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【COMMENT】証券化技術の活用による資金の運用・調達の円滑なるマッチング――(財)日本資産流動化研究所の研究部長

1999年08月30日 00時00分更新

文● (財)日本資産流動化研究所研究部長 小野浩二

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中小企業、ベンチャー企業を活性化することで、日本経済を再生しようという動きが出ている。中小企業への貸し渋りを解消して、資金面での不安を減少させ、積極的に活動してもらうことで、経済の閉塞状況を打破する。こうした産業側、行政側の要請に対し、金融機関の側では、中小企業向け融資に対する公的保証の拡大などを見返りとして求めている。(財)日本資産流動化研究所の研究部長である小野浩二氏は、それら企業への債権を、優先(ローリスクローリターン)部分と劣後(ハイリスクハイリターン)部分とに分けることで、公的保証などの要らない仕組みを作ることを提唱している。中小企業庁債権流動化研究会委員、(社)日本証券アナリスト協会検定会員でもある小野浩二氏の寄稿をお送りする。

編集部注:小野氏の主張を、編集部なりにまとめてみた(文責は編集部)。

ベンチャー企業への融資によって、産業を振興しようとしているときに、金融機関が公的保証を求めている。公的保証を実施すると、貸し倒れが起きた(中小企業が返せなくなった)際、公的機関がかわりに銀行に返済する。公的保証を導入すると、中小企業が銀行に返済する際の利率は、真にリスクを配慮した利率(独立採算で、貸し倒れが貸したものの責任であるとしてそれを見込んで算出された利率)より、確かに下がる。しかし、その下がった部分は、銀行の自助努力ではなく、税金で充当されていることになる。

小野氏の提唱する仕組みでは、中小企業への融資債権を多数集め、集めた後、優先部分と劣後部分とに分ける。その状況に関する情報を詳細に開示して、投資家を募る。

世の中には、定期預金のようなローリスクローリターンの資金運用手段もある。しかし、投資家のすべてが、そうした手段を求めるわけではない。実際、株式投資や株式会社設立の際の資本参加のように、ハイリスクハイリターンで勝負している投資家がたくさんいる。定期預金との株式投資と間に、ローリスクローリターンからハイリスクハイリターンまで、投資商品があってよい。以前だと、優先部分と劣後部分とに分けて、それぞれの適正利率や危険度を算出するのは非常に困難であったが、コンピューター利用技術の発達により、多数の債権のブレンド、分離、評価などが容易になった。

(1)中小企業・ベンチャー企業の資金調達手段としての証券化手法

中小企業・ベンチャー企業の資金調達の手段として証券化スキームを使った直接調達手段への期待が高まってきている。今般、筆者が委員の委嘱を受けた中小企業庁債権流動化研究会は7人の委員のほか通産省、法務省、大蔵省等の関連省庁の有識者もオブザーバー出席し、証券化スキームを使って中小企業の資金調達手段を多様化しようとすることを目指している。さる8月26日に第1回会合を開催し、12月まで6回、会合を開催し、取りまとめる方向である。

また、都庁でも中小企業向け債権流動化の専担部が設立され筆者も2度(6月と7月)講師として招へいを受け、私見を開陳しているところである。同部において9月3日を目途に金融機関からの提案を徴求中である。また、私が勤務する(財)日本資産流動化研究所でも私自身事務局長として9月中に中小企業向け債権流動化の委員会を発足させ、来年3月に報告をまとめることとしている。

中小企業向け融資は本来の銀行業務の主流であるべきものである。米国などの例を持ち出すまでもなく信用リスクの小さい公共企業や電力会社、大手自動車・電機メーカーなどは本来銀行融資に頼らなくても直接金融市場において株式や債券の発行により事業資金を調達することができるわけであり、間接金融の主力が“投資不適格”な水準の企業体に対する融資にあることは明瞭である。直接市場で投資適格とされた企業は金融仲介の手数料を払って銀行融資に頼ることなく資本市場を通じ安価なファイナンスの機会が確保でき、投資家の側からは、銀行預金よりも高い利回りが確保できるわけであり、あえて銀行の金融仲介機能に頼る必要はない。

個別にはリスク高くて、一見しただけでは安全な投資対象とはいいがたい先に対し、個別の与信判断を行い必要によっては、担保等の徴求や所要の保全措置を講じることで一定のリスクの範囲に押さえることが可能な場合が、銀行の出番である。すなわち預金者から広く預金を集めこれをリスク・リターンに応じて、適切なスプレッドを上乗せした貸出金利を設定し、このスプレッド部分を保険料として大数の法則を働かせて、ポジティブなポートフォリオを構築するわけである。その意味で銀行そのものが与信審査を伴う“広義証券化”ビークルであるはずなのにその役割を果たしてこなかったといえる。銀行本体の資産ポートフォリオが痛んでいる今、銀行経由の資金調達よりも銀行とは別の金融仲介機能が求められるのかもしれない。

編集部注:スプレッド=100社に5.0パーセントの金利で貸すとき、そのうち2社について貸し倒れになる確率があるとする。このとき全社に5.1パーセントで貸せば、2社から返済されなかったとしても、100社全部が5.0パーセントできちんと返したときと同じ利息総額が得られる。

中小企業向けの債権の証券化は、特定債権法によりある意味では部分的にすでに実現しているともいえる。特定債権法とは、リース・クレジット等の特定債権等の流動化の為に'92(平成4)年に制定された法律である。特定債権法による証券化手法を用いると、リース・クレジット等の特定債権に限定されるが、次のようなことが可能になる。基本的には原債務者が中小企業・個人等の小口の債権(通常数十万円から数百万円単位)をプールして、これに大数の法則によるリスク分散の仕組みを働かせ、これに優先劣後構造やスプレッドアカウント等の内部信用補完あるいは保証、差し替え等の外部信用補完を加えることにより、原債務者のデフォルトにも拘らず、最終的な優先投資部分は十分に高い信用力を誇るスキームである。他の確定利付き商品よりも同程度のリスク水準で高い利回りを提供している。当初('93[平成5]年度)の年間2000億円強の流動化実績が'98(平成10)年度には4兆円を超える水準にまで拡大している。

編集部注:優先劣後構造=ローリスクローリターン部分とハイリスクハイリターン部分とを分けた構造。デフォルト=返済延期

(2)現行の年金制度に代わる証券化技術を使った生涯保証制度

また、現在の年金制度に替えて、証券化技術を使った現行の年金制度に代わる生涯保証制度の提言を個人的には行なっている。この仕組みは基本的には、不動産その他一定水準の財産を信託する。この信託運用により、大数の法則によって、個人の存命中の支払金額の肥大化リスクを分散する。さらに受益者(一般には当該信託を行なった夫婦)が死亡した後は、相続は行なわない(放棄)ことによる信託財産の充実が特徴である。払い込みも給付も現行の保険にも年金にもない概念である。

この信託財産の運用と相続放棄により、仮に予想外の長生きをすることによって莫大な支出増が発生しようとも、いかなるインフレ・デフレが発生することによるファンドの負担増の発生が生じようとも、余生のすべての間に必要とする文化的な水準の住居、最高の医療、一定水準以上の生活に必要な資金等一切を存命中、信託財産から配当として受け取る権利を有するものである。

この場合、年金額は一定の金額(あるいいはこれに物価スライドするもの)ではなく、一定の文化的水準の購買力を維持することを前提として給付額が決定するものである。また、住居も単なる面積ではなく、社会全体の生活水準の改善に応じて改善した水準を保証するものである。すなわち、ある年齢で、一定財産を信託する事により、終生の文化的経済生活の保証を得るものである。

(3)その他の検討事項

ちなみに財団法人日本資産流動化研究所では、本年度は中小企業企業向けの資金調達手段の多様化に関する委員会の他、破綻事例の研究委員会、投資者の拡大に関する委員会、ストラクチャリングの多様化に関する委員会の他、PFIや無体財産権から生じる将来のコンティンジェントなキャッシュフローをもとにした証券化商品の研究委員会を研究活動の一環として実施することとしている(いずれも筆者が事務局長、予算は措置済み)。

(財)日本資産流動化研究所研究部長の小野浩二氏
(財)日本資産流動化研究所研究部長 小野浩二氏
電子メール: ono@sfij.or.jp(職場)、onokouji@mxd.mesh.ne.jp(自宅)

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