Appleの釈明内容に業界他社の批判が殺到
これは筆者の感想だが、直接的ではないとしても「AppleがiPhone 4に存在する問題を認めている」こと、そしてJobs氏が言う「実際にこれを致命的な問題だと感じているユーザーは少ない」ことがポイントだと考えている。電波状況に関しては米国と日本など、国やエリアによって千差万別であり、問題の発生しやすさも当然異なってくる。もし仮にiPhone 4が現在のような形でアンテナに問題を抱えていなかったとしても、電波の弱い地域に住むユーザーが不満を表明する可能性はある。これはネットワークの貧弱さがたびたび指摘されるAT&Tではなおさらだ。実際、バンパー導入で問題がほとんど解決し、それをAppleが無料配布しているというなら、企業側の対応としてはまずまずだろう。それでも不満があるユーザーであれば全額返金の措置まで用意しているわけで、一通りの措置は講じられたと思う。
だが1つ、企業の姿勢として問題があるとすれば、「問題は他社でも発生しているものであり、別にiPhone 4固有の問題ではない」という責任転嫁の部分だ。Jobs氏はユーザーに迷惑をかけたことには謝罪しているものの、問題の根本がiPhone 4の設計にあることは決して認めていない。その発生理由を「携帯全体の問題」とし、「我々ならこう解決する」と自己正当化している。比較広告はAppleを含めて米国ではメジャーな手法だが、特に今回のように他社を貶めてまで自分を持ち上げるやり方は正直あまり感心しない。
実際、槍玉に挙げられた業界各社はJobs氏のコメントについてすぐに反論を行なっている。BlackBerryを抱えるRIMは、発表直後に共同CEOのMike Lazaridis氏とJim Balsillie氏による反論文を掲載。AppleがiPhone 4で行なったような問題のあるデザインを採用したことはなく、こうした同社の主張がミスリーディングであると非難している。Nokiaも同様の反論を行なっており(Boy Genius Reportで声明の全文が確認可能)、「Apple」という企業名こそ名指しではないものの、「我々であればアンテナよりデザインを優先するようなことはしない」とiPhone 4における設計上の問題を揶揄している。16日の記者会見の直前、米Bloombergと米Wall Street Journalはそれぞれ、Appleが1年前からアンテナの問題を認識しており、それでも現行デザインでの発売を強行したのはこのデザインを気に入ったJobs氏本人の判断によるものだったという関係者の話を報じている。
これら2社に続く形で、翌週の19日にはHTCとSamsungも反論を行なっており、さらにTaipei Timesによれば、米Motorolaの携帯部門CEOのSanjay Jha氏が「我々の製品はiPhone 4のようなアンテナ短絡を抱えていない」としたコメントを掲載している。一方のAppleはアンテナ問題に関する他社製品の比較画像を専用ページに掲載しており、「業界全体の問題である」という認識を崩していない(日本語ページはこちら)。またこの米サイトのページはアップデートが行なわれているようで、Job氏のプレゼンテーションになかったNokia N97 miniの情報が新たに加えられている。
Appleの"輝き"
では、Appleが今回の一件でイメージを悪化させ、iPhoneリリース初期にあったような輝きを失ったかといえば、否だろう。現時点で必要なフォローは一通り行なっており、Jobs氏のいうように問題は比較的小規模なものだと考えられるからだ。PCWorldではこうした危機管理専門家Jonathan Bernstein氏のコメントを紹介し、出だしは遅かったがうまく対応を行なっており、Appleのイメージを毀損するものではないと指摘している。Appleのイメージが下落するのは、むしろAndroidといったライバルらが力をつけ、今後プラットフォームとしての魅力で追い抜いたときに発生するのではないかと思う。今回の最大の問題はAppleが他社を執拗に攻撃したことで、業界内部での心象を悪くしたことではないだろうか。