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【特別対談】二大企業の重鎮が語る、アップルへの提言――第2回「ユーザーを幸せにするMac互換機とは」

2006年04月11日 22時07分更新

文● 林 信行、編集部

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重要なのは技術革新のプラットフォーム

【古川】 それにしても、そこまでしてMac互換機って必要になりますかね。


【西岡】 そもそも“互換機”という言葉がよくない。昔、アップルと米IBM社、米モトローラ社が手を組んでPowerPCの開発*1を発表したとき、インテルにとっては大きな危機だった。烏合の衆の連合ではなく、いずれも強力な会社の連合でしたからね。

でも、そのあと、彼らは自滅していった。IBMは大して数も出ないワークステーションにPowerPCを使うと言うし、モトローラはまったく別世界の家電などでの組み込み用で使う、そしてアップルは互換機戦略と聞いた時にはガッカリしました。

もし、PowerPC連合が「Wintelはもう、すぐに古くなる。3年後、ライフスタイルに革命をもたらすパソコンのパラダイムシフトをPowerPCで起こす」と勝者の戦略を取っていたら、インテルも危なかったかもしれない。

ところがアップルはマーケットシェアのほうに目が行って、Wintelの互換機を作ってパソコンシェアのつまみ食いをする、敗者の戦略を取ったんです。あの3社連合で新しいコンピューターへのビジョンを共有し、提案してきたらインテルも打ち負かされていたかもしれない。

だけど、古川さんが言うように、時代が変わった今、インテルのCPUを使うから、有象無象のパソコンメーカーによる互換機戦略ではMacファンは泣くでしょうね。それは認めますよ。


――プラットフォームといえば、今、ちょうどインテルは“Intel 3.0”*2をうたって、半導体メーカーからプラットフォームメーカーへの転身を図っていますよね。そのタイミングでのアップルとの提携というのは、単なる偶然でしょうか? それとも何か考えがあってのことなのでしょうか。


【古川】 何か考えがあるんでしょう。今年の“International CES”(米国ラスベガスで1月に行なわれた家電展示会)でインテルが“Viiv”(ヴィーブ)*3というプラットフォームを発表して、将来の放送と通信のあり方を見せたときには両頬を引っぱたかれたような気分でしたよ。

「もう、これはマイクロソフトの出る幕はないな」と。コンテンツ流通で、パソコン側のIDをどうやってコンテンツホルダーに流すかとか、そういったことまで含めて非常に細かく仕様が練られている。

このViivは、決してWindowsだけに限られるものじゃないと思うし、将来、プラズマテレビにつないだMacとかでも楽しめるようになって、例えばハイエンドのMacでは、ハイビジョンのレベルを超えた“4Kシネマ”*4クラスの出力もできるようになるとか、そういう展望も見えてくると思います。


【西岡】 インテルは、半導体大手なのに、半導体製造の話よりもコンピューティングとはどうあるべきかを考え続けている会社です。

幹部会などでは、半導体技術の議論はほとんどせずに、いつも「ユビキタス時代のパソコンはどうあるべきか?」、「携帯電話はどう進化するのか?」または「パソコンというのは、どうやってエンドユーザーに喜びを与えるのか?」などの議論が繰り返されている。BluetoothやWi-Fiの普及に積極的なのも、そのような議論があるからなんですよ。

インテルMacの登場前には、Macに“Intel Inside”のシールが張られるのでは、と心配した人たちもいるようですが、私はそんなことにはならないと思っていました。

インテルの幹部は皆、Macユーザーがどういう人たちで、Macのどんな点に喜びを感じるかを真剣に話し合ってよく知っている。ユーザーをがっかりさせるようなまねはしないだろう、と確信していたんです。(次回に続く)



*1 PowerPCの開発
初期のMacはモトローラのMC680x0というCPUを採用。CISCという構造の同CPUは構成が複雑になり、高速化に陰りが見え始めていた。そこでアップルは将来OSのためのCPU、パワーPCをIBMと共同開発することを決め、のちにモトローラもこれに加わった。

*2 Intel 3.0
第1期のインテルはメモリーメーカー、第2期はCPUメーカーとしたうえで、これからのインテルはパソコンや組み込み機器などさまざまなプラットフォームを提案する企業になるという意味から“Intel 3.0”を標榜している。

*3 Viiv(ヴィーブ)
インテルが提唱するデジタルコンテンツ エンタテインメントのためのプラットフォーム。Intel Core Duoと『Windows XP Media Center Edition』を搭載した、パソコン型およびテレビに接続するプレーヤー型製品を提案中。

*4 4Kシネマ
ハイビジョンの4倍、800万画素相当(4000×2000ドット)の解像度を持つ超高精細映像。NTTサイバースペース研究所やソニーが技術デモを行っている。まだ完全な標準化は行われていないが、デジタル・シネマ規格に準拠。



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