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ダイナミックな動きが地域のパワーにつながり情報教育を高めていく--第3回ひょうご情報社会セミナーから

1999年05月17日 00時00分更新

文● 野々下裕子、

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3月8日、姫路キャスパホールで“第3回ひょうご情報社会セミナー”が開催された。3月中、兵庫県では、6日に実施された“NetDay'99”を皮切りに、さまざまな地域で“Net Day”が独自に開催された。兵庫ニューメディア推進協議会代表幹事の光森史孝氏は、そうした状況を開会のあいさつで伝えるとともに「次の世代を担う子供達に情報ネットワークを受け継いでいけるか」と述べ、インフラや情報リテラシーなどの課題を投げ掛けた。

電子メールを出し続けて不登校解消

基調講演では、東京工学大学工学博士の赤堀侃司教授が、昨年10月から始まったみずからの活動をはじめ、今後の情報教育のあり方について語った。

 東京工業大学の赤堀教授は基調講演で「情報教育とインターネットとは、独立して議論するものではない」と語った
東京工業大学の赤堀教授は基調講演で「情報教育とインターネットとは、独立して議論するものではない」と語った



その活動の1つは、6台のノートパソコンを不登校生の各家庭に設置したというもの。最初はまったくメールが来なかったが、センターの指導員の協力によって1ヵ月後にメールが届くようになった。そして、毎日メールを送るうちに、やがて学校へも行くようになったそうだ。なかなかメールを出せなかった小学6年生の女子生徒も、パソコンのマニュアルを父親と読むうちに親子のコミュニケーションにつながり、やがてメールが出せるようになった。

同氏は「情報教育とは何がいいかではなく、どうやって活用できるか。それは学校の取扱い方にも問題がある」という。「教科と現実の結びつきを意識させる大切さを生徒に教えることが必要。それには、レポートを発表させるといった、情報活用能力を意識することも大切である」--。

また、道具(メディア)に自由に触れさせ、古い機種でも有効に使うことも大切であるという。「例えば、ある小学校ではコンピューターを廊下に置いて、子供たちに自由に触らせている。特に図書館は、一番インターネットの口を設けてほしいところ。インターネットは、つないだだけでもそこに人間がいる。ネットワークは使い方によって良い道具にも、人を傷つける道具にもなる。それをどう活用するかはまだまだ始まったばかり。情報教育とインターネットは独立して議論するものではない。今後はそうした問題も突き詰めていかねばならないだろう」--。

子供たちは海外と交流したがっている

後半のパネルディスカッションでは、兵庫ニューメディア推進協議会地域情報化策専門部会の山本誠次郎氏をコーディネーターに、兵庫県神崎郡福崎町立福崎小学校教諭の松本正樹氏、姫路市立教育研究所の木南芳典氏、テレクラス・インターナショナル・ジャパン代表の高木洋子氏、フリーライターの釘田寿一氏、そして赤堀侃司教授が参加した。

パネルディスカッションに参加したパネリストの方々
パネルディスカッションに参加したパネリストの方々



冒頭で山本氏は「コンピューターを導入している学校が全国で96.9パーセントなのに対し、兵庫県は99パーセント。ほぼ100パーセントなのにもかかわらず、指導する立場は低い。子供たちは他の地域と交流を図りたいと思っているが、学校では情報化の実用性を感じていない先生が多い。先生の意識改革も必要ではないか」と述べた。

それに対し、松本氏は、学校での情報化活動について報告。昨年10月まで5台だったコンピューターを、ほんの5ヵ月でネットワークコンピューター21台に増やし、さらにホームページの公開も実施したと伝えた。特に「はりまこども風土記わんぱくちびっこ情報団まつり」に参加したのを機に学校は大きく変化し、NTT主催の「こねっとプラン」への参加で、さらに環境が整うようになったという。

ホームページを見せながら解説する兵庫県神崎郡福崎町立福崎小学校の松本教諭
ホームページを見せながら解説する兵庫県神崎郡福崎町立福崎小学校の松本教諭



また、親子コンピューター教室の開催や、九州やハワイの学校との交流など、交流を大切にした活動によって現場を組み上げてきたという。「しかし問題は山積み。教員がどうあるべきか、カリキュラムの編成、情報化についても、交流で何とかならないかと考えている」

「母親と教師との協力が必要」

続いて木南氏からは、姫路市全体の情報教育についてのデータなどが公開された。同氏はその中で、教師が助言者・支援者となること、縦社会から横社会への変化を認識すること、こうした変化について地域社会が理解することが必要と述べた。それらの延長上としてコンピューター、情報通信ネットワークの活用の充実を目指していると説明した。

姫路市立教育研究所の木南芳典氏は市内の小学校の情報化に関するデータを紹介
姫路市立教育研究所の木南芳典氏は市内の小学校の情報化に関するデータを紹介



具体的な活動として、教師を対象としたコンピューター教室を実施。生徒たちを指導する教師たちからコンピュータに対する恐怖心を取り除き、子供たちに教えてもらうぐらいの心づもりになってくれれば、との期待を述べた。「とにかく現状としてはインターネットにつながらなければ、次のステップにも進めない状況。そのためにも今後は有識者の方々の支援も求めていきたい」--。

高木氏からは、学校の現場を離れた視点から、情報教育に関する現状が紹介された。なお、同氏は6日に神戸、伊丹、赤穂、バンクーバーをつないだ“Net Day'99”の総合司会を勤め、さらに13日に行なわれた、スクールズ・オンライン・ジャパンでのテレビ会議にも関係している。

テレクラス・インターナショナル・ジャパン代表の高木氏からは、実際のテレクラスの風景を映したビデオも披露された
テレクラス・インターナショナル・ジャパン代表の高木氏からは、実際のテレクラスの風景を映したビデオも披露された



こうした現場では、それぞれの立場の人たちが学校の仕事に参加していこうとする意気込みを感じるが、まだ、どうやって参加すればいいかといった情報が不足している。また、女性の参加者があまりにも少なく、今後は母親らが教師と積極的にペアを組んで、取り組みを行っていけばいいのでは、といった提案を行った。また、“アイアーン”という、世界的な教師のオフラインミーティングを例にあげ、地域と教育が結びついていく大切さを語った。

また高木氏は、英語教育もこうした遠隔コミュニケーションが援助になるという。「それにはまずお互いの違いを認識すること。ものごとには必ずしも正解があるのではなく、千差万別の考え方があることを身を持って知る必要がある。そのためにも相手の顔を見て、声を聞く、直接的なコミュニケーションが有効なのです」と語った。

“Net Day”で教師が生まれ変わっていく

ライターとして、また、NPOとして“ネットワークサポートセンターin関西”を組織している釘田氏は、3月時点で、“Net Day”マニュアルを作成中であった。“Net Day”の中心は生徒、先生、保護者だが、それらの支援をボランティアとして行なうことが重要だという。“Net Day”では事前準備が大切で、それらを地域の人たちが手伝うことで金銭的にも将来的にも大きな支えにつながっていく。例えば、伊丹の小学校でネットワークの敷設工事を行なっていたところ、その次に“Net Day”を行なう氷上郡からボランティアに駆けつけたというように。

フリーライターの釘田氏はNPOとして“Net Day”支援も行っている
フリーライターの釘田氏はNPOとして“Net Day”支援も行っている



「ネットワークの大切さは、引いて、使ってみるまでわからないもの」と釘田氏は語る。「手作りの作業で生まれる“Net Day”では、先生方が生まれ変わっていく。それが街づくりにもなっていくのです」。

会場には教師をはじめ、民間企業やNPO団体など、さまざまな立場の人たちが参加しており、この地域での情報教育に対する関心の高さをうかがわせた。特に会場からの質問が白熱し、セミナーは30分も延長されこととなった。「ボランティアたちとはどうしてコンタクトすればいいか」、「メディアコーディネーターの必要性をどう考えるか」といった質問が出された。中には「“Net Day”のような活動によって生じる学校格差をどう考えるか」といった厳しい質問もあった。それに対してパネリストからは、「ダイナミックな動きこそが地域のパワーにつながり、将来的な格差を解消することになるのでは」といった回答がなされた。

会場からの質議応答も白熱
会場からの質議応答も白熱



いずれにしても情報教育については、行政と現場とが、まだまだかけ離れた状態にある。そうした状況を“Net Day”のような活動が少しでも解消していくことになるのでは。そんな期待を感じさせるセミナーであった。

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