全ての小中学生はデジタル教科書を持つように
iPadに代表されるデジタル端末・電子書籍が学校教育にどういった影響を与えるかを焦点にした座談会も特別フォーラムとして実施された。
「教科書・電子書籍・学校図書館-学芸大からはじまる議論-」と題されたこのフォーラムでは、東京学芸大学学長の村松泰子氏、同副学長の牧山助友氏、同前田稔氏、角川書店社長の井上伸一郎氏、アスキー総合研究所所長の遠藤諭、MacPeople編集長の吉田博英らが登壇した。
ひときわ関心を集めたのが日本ではまだ見る機会の少ないiPadのデモ。
吉田氏によると、iPadは「まだ電子書籍に書き込みなどはできないが、分からない言葉を辞書で引けたり、重要なところをブックマークする機能がある」という。「米国の初等教育では元素記号を学ぶアプリや、iPadで星を見て実際の星空で確認できるアプリなどが人気」と、学習に使える可能性を指摘した。一方、「日本では雑誌など写真メインのものは親和性が高いが、検索はできないので、今後参考書などとして利用する場合には検索できるようになることが重要」とした。
文部科学省の社会教育調査によると、全国の図書館(学校図書館を除く)が2007年度に小学生に貸し出した本は、ひとりあたり35.9冊で過去最多となった。これは、前回調査時(2004年度)を2.9冊上回り、貸出数の調査を開始した1974年の2.2倍となっている。前田氏は「一人一人の先生たちが動いた結果では」と分析した。
原口一博総務大臣内閣府特命担当大臣の「原口ビジョン」によると、「2015年にデジタル教科書を小中学校全生徒に配備」という目標がある。井上氏は、「教科書の電子化により、先生の編集力企画力の必要性がより高まる」と推測。「読ませたい小説をダウンロードして生徒に教えるなど、オリジナル教科書が作れるようになる」とした。
遠藤氏は、「デリバリー・在庫・紙代にお金がかからなくなるが、同時に本代がほとんどゼロになり、出版社は商売にならなくなる可能性がある」と指摘。また、教育現場でデジタル教科書が普及するかという問いに対しては、「ハードの値段は下がりハード的敷居はなくなる。5年後にはデジタル教科書が当たり前になってほしい」とした。
井上氏は、電子化は「気軽に子どもが文字に触れる環境が増えれば、書籍供給側にとっては可能性が広がる」とコメント。一方で、デバイスに何が選ばれるのかも関心事であるとした。「画一化は怖いので、都道府県単位あるいは学校単位などで、どんな端末を使うのか自由に選べることが重要」とまとめた。