日本電気(株)は、現在のスーパーコンピューターに比べて飛躍的な演算能力の向上が見込めるという量子コンピューターの基本回路(ゲート)を、固体電子素子によって世界で初めて実現したと発表した。
日本電気(株) 基礎研究所長の小林功郎氏 「トランジスタのゲートを微細にしていくと、量子力学の波の影響を受け始める。最近は量子力学の研究は盛んになってきた。次世代コンピュータとして一番大きな研究となるだろう」 |
量子コンピューターは、すべての物質が持つ粒子と波の性質のうち、波の性質をコンピューターの演算手法として応用する“量子計算”を行なうコンピューター。この量子計算技術を利用すると、膨大な時間がかかる計算を極めて効率的に行なえると予測されており、たとえば、現在のスーパーコンピューターで10兆年かかるとされる200桁以上の数の素因数分解を、数10分で終了できると考えられている。
量子コンピューターは今まで、分子や冷却された原子レベルでの量子ゲートによって、量子計算の動作原理が確認されているが、分子/原子系は設計や取り扱いが難しく、これらによってコンピューターを構成する集積回路を実現するのは非常に困難であると考えられていた。
今回同社では、シリコン基板上のアルミニウムで構成された0.7μmの超伝導回路を極低温で動作させることにより、量子コンピューターに必要な量子ゲートと同じ動作をすることを、実験により実証したという。固体電子デバイスを使って量子ゲートを実現できたことで、シリコンなどの基板上に集積化するといったことが期待でき、量子コンピューター実現への大きな前進であるとしている。
科学技術振興事業団 基礎研究推進部長の臼井勲氏 |
この研究成果は、科学技術振興事業団*1の戦略的基礎研究推進事業の1つとして研究されている“金属微細トンネル接合システムの物理と素子への応用”(研究代表者:大塚洋一筑波大学教授)の一部として、NEC基礎研究所の研究員が行なったもの。
*1 科学技術振興事業団:科学技術情報の流通、研究交流に関する業務を行ない、科学技術の振興のための基盤の整備を図るとともに、新技術のための基礎的研究ならびに新技術の開発、およびその成果を普及させるなど、科学技術の振興に寄与する事業を行なう特殊法人
説明する日本電気(株)基礎研究所曽根純一マネージャー 「実際に市場に出るにはあと10年はかかるだろう」 |