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【世界ソフトウェア&テクノロジー会議2000 Vol.2】各国のTLO事情を紹介 日本の技術移転は成功するのか

2000年07月28日 00時00分更新

文● 野田ゆうき

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7月25日と26日の両日、岐阜県大垣市のソフトピアジャパン(*)で開催された“世界ソフトウェア&テクノロジー会議2000”の基調講演に続き、午後に行なわれたパネルディスカッションの模様を報告する。

テーマは“国際的技術移転と産学官連携の可能性”。パネリストとして、慶應義塾大学教授・慶應義塾大学知的資産センター所長の清水啓助氏、通商産業省サービス産業課長の加藤敏春氏、中国上海交通大学教授・ハイテクノロジー産業室長 の丁文江氏、トリニティーカレッジダブリン・イノベーションサービスディレクターのE. オニール氏の4氏が参加した。パネリストからは示唆に富んだ発言が相次いだ。

ソフトピアジャパン(*):“高度情報基地ぎふ(情場)”づくりの中核拠点となるべく大垣市に作られた情報産業団地。会議は隣接する大垣市情報工房で行なわれた

コーディネーターは、NHKの藤田解説委
コーディネーターは、NHKの藤田解説委



TLOはバイ・ドール法から始まった

清水(発言者の敬称省略)「TLO(*)は、アメリカで、'80年のバイ・ドール法(*3)が契機となってできたもので、大学で生まれたものを社会に生かすためのメカニズムです。日本の企業は、外国の大学にはお金を出して提携するのに、国内の大学とは協力体制がないのが現状です」

TLO(*):Technology Licensing Organizationの略。大学に埋もれている研究成果を、民間企業が実用化できるように技術移転を手助けする機関

(*3)'80年に制定された“連邦政府の資金で行なった研究であっても、特許は大学に帰属させる”という法律。これにより多くの大学にTLOができ、ベンチャーの設立が加速された。最近になり、TLOの成功によって大学にもたらされる知的所有権のライセンス料を見て、連邦政府はこの法律を苦々しく思っている

加藤 「産学官の連携には、シリコンバレーにも存在したビジネスエコシステムを作ることが必要です。テクノロジーネットワーク、ビジネスネットワーク、ネットワーク・オブ・タレンツが三位一体になったものです」

「テクノロジーネットワークの課題は、TLOが民間企業にどう技術をマーケティングするか、弁理士をいかにプールするか、そして地域とどう密着させていくのか、です。ビジネスネットワークとしては、企業のアウトソーシングの流れをつくることが必要です」

「ビジネスは今、構造的な転換期にあり、従来の下請けへの流れが横請けへ変わりつつあります。そして人材の流動性を保つことです。知識の流れによって国際競争力は保たます。これこそが、スタンフォード大学の最大の秘けつでもあったわけです」

慶應義塾大学では知的財産概論の講座も担当する清水氏
慶應義塾大学では知的財産概論の講座も担当する清水氏



大学がインキュベーターになっていく

丁 「上海交通大学では、良いアイデアを支援して、特許出願を促進しています。大学はアイデアと人材の両面で産業に貢献しています。企業を作ることも行なっています」

藤田 「大学内での研究と産業について、日本ではどうなっているのでしょうか」

加藤 「大学がインキュベーターになっていくのは世界的な現象です。日本にもようやくその発想が出てきた。テクノロジートランスファーという形だけにとらわれず、アイデア、人材の集積に取り組むべきだ」

藤田 「TLOの管理している知的財産の中に民間が望むものがあるのでしょうか」

清水 「企業としてはただちに使いたいのだが(実際には難しい)。バイオやITは民間に移転しやすいでしょう」

加藤 「ただちにという技術はなかなかない。共同研究という形をとる場合もありますね」

企業の研究員として1年間日本で過ごした経験を持つ丁氏
企業の研究員として1年間日本で過ごした経験を持つ丁氏



研究者の競争を促進する効果も期待

藤田 「ヨーロッパは競争を促す雰囲気があるようですが」

オニール 「EUのなかにその意識はあります。そのような競争原理の末にベストなものが選抜されて残ります。そこに資金が与えられます。そのため、よりよいチームづくりが重要になります」

加藤 「日本では、まだ“本物の研究者”志向が強いので」

壇上には5人だけだが、会場はほぼ満席の状態だった
壇上には5人だけだが、会場はほぼ満席の状態だった



技術移転のコツとは一体なにか?

藤田 「技術移転を上手にするためには何が必要でしょう。とくにサイエンスパークやインキュベートはどう働くのでしょう」

オニール 「アイデア(大学)と企業の間に仲介者を入れることです。そのシステムは、地元に合致したもでなければなりません。うまくいっている例を見ていくことが重要です」

丁 「一番重要なのは大学。そして、“官”と“産”も、それそれの役割を発揮しなければなりません。ソフトピアは、よい“官”の良い例です。“産”ではベンチャーの資本を作ることが重要です」

清水 「人材の流動性と評価が鍵です。そうすれば、大学、企業両方を変えることが可能になります」

藤田 「今の日本経済は出口を見失っていたようです。産学官が連携した新しい動きに期待しましょう。今日はありがとうございました」

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