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JCA-NETがICANNの概要や理事選挙をテーマにNGOの視点で学習会

2000年07月06日 00時00分更新

文● 若菜麻里

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市民団体のJCA-NETは4日、東京都内で学習会“ICANNの基礎知識:インターネット政策の問題点と世界の市民運動の潮流”を開催した。ICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)とはどんな団体なのか、また7月14日から横浜で開催されるICANNの国際会議や、今年10月の初の理事会選挙などを間近に控えて、市民としてどのように関わっていくべきか、NGOの取り組みが紹介された。講師は、ICANN DNSO Names Councilの一員で、(社)日本ネットワークインフォメーションセンター(JPNIC)国際関係検討部会に所属する堀田博文氏と、富山大学の教官でJCA-NET理事の小倉利丸氏。

堀田博文氏(写真手前)と小倉利丸氏(写真後)
堀田博文氏(写真手前)と小倉利丸氏(写真後)

。「PIN番号が郵送されてくるのに若干時間がかかるようなので、一般会員への登録は7月上旬に行なう方がよい」と、堀田博文氏。「IPアドレスやドメイン名を管理されるということは、情報発信するユーザーの自由に、どの程度抵触するのか見極めることが必要だ」と、小倉利丸氏

ICANNが注目されつつある背景

この学習会はICANNの入門講座ということで、ICANNについてほとんど知らないが関心はあるというインターネットの個人ユーザーらが参加した。ascii24でもICANNの情報は逐次お伝えしているが、今回こうした学習会が開催された背景のひとつには、7月のICANN横浜会合が挙げられる。また10月の理事選挙では、日本人として慶応義塾大学環境情報学部教授の村井純氏が候補として上がっていること、投票はインターネットユーザーなら誰でも可能だが、7月中に“At-Large”と呼ばれる一般会員に登録する必要があることなどから、ホットな話題になっている。

主催者のJCA-NETとしては、日本ではICANNに対する認知度や取り組みがまだ十分でないとして、市民の立場からその理解を促すために企画した講座だ。まず堀田氏は、ICANNの概要および最近の動きについて説明した。
 
ICANNというのは、インターネットのドメインネームとIPアドレスの割り当てに関する非営利公益法人で、本拠地は米国カリフォルニア州ロサンゼルス。設立は'98年10月。それ以前のインターネット資源の管理は、米国政府が南カリフォルニア大学の一組織“IANA( Internet Assigned Numbers Authority)”などに委託していた。しかし、インターネットの世界的な普及ともに以下のようないろいろな問題が出てきた。

(1)IANAの法的な権限や責任範囲が不明瞭であること、また米国以外の国において意見を反映するのが困難なこと、米国にコスト負担が集中している、といった体制的な限界
(2).comにおける商標の問題で、ドメイン名と商標の扱いをめぐって異議や訴訟が頻発
(3)IPアドレスの不足

といった問題である。それらを解消するために、国際的総意に基づく非営利の民間組織として設立されたのがICANNである。世界をヨーロッパ、アジア・オセアニア、北米、中南米・カリブ海、アフリカの5つの地域に分割し、その地域から公平にICANNの代表を選出するという。また、民間組織ではあるが、各国政府は助言委員会のメンバーとして参加する。

「インターネットの安定運用のため、公平で効率的な資源管理ポリシーを調整するのがICANNだ」と堀田氏は説明し、「ポリシーは作るわけではない。しかしポリシー抜きに技術的な決め事はできないので、どこまでポリシーに立ち入るのか微妙なところだ」と補足した。

I「商標権のトラブルとしては、dior.orgというサイトで クリスチャン・ディオールでない会社がハンドバッグを 売っていた例がある。ICANNでは、WIPOなど4団体に こうした紛争解決を委託しており、ドメイン名を変更す る結果になった」と、堀田氏I「商標権のトラブルとしては、dior.orgというサイトで クリスチャン・ディオールでない会社がハンドバッグを 売っていた例がある。ICANNでは、WIPOなど4団体に こうした紛争解決を委託しており、ドメイン名を変更す る結果になった」と、堀田氏



選挙を控え、会員登録が集中

ICANNの一般会員“At-Large”には、メールアドレスを所有し、16歳以上で、住所が確定している人なら、誰でも無料で登録できる。登録はウェブで行ない、郵送でPIN番号と呼ばれる暗証番号のようなものを受け取ったら、再度ウェブにアクセスし、PIN番号などを入力すれば完了だ。7月中に登録すれば10月の理事選挙の投票権が得られる。登録が集中しているからなのか、「登録サイトが混んでいるのか、アクセスできない」、「3週間待ってもPIN番号が送られてこない」というような声も聞こえてきた。なお理事の定員は19名で、そのうちの5名が今年の10月1日にAt-Largeによる投票によって決定する見通しだ。

堀田氏は、「ICANNは人類史上はじめての民を中心とするグローバルな意思決定の仕組み」として、インターネットユーザーは、「ICANNを認知し、選挙で自分たちの代表を選んだり、公開議論の場で発言するなどして、ルール作りに参画していくことが大切だ」と締めくくった。

インターネットを万人に開放するには、NGOの視点も必要

7月14日から17日まで、神奈川県横浜市のパシフィコ横浜でICANN横浜会合が開催される。この会合では、新しいTLD(ドメイン名)や、At-Large、理事選挙などがテーマ。会合は原則として公開形式。また会議の様子は、音声やビデオによりインターネット経由で中継され、遠隔地からコメントや質問をすることも可能だ。

JCA-NET理事の小倉氏は、インターネットを利用して市民活動を行なってきた立場から、ICANN横浜会合や、理事選挙に向けてのNGOの取り組みについて語った。この日程に平行して、NGOでも国際会議を開催し、その成果を“市民社会とICANN選挙についての横浜宣言”として集約する計画だという。この宣言は日米ほか各国からの15人の発起人によるもので、現在は草稿の段階だ。基本的な考え方を以下に抜粋する(日本語は仮訳)。

1.ICANNは代議制をとらなければなりません
2.ICANNは透明性を確保しなければなりません
3.ICANNはボトムアップの手続きを取らなければなりません
4.知的所有権は他の諸権利に優先するものではありません
5.ICANNは技術的な政策決定に限定されなければなりません
6.ドメイン名空間は特に公共的な資源ではありません
7.人為的に不足状態を作り出したり中央集権化されることは避けられるべきです
8.ICANNはプライバシーを尊重しなければなりません
9.経費は最小限度にとどめ、公平にすべきです

内容としては、ICANNのインターネットガバナンスをより民主的なものにするためのものという。日本では、草稿に対し、ネットワークを利用した議論への参加を、小倉氏などが中心となって広く呼びかけている。

マイノリティーの問題をどうするか

小倉氏は、「ICANNは、これまではインターネットユーザーを代表した機関ではなかった。それが選挙で理事を選ぶということで、ユーザーを代表する機関となる」と語った。そして、「日本の企業も政府もICANNに強い関心を寄せている。各国政府とも自国の影響力をICANNに持たせたいという意向が確実にあると思う。例えば、日本の技術的な標準がインターネットの標準として取り入れたら、それは日本の企業などにとって利益がある」として、ICANNが将来的に利権が絡んだ組織になる可能性がゼロではないことを示唆した。

また小倉氏は、「ICANNは“民主的な運営をする”という意向のもとで活動している」としながらも、危険性として「ICANNは国別の一般会員の数を公開しているが、各国で(自国の理事候補に票を集めるための)会員数争いになりかねないので、公表すべきでないのではないか」、「政府の関与という問題では、中国政府が本腰を入れてきたらどうなるか」、「ドメイン名とIPアドレスを管理するICANNでは、商標権の問題がクローズアップされているが、個人のプライバシーや表現の自由などについても、議論が必要」といった点を挙げた。

小倉氏は選挙について、「日本では、iモードによるインターネットやEメールのユーザーが圧倒的に多い。しかし、ICANNの会員登録はiモードではできない。誰にでも権利を保障するというなら、iモードからでも登録可能にするべきだ。公平を謳うならば、それなりの技術が必要だ」と話した。また、「一般会員になるための3つの条件のひとつは、住所があることだが、例えば公共施設でインターネットを利用しているホームレスは会員になれないのか、インターネットカフェを利用する第三世界の人々はどうか。これは、ホームレスやマイノリティーの権利に対する運動をしているNGOにとっては、大きな問題だ」とした。さらに、「国によっては誰が誰に投票したか分かってしまう可能性があり、セキュリティーの確保が大切」と語った。

会場からは、「NGO側から理事への立候補者を出す必要があるのでは」という声もあがり、小倉氏は「そういったことも、(NGOの)横浜会議で議論されることになるだろう」と語った。

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