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【レビュー】11Mbps無線LAN製品は有線LANを超えたか――無線LAN製品レポート第0回

2000年06月30日 00時00分更新

文● 編集部 佐々木千之

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今年の3月くらいから、LAN製品のラインアップを持つメーカー各社から、“データ転送速度11Mbps”をうたった製品が多数登場してきた。これは、'99年9月に*IEEEが、2.4GHz帯を使用する11Mbpsの無線LANの規格“IEEE802.11b High Rate”(以下802.11b)の最終案を決定したことで、これに対応した無線LANチップセットがチップメーカーから出荷開始されたためだ。

*IEEE(Institute of Electrical and Electronic Engineers):米国電気電子学会。世界130ヵ国以上の会員からなる、エレクトロニクス分野で世界最大の学会。コンピューターインターフェースの規格化を行なっており、ここで決められた規格にはIEEEの名が付く。最近の規格では“IEEE1394”が知られている。

ascii24編集部では、各社から発表された無線LAN製品を取り寄せ、その実力をレビューしていく予定だ。今回はレビューのイントロダクションとして、無線LANの現状を解説する。

2.4GHz帯域が解禁で安い機器が登場

2.4GHz帯の電波はISM(Industrial、Scientific、Medical)バンドと呼ばれ、ほぼ世界中で産業・科学・医療用の機器向けに解放されている。具体的には電子レンジや医療用メスで使用されているのがこの帯域だ。無線LANにこの周波数帯が割り当てられた理由としては、世界共通で使用できることや無線LANの開発が行なわれた米国では、免許なしで理由できるといった背景がある。

日本においては、ISMバンドとしての利用(2.400~2.500GHz)のほか、2.4GHz帯の一部(2.400~2.450GHz)はアマチュア無線にも割り当てられている。従来日本でも、2.4GHz帯のうち、2.471~2.497MHzについては無線LAN向けに解放されていたが、バンド幅は26MHzと狭く、高速化は困難とされ、*2Mbpsの無線LAN製品が提供されるのにとどまっていた。

*2Mbpsの無線LAN製品:2.4GHz帯域で1または2Mbpsの通信を行なう規格がIEEE802.11。802.11bでは通信状態により、1、2、5.5、11Mbpsのいずれかとなる。

こうした状況の下、802.11bの最終案決定を受けて、'99年9月27日に郵政省が2.400~2.4835GHzを省電力データ通信システム向けに解放し、無免許で利用できるようになった(免許なしで使用できるのは、出力10mW以下に限られる)。

ちなみにIEEEでは、2.4GHz帯で22Mbpsを実現する規格や、5.7GHz帯域を使い、50Mbps以上の通信速度を目指す規格“IEEE802.11a”も検討されている。

802.11bでは、帯域内をおよそ5MHzごとに*14のチャンネルに分けているが、日本ではヨーロッパと同じ1~13チャンネルまで、米国では1~11チャンネルまでが利用できる。世界中でほぼ同一の周波数帯域を利用できるようになったことも、無線LAN製品のコストが下がったことの一因に挙げられる。

*14チャンネル:正確には1~13チャンネルまで5MHzごとに並び、約18MHz離れて14チャンネルがある。14チャンネルは2.4GHz帯域を使う2Mbpの製品との互換性を保つためのチャンネルとなっている。

実際、以前の無線LAN製品では、各社の独自規格や各国によって利用できる周波数帯が異なるなどしたため、2Mbps対応のPCカードタイプ製品が1枚6万円以上、アクセスポイントは20万円以上もするなど、有線LANに比べてかなり割高な印象が強かった。そのため、*有線LANが利用しにくい工場や病院など、限られた場所での利用がほとんどで、家庭ではほとんど使われていなかった。

*有線LANが利用しにくい:工場などでLANケーブルを引き回すと、電磁的ノイズの影響を受けたり、断線が起きた際のメンテナンスの点から、有線LANが利用しにくい状況があるという。また、病院では、衛生的な面から床を2重化して配線することが難しいという。

そうした状況の下、802.11b規格が決まり、数値上11Mbpsと*有線LANの10BASE-Tに匹敵する速度となったことで、ケーブルがないというメリットに対するユーザーの期待が高まった。結果として、多くのメーカーの参入を促し、現在発表されている製品では、PCカードタイプで1枚2万円程度、アクセスポイントでは8万円程度と、従来の3分の1ほどまで価格が下がってきたところだ。(株)矢野経済研究所によると、'99年度の無線LANの国内市場は金額ベースで100億円超と予想されており、さらに今後年率40パーセント以上で成長すると予測されている。

*有線LANの10BASE-Tに匹敵:802.11b無線LANの通信速度が有線LANと比較してどうかということに関しては、今後のレビューでレポートする。

無線LAN製品の市場規模予測


 


98年度見込み


99年度予想


2000年度予想


2001年度予想


数量(万ユニット)


7.2


10.14


15


24.5


伸長率(%)


124.1


140.8


147.9


163.3


金額(億円)


79.6


101.5


145


227


国内無線LAN市場の伸び予測((株)矢野経済研究所調べ)
国内無線LAN市場の伸び予測((株)矢野経済研究所調べ)



11Mbps無線LANに使われている技術

前述のように、802.11bで使用される2.4GHz帯はISMバンドとして広く使用されており、これらの機器が発する電波によるノイズや干渉が考えられる。これを避けるため、ISMバンドでの通信は*スペクトラム拡散方式(Spread Spectrum:SS方式)で大なうこととされている。

*スペクトラム:周波数別に見た、信号強度の分布状態のこと。周波数スペクトル。一般的に、横軸に周波数、縦軸に信号強度をとった2次元グラフで表現される。

テレビやラジオなどでは、必要な周波数帯域幅を抑え(狭帯域化)る方向で変調が行なわれており、同じ周波数を使わないように(混信しないように)配慮されている。これに対して、スペクトラム拡散方式では、信号に対する冗長度を上げつつ、広い帯域幅を使用する。802.11bにおいては約22MHzの帯域幅となっている。従って同じ場所で802.11b無線LAN製品を使って、複数のネットワークを構築する場合に、使用する周波数を重ならないようにするには、1、6、11チャンネルというように5チャンネル以上離れたチャンネルに設定する必要がある(利用周波数が重なった場合は、通信速度が低下する場合がある)。

スペクトラム拡散方式はもともと、軍事用に開発されたとされており、特徴として、(1)通信中に受けた干渉波やノイズなどに強い、(2)信号内容を追跡、検出が困難、といったことが挙げられる。現在、実用化されているスペクトラム拡散方式には、直接拡散方式(Direct Sequence:DS)と、周波数ホッピング方式(Frequency Hopping:FH)の2種類がある。

直接拡散によるスペクトラム拡散方式(DS-SS方式)の仕組み
直接拡散によるスペクトラム拡散方式(DS-SS方式)の仕組み



直接拡散方式では、入力信号に対して高速でランダムなパルス(Pseudo Noice:PN系列、あるいは疑似雑音系列と呼ばれる)を用いて、2次変調してスペクトルを拡散する。受信側は、発信側と同じPN系列を用いて復調する。通信中に受けたノイズは、復調時に拡散されて信号よりもずっと低いレベルになる。一般的に高速化が容易だが、価格が高くなる傾向にあるとされている。

周波数ホッピングによるスペクトラム拡散方式(FH-SS方式)の仕組み
周波数ホッピングによるスペクトラム拡散方式(FH-SS方式)の仕組み



周波数ホッピング方式は、ある時点で発信するのは、通常の狭帯域変調の電波であるが、あらかじめ決められたホッピングパターンに基づいて、短時間(100m秒以下)で、次々に異なる周波数に変更しながら通信を行なう。ある瞬間での周波数がノイズを受けても、すぐに別の周波数に変更されるため全体としてエラーは最小限になる仕組み。一般的に小型化、低消費電力化が容易だが、高速化は難しいとされている。

現時点で国内発売されている11Mbps無線LAN製品は、DS-SS方式のもののみである。

DS-SS方式での通信可能範囲は、屋内で90m、屋外では300m程度とされる。ただし、距離と通信速度は反比例の関係にあり、11Mbpsで通信可能な範囲は約30m、5.5Mbpsで約45m、2Mbpsで約90mである。さらに屋内で使用した場合は、扉や壁、床などによって電波が減衰するため、これよりも距離は短くなる。

なお、802.11bに準拠した製品であれば、基本的には相互に通信可能であると考えられるが、自社製品以外との通信を保証しているものはほとんどない。こうした状況で、無線LAN製品同士の互換性を保証する団体が現れた。それが無線LANの標準化を行なう非営利団体Wireless Ethernet Compatibility Alliance(WECA)である。WECAは、802.11b準拠の無線LAN製品同士の互換性チェックを行なうテストを開発し、このテストに合格した製品には“WiFi”(ワイファイ)ロゴが与えられる。WiFiとはWireless Fidelityの略で、このロゴが付けられた製品は、相互通信が可能であることを保証される。

(株)メルコでは、自社の『AIR CONNECT』とアップルコンピュータ(株)の『AirMac』との接続が可能とうたっている。

現時点で、日本で発売される製品で、WiFi認定をうたっているのは、コンパックコンピュータ(株)の『WLシリーズ』のみ。

802.11b無線LAN製品の相互の接続について、あるメーカーの技術者に尋ねたところ「現在802.11b無線LAN製品では、米ルーセントテクノロジー社か米インターシル社のチップセットを使用しており、基本的には相互に通信できるはず。ただし、セキュリティー機能を使った場合は、802.11で規定されているはずの*WEPによる暗号化においても通信ができなくなる。これは各社のインプリメントに、微妙な違いがあるため」という答えが返ってきた。今後改善される可能性もあるが、企業などで、セキュリティーを重視する場合は使用するメーカーを統一する必要があると考えられる。

*WEP(Wired Equivalent Privacy):IEEE802.11でオプションとして定義されている暗号化方式。40bitまたは128bitの長さの“鍵”によって通信を暗号化する。暗号化を行なった場合は、データの通信速度は低下する。定価の割合は製品によって異なる。

価格低下で一気に普及するか

冒頭でも述べたが、現在、周辺機器メーカー、LAN製品メーカー、パソコンメーカーなど10数社から802.11b準拠の無線LAN製品が発表されている。もはや100BASE-TX対応でも数千円まで下がってしまった、有線LAN製品とまでは行かないかも知れないが、競争により今後さらに価格低下も予想される。また、家庭へ複数のパソコンが普及し始めていること、特にノートパソコンが伸びていることから、家庭への無線LAN製品の利用も増えてくると見られる。

実際に、家庭の1階と2階で通信が可能なのか、通信速度はどのくらいなのかなど、設定の容易さや使用感も含めて評価していく予定である。

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