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古代ギリシャのコンピュータと4ビットマイコン

2009年06月19日 06時00分更新

文● 遠藤諭/アスキー総合研究所

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アンティキテラの機械

アテネ国立考古学博物館所蔵の「アンティキテラの機械」

 『ワシントン・ポスト』に、最も権威ある科学本の賞とされる「Royal Society Prize For Science Books」の最終候補作が決まったというニュースがあった。その中に『DECODING THE HEAVENS』という本があるのだが、副題が「Solving the Mystery of the World's First Computer」となっている。「the World's First Computer=世界最初のコンピュータ」とは聞き捨てならないではないか。

 調べてみると、すでに日本語訳が出ていた。『アンティキテラ/古代ギリシアのコンピュータ』(ジョー・マーチャント著、木村博江訳、文藝春秋社)である。1901年に、アンティキテラ(アンティキティラ)島の付近で発見された古代ギリシャの沈没船が積んでいた「アンティキテラの機械」をめぐって、その研究者たちの辿った道のりとともに、最新の研究で明らかになった事実を紹介している。

 アンティキテラの機械は、2000年もの間海底で眠っていた朽ち果てたブロンズの塊というようなものだが、1950年代には、X線技術が天体の運行に関係する機械であったことを明らかにする。そして、最新のCT断層写真やCGを駆使した研究が、それを、「コンピュータ」と呼ぶに相応しいほどの機械だったことを明らかにしたというのだ。

 かつて作家のアーサー・C・クラークは、アンティキテラの機械について「この知識が正しく継承されていたら、産業革命は1000年早く起こっていただろう」と述べたそうだ。その技術水準は、メカニズムの解明や機械に刻まれた「使用説明」が解読されるたびに評価されてきた。この機械は、時計や暦のための機械というようなものではなく、「蝕」のスピードまで計算するという。もっとも、これ自体が機械式の時計の発明よりも1400年も先取りした装置なのだが。

 そんなに凄い機械を、古代ギリシャの人たちは、いったい何のために作ったのだろう? このあたりの詳細は、『アンティキテラ』(DECODING THE HEAVENS)をご覧いただくのがよいわけだが、それは、現在のコンピュータのように実利的な目的のために作られたとは、考えにくい内容である。著者らが結論づけているのは、コンピュータを作ること自体が、彼らにとって「神に近づく」ことだったのではないかというのである。

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