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ワークステーションの値打ち

2001年06月27日 06時55分更新

文● 渡邉 利和(toshi-w@tt.rim.or.jp)

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SDC個人会員向け特別販売キャンペーンのページ
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このほど筆者はSunの低価格ワークステーション、Sun Blade 100を自宅用に購入した。新品のSunのワークステーションが20万円ほどで買えてしまうというのは、ちょっと前を思うとまさに隔世の感があるが、当然昔と同じ感動を味わうこともまた不可能となっているのであった。

現在、SunのSPARC CPUの最新世代はUltraSPARC IIIである。既にこのCPUを採用したワークステーション「Sun Blade」シリーズと、サーバ「Sun Fire」シリーズの出荷が始まっている。しかし、一方でUltraSPARC IIもまだ寿命が尽きたとは言えない状況だ。UltraSPARC IIIに全面的に切り替わるのはまだ時間が掛かるはずで、当然UltraSPARC II採用のモデルが継続販売されているのはもちろんだが、これに加え新世代であるはずのSun BladeワークステーションとしてUltraSPARC II搭載モデルを新発売する、という面白い戦略が採られたのだ。これが、米国で「$1000 Workstation」と噂されたSun Blade 100である。

$1000と言っても、さすがに国内では“10万円”とはいかなかったが、現在の円ドルレートを考えればまぁ納得できるというレベルの16万8000円という価格が付けられている(米国での最低価格は$995である)。また、Sun Blade 100は日本国内においてもSun Online Storeを通じて直販で購入できるようになっており、個人ユーザーにとっても大変入手しやすいモデルとなった。



Sun Blade 100

折角だから、ここで簡単にハードウェアの構成を紹介しておこう。CPUはUltraSPARC IIe-500MHzである。1世代前のCPUとはいえ、64bitのSPARCチップであり、十分実用的なパフォーマンスを発揮する。500MHzというのは、当然のように1GHzを越えているPentium III/4やAthlonなどのPC用CPUのクロックと比べてしまうと物足りなく感じてしまうが、まぁ直接比較できるものでもないのでその点はおいておこう。

メモリにはPC133のSDRAM DIMMを使用し、HDDはEnhanced IDE(ATA/66のようだ)と、コンポーネントの多くはPCと共通する。これも低価格化を実現する大きな要因となっているのだろう。ちなみに、メモリ128MB、HDD 15GB×1という構成での直販価格が、前述の16万8000円である。

キーボードとマウスがUSB接続になり、USBポート×4を装備。10/100BASE-TX EthernetとIEEE1394ポート×2も標準装備する。さらにフルサイズのPCIカードを3枚まで内蔵可能だ。ハードウェアとしては、最近の低価格PCと比べれば凝ったデザインになっているが、そう極端な違いとも言えないだろう。

なお、まもなく終了してしまうのだが、SDC(Sun Developer Connection)個人会員向けの特別販売キャンペーンとして、この16万8000円のSun Blade 100と統合開発環境であるForte C++ Personal Edition 6 update 1をセットにして19万8000円で販売している。キャンペーン期間は6月30日までなので、もう間に合わないかもしれないが、もともとForte C++ Personal Editionは30万円以上するソフトウェアだそうなので、これは大変なお買得価格であると言える。筆者が購入したのも、このキャンペーンモデルである。筆者はプログラム開発を行なうわけではないのでForte C++ Personal Editionがどうしても必要というわけではないのだが、どうせなら試しに買って使ってみよう、と思ってしまったのだ。キャンペーン戦略に見事に乗せられたと言えなくもない。

UNIXワークステーションの価値

筆者が始めて触れたSunのワークステーションは、SPARCstation 1+というものだった。ピザボックス型のしゃれた筐体で、CPUはUltraでもSuperでもないタダのSPARCで、まだ32bitだった。当時一般的なPCも今ほど安くはなっておらず、一式30万程度するのが普通だったが、その5倍程度、150万円ほどしたのであった。当然こんなものは個人所有できず、業務のために必要、という名目で会社が導入し、それを筆者が使っていたのである。当時の筆者は、「こんな凄いコンピュータを自宅にも欲しいものだ」と常々思っていたが、10年ほど経ってようやくそれが実現したわけだ。

ただし、当時の筆者にしても、別にSPARCマシンが欲しかったわけではない。どちらかというと、「SunOSが走るマシン」が欲しかったのである。筆者にとってはやはりコンピュータはソフトウェアを利用するためのハードウェアであったし、当時日常的に利用していたMS-DOS(多分Ver.3.1)と比べ、SunOS 4.1は使いやすさ、機能のいずれも比較にならないほど優れていると感じられたものだ。当時も、SCOなどを初めとしてPC用のUNIXはあるにはあったが、どれもあまり実用的とは感じられなかったし、なによりイメージとして「サブセット感」が漂うところが面白くなかった。「本物のUNIXが使いたい」というのは単なるブランド志向と言えるが、当時の筆者はそう感じていたわけだ。

しかし、今はどうだろう。PCの処理能力は飛躍的に向上した。Linuxも登場し、もはや「本物のUNIX」を云々する状況ではない。もちろん、Intel版Solarisも安価に入手できる(米国価格で75ドル、国内で購入する場合は円ドルレートに応じて変動がある)ため、PC上で「本物のSolaris」を利用できる。

Linuxの爆発的な普及と一般化により、UNIX系OSをPC上で利用することは特別なことでもなんでもなくなった。この状態では、かつての「UNIXワークステーション」が持っていた「プロのための特別な道具」というイメージも変わらざるを得ない。強力だが高価で、誰でも使えるわけではなかったUNIXワークステーションは、それが実現する機能(あるいは、どれほど仕事に役立つのか、という効能)を無視しても、単純にミーハー的憧れの対象となりうるコンピュータだった。しかし、今やその輝きはPC的コストパフォーマンスの波に洗われ、すっかり色褪せたようだ。

もはや、UNIXワークステーションと言うだけで特別視される状況ではない。今後は、SPARCマシンもPCと同じ土俵でコストパフォーマンスの勝負に飛び込まざるを得ないのだろう。Sun Blade 100の価格は確かにハイエンドPC並だ。というわけで、コストはともかくパフォーマンスはというと、性能はともかく、個人にとっては「PCに比べて使えるソフトウェアの少ないシステム」としか見なされない可能性がある。しかしながら、PCには持ち得ない独自のメリットとして「SPARCシステム間のバイナリコンパチビリティ」がある。大規模なサーバマシンで実行しているのと同じソフトウェアがそのまま動作するわけだ。もちろん、これを活かす用途としては「サーバで実行するためのソフトウェアを開発するための開発環境」ということになる。Sun Blade 100とForte for C++のセット販売キャンペーンは、極めて常識的な王道中の王道とも言える戦略というわけだ。

さて、UNIXワークステーションはこの先も生き残っていくのだろうか? PCとの差別化のポイントが「サーバとのバイナリコンパチビリティ」だけでは、今後も高性能化と低価格化が相対的に速いサイクルで進行すると思われるPCと同じ土俵で勝負を続けるのは厳しいようにも思われる。ただし、実のところこの勝負を避けて通ることはできそうもない。PCが「業界標準プラットフォーム」となり、あらゆるソフトウェアがその上に集積される状況であり、PCに比べて明確なメリットを打ち出せないハードウェアは存続が厳しくなると思われる。UltraSPARC III発表の後に旧世代であるUltraSPARC IIeを採用して新製品として登場したSun Blade 100は、一見後退した製品企画のようにも見える。しかし、実のところ「高機能高価格」路線から転換し、PCと同じ土俵で争うという新発想に基づく「新世代ワークステーション」の第1弾と見るべきなのだろう。SunがPC市場に向けて振り上げた刃は、名刀なのかなまくらなのか、この先の展開がどうなるか興味は尽きない。もちろん、既にSun Blade 100を購入してしまった筆者としては、これがなまくらであって欲しくはないと願っているのであるが。

渡邉利和

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