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人気サイトを本へ――新タイプの出版社“ウェブリッシャーズ”、関西ベンチャー4社が提携

2000年07月17日 00時00分更新

文● ジャーナリスト/高松平藏

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このほど、関西のベンチャー企業4社の提携で新しいスタイルの出版社(株)ウェブリッシャーズが生まれた。人気サイトを編集の上、実際の書籍として出版するビジネス。販売はネットを中心に展開する。今月21日には、最初の作品『モーハワイ★コム』を出版する。今年度は20タイトルの出版を目指す。

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ウェブリッシャーズのホームページ。読者からのメールなどを手掛かりに、“読者が欲しい本”を出版する出版社を目指す。画面をクリックすると拡大



“リアル”と“ネット”を結びつけるビジネス

同社が設立されたのは7月4日。関西のネットベンチャー関連の交流会“フロンティア”に昨年12月、4社が参加したのが設立のきっかけ。提携企業は下記のとおり。

・(株)イープロジェクト(兵庫県三田市、江藤誠晃社長)
街づくりのコンサルタンティング、観光開発企画のプロデュースなどを行なう。江藤氏自身、作家の顔も持ち、『ハート島への招待状』などの著作がある。ウェブリッシャーズの代表取締役

・(株)ケイオス(大阪市、勝見博光社長)
同じく、街づくりのコンサルティング、行政のPR関連事業を行なう

・(株)サン・コミュニケーションズ(京都市、菅英二郎社長)
サーバーレンタルやネット関連のシステム構築を行なう

・(有)ボーナスプレス(京都市、小笠原治社長)
ウェブサイトのほか、書籍や広告の企画、デザイン、製作を行なう編集プロダクション

昨今、個人の表現の場、情報発信の手段としてインターネットが気軽に活用されている。ネットの世界には人気の高いサイトが多数あり、ユニークなコンテンツも多い。ところが書籍という実際の“モノ”にコンテンツ展開をはかるにはまだまだ敷居が高い。そこでこういったサイトを実際の本として出版してはと江藤氏が提案。社の設立につながった。「出版に対する思い入れを皆持っている。これが事業に対する共通の動機だ」(勝見氏)。

ウェブ運営のコンサルティングを手がけることも

同社が行なうサイトの書籍化といっても、ウェブコンテンツをそのまま書籍展開するわけではない。ウェブマスターを支援しながら、コンテンツの面白さを書籍用に再編集していく。したがって、結果的に書籍はウェブマスターやサイトに書き込みなどをしている人たちの書き下ろしのかたちになる。販売は当面ネットを中心に展開する予定。ネット販売の場合、お客は中身を吟味して購入できないため、到着2週間以内なら返品可能としている。

そんなウェブマスターに求められるのは、文章力そのものよりも、コミュニケーション能力。「サイトで一定のコミュニティーを創っていることが最低限の条件だ」(同氏)。一種のカリスマ性をウェブマスターが持っているということは、コンテンツそのものに魅力があるという判断材料になるからだ。

「IT全盛の時代にあって、モノにこだわる」と出版にかける意気込みを語る江藤誠晃氏
「IT全盛の時代にあって、モノにこだわる」と出版にかける意気込みを語る江藤誠晃氏



さらに、サイトのコミュニティーに着眼することで、経営上のリスク回避にもつながる。サイトのファンが多ければ多いほど、出版の際、最低購入者数が把握できるからだ。小部数でもある程度、確実に売れる可能性のある書籍出版が可能になる。ちなみに今月21日発売予定の『モーハワイ★コム』の発行部数は5000。同書籍の元になったサイトは1日あたり1万8000件のページビューを誇る人気サイトだ。

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人気のサイト、『モーハワイ★コム』画面をクリックすると拡大



江藤氏によると、ネット上の“カリスマ”探しが重要だという。ある程度支援で、ネット上でコミュニティーを創造できる可能性があれば、「ウェブ運営のコンサルティングを手がけることも考えられる。いわば出版プロデュース業だ」と業務形態を位置付ける。今後は既存の出版界では出てくることが少なかった学生、主婦などから逸材を発掘していく方針だ。

ブランド戦略、カギはスピード経営。とにかくタイトル数を

同社が出版社としてユニークなところは、サイトのコンテンツに着目したことにある。これによって既存の出版社とは競合しないニッチ(隙間)コンテンツを見出し書籍化していくかたちだ。

ところが、一方で人気サイトを書籍にするというアイデアそのものは「きわめて参入障壁の低いビジネスだ」(江藤氏)。ちなみに今月10日、米Cyveillance社が発表した現在のホームページが世界で21億。玉石混交とはいえ、コンテンツそものも増えつづける一方にある。

これに対して、同社はブランド戦略をとる。書籍化のもとになるサイトが面白いか、面白くないかという最終的な判断は「今のところ、肌感覚の勘」(同氏)。しかし、独自の勘を手掛かりに多数のタイトルを出版することで、ウェブリッシャーズのカラーを創出していくことが可能だ。それぞれの本のジャンルは異なっても同社のカラーが通奏低音のように流れるシリーズに育て上げたいという。「そのためには、とにかくタイトル数だ」と江藤氏は戦術を語る。

同社は来年度は200タイトルの出版を目標にしており、発掘から出版プロモーションまで手がける編集者のネットワーク化を進めている。質とスピードの維持がブランド確立までのカギといえそうだ。

21日発売予定の書籍『モーハワイ★コム』。『楽園シリーズ』の第一弾
21日発売予定の書籍『モーハワイ★コム』。『楽園シリーズ』の第一弾

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