きいと思いました。あれだけの規模の会社を日本で作るのは難しいし、一方で全体的に自由な雰囲気が感じられます。
また、シリコンバレーに行きたいと思った理由は、アップルのキャンパス内のベンチに座って談笑するスティーブ・ジョブズ氏を見たことでした。日本だと社長椅子に座っているのが社長、と言うイメージでしたが、ジョブズ氏が目の前にいて、いつでも話せそうだと思った瞬間、シリコンバレーに身を置いて活躍できることが重要だと思ったのです」
アプリ開発の腕を磨くためのサマーキャンプに参加した渡辺氏は、もう少し大きな人生の目標も持って日本に帰ってきた。こんな経験を、より多くの人にも体験して欲しい、と言う思いも強い。モバイルネイティブ世代がグローバルな視点を獲得した時のパワーを、日本は必要としているのではないだろうか。
筆者紹介──松村太郎
ジャーナリスト・企画・選曲。慶應義塾大学SFC研究所上席所員(訪問)。嘉悦大学、ビジネスブレイクスルー大学でも教鞭をとる。テクノロジーとライフスタイルの関係を探求。モバイル、ソーシャルラーニング、サステイナビリティ、ノマドがテーマ。スマートフォンに特化した活動型メディアAppetizer.jp編集長。自身のウェブサイトはTAROSITE.NET。
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