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【IDF Spring 2001 Vol.4】【総括】派手さが消えたのは景気後退の影響か?

2001年03月03日 00時40分更新

文● 塩田紳二

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IDF最終日(1日)である。さて、今回のIDFは昨年に比べると少々地味な印象を受ける。別にカバンが布袋になったからではなく、キーノートスピーチも、前回のように高クロックで動くCPUを自慢することもなく、単にGigabit Ethernetチップについてじっくり話すなど、かなり違った雰囲気を感じたからである。この雰囲気の原因は、言うまでもなく、米国の景気後退であり、.COM企業の凋落である。

ルイス・バーンズ氏
デスクトッププラットフォームグループのゼネラルマネージャーでもあるルイス・バーンズ氏

景気が悪ければ、モノが売れず、インテルのような製造業は大きく影響を受ける。そうなると問題になるのは効率を優先し、メインのビジネスへ力を注ぐことになるわけだ。インテルの場合、それはCPUである。今回、4つのアーキテクチャといったのも、すべてをプロセッサビジネスに結びつけるためでもあるのだろう。

最初のIBM PC
キーノートスピーチの舞台に置かれていたIBM PC。PC/ATではなく、最初のIBM PCである。これは、バスの進化の話の際にスポットが当てられた

最終日のキーノートスピーチは、副社長でデスクトッププラットフォームグループのゼネラルマネージャーでもあるルイス・バーンズ(Louis Burns)氏が登場。彼は、ISA、PCIといったいままでのパソコンの拡張I/Oインターフェースを振り返って、今後10年を見据えたより次世代の高速な標準的インターフェースが必要であるといい、次回のIDFまでにその予備的な仕様を決めると宣言した。もちろん,AMDの高速システムI/O技術“Hyper Transport”(コードネームLDT:Lightening Data Transport)を意識してのことだろう。しかし、市場としてもネットワークの帯域が上がり、CPUが高速化していくなかで、PCIに代わる新しい高速拡張インターフェース(※1)が必要となっているのも事実。プレゼンテーションを見る限り、パラレルバスではコストの問題から限界が見えており、シリアルバスとすることぐらいは決まっているみたいだが、そのほかは何も決まっていないように見受けられる(さらに将来は光ベースのインターフェースに移行するとしている)。しかし、次回のIDF(8月末)まで約6ヵ月。この間に仕様を決めようというわけである。ある意味、危機感の現れでもあるし、Hyper Transportに対する牽制でもある。

※1 編集部注:PCIを高速化した規格としてはPCIバスの標準化団体であるPCI SIGが規格化して提唱している“PCI-X”がある。現在PCI-Xで最も上位の規格では、バス幅が64bitでシステムクロックが133MHzというもので、バンド幅は毎秒1.06GBである。これに対しインテルは、バンド幅を毎秒10GB程度まで拡大できるようなものを想定している。

新インターフェースの必要性を示す表
これまでのインターフェースバスと流れと次世代バスの条件を説明。12GHzが銅線を使った伝送バンド幅の限界でそれ以上は光を使う。そこに到達するまでの今後10年をカバーする第3世代のバスインターフェースが必要だという。これは、シリアルバスで、ピンあたり最大10GHz以下のバンド幅でスケーラブルなものになる

もう1人は、エンタープライズプラットフォームグループのゼネラルマネージャーであるマイケル・フィスター(Michael J. Fister)。昨年の12月にサンプルが出た“InfiniBand”(※2)デバイスの世界初のデモや、“Ultra-Dense Server”と呼ばれる、小型マザーボードを使う高密度サーバーシステムを公開した。Ultra-Denseは、モバイル用プロセッサなどを使って基板を小型化し、19インチ標準ラックの高さ2Uのケース内に“Blade”と呼ばれる小型マザーボード8枚を内蔵できるようしたもの。昨日同様、どちらも地味といえば、地味。だが、どちらも確実なものといえばそうである。

※2 編集部注:InfiniBandはサーバー同士、あるいはサーバーとストレージやネットワーク機器とを高速に繋ぐ通信技術。このデモ時点でのバンド幅は毎秒2.5Gbitだが、将来は毎秒10GB程度にまで高速化するという。

マイケル・フィスター氏
エンタープライズプラットフォームグループゼネラルマネージャーのマイケル・フィスター氏
InfiniBandが適用できるところを示す図
大規模サイトの構造のうち、InfiniBandが適用できるところを示す図。InfiniBandは、高速なサーバー間接続(つまりケーブルを引き回すような領域)に最適なものだという
Ultra-Denseのロードマップ
Ultra-Denseのロードマップ。来年は、0.13μmプロセスのプロセッサと440MXまたは新しいチップセットを採用する予定だという
“Foster”のダイイメージ
サーバー向けPentium 4“Foster”のダイイメージとブロックの解説。大きな2次キャッシュをオンダイで持つ
サーバー向けCPUの説明図
Itaniumは“McKinley”において、大量のメモリを使う特殊なインターネットサーバーといった分野が従来マーケットに加えて立ち上がり、それが0.13μmプロセスで製造されるMcKinley“Madison”(ハイエンドサーバー向け)と“Deerfield”(サーバー向け)でひろがる予定だという

会場風景

今年も会場には、いわゆるコンセプトPCが展示されていたが、そのデザインも以前のものに比べれば、かなり大人しい。まあ、ちょっとデザインに凝った小型ケースという感じ。やはり、この辺りにも“地味”な雰囲気が漂っている。

コンパックのPocket PCに装着されたCFサイズのBluetoothインターフェースカード
コンパックのPocket PC(iPaq H3600)に装着されたCFサイズのBluetoothインターフェースカード(PCカードアダプタを使ってスロットに装着されている)。

また、XScaleでインテルがStrongARMにも力を入れ始めたせいか、会場内ではコンパックコンピュータのPocket PC『iPaq H3600』が目立つ。今回インテルもStrongARMを使った『Wireless Web Tablet』のコンセプトを発表している。また、以前より携帯電話向けのビジネスにも注力しており、うまくすれば、XScale(というかPersonal internet Client Architecture)は、大きなビジネスになる可能性がある。DEC(ディジタル・イクイップメント社。現コンパックコンピュータ)から買ったあと、一時は放っておかれた感があり、日陰的な存在だったStrongARMだが、これで第一線に復帰という感じだ。

Ultra-Denseシステム
上の横になっている部分が2Uサイズに4つのサーバーを格納できるUltra-Denseシステム

さて、キーノートスピーチにもあったUltra-Denseだが、会場内で展示が行なわれていた。Bladeは、Compact PCIのフォームファクタとコネクタなどを流用しているが、システム管理用のバスを出したり、端子の信号配置を変更するなどしてCompact PCIとは互換性はないという(ラックやレールなどは流用できるらしい)。開発は、インテルが昨年買収した米Ziatech社という企業の技術をベースにしているようだ。Bladeには一通りのインターフェースがあり、メモリなどは直付け、HDDと電源を載せれば、完全に独立したサーバーになる。これを匡体内に複数(現在では、1つのバックプレーンに最大64ユニット接続可能だという)組み込むことで、多数のサーバーを高密度に配置できるわけだ。現在、薄型のサーバーが流行りで、米サン・マイクロシステムズ社が米コバルト・ネットワークス社(※3)を買収するなど、競争が激化しているわけだが、インテルは、単位体積当たりのサーバー数を上げることでこの分野に本格参入するわけである。2Uに4サーバーなら、1Uサーバーに対して4倍となり、同じラックであれば、より多くのサーバーを詰め込めるわけである。

※3 編集部注:コバルト・ネットワークスの製品では小さな箱形の“Cobalt Cube”が有名だが、ラックマウント向けの薄型サーバーも提供している。

Ultra-DenseのBladeUltra-DenseのBlade。ここにHDDを付ければ、それだけで1台のサーバーになる。下に見えているアルミのヒートシンク部分がCPUで、基板上の部分に並んでいるのがメモリ(直付け)である

地味な印象となった“IDF Spring 2001”だが、米国の景気後退は始まったばかりで今後はどうなるかわからないところがある。ダメなのは.COM企業だけという楽観的な観測から、世界的な経済の冷え込みを予想する悲観的なものまであり、はっきりいってシロウトには予想も付かない世界である。しかし、これがPCマーケットやインテルなどの企業に影響を与えることは事実で、経済動向によって、次回も地味なのかもしれないし、派手になるのかもしれない。地味だからダメということはないのだが、一般ユーザーがワクワクするような話というのは、えてして“派手”なものであり、その意味では、今年はインテルだけでなく、地味な1年になるのかもしれない。さて、この地味な時期の勝者とは誰なのだろうか? いつになるかわからないが、景気回復の兆しが見えたときに一番先に飛び出すところが、この冬の時代の勝者なのであろう。

コンセプトPCその1
今年のコンセプトPCは、矩形をベースにしており、いままでの突飛なものに比べるとずいぶんと“地味”。だが、その分、すぐにでも手に入りそうではある
コンセプトPCその2
コンセプトPCその2
コンセプトPCその3
コンセプトPCその3
『Wireless Web Tablet』
StrongARMを使った『Wireless Web Tablet』。そういえば、米トランスメタ社も『mobile Linux』と組み合わせてこんなコンセプトを出していたようだが、やはり対抗上インテルも出したのか?

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