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【INTERVIEW】電子名刺の交換でネットワークを作るプラットフォームを目指す――ソシオウェア・ドット・コム

2000年06月02日 00時00分更新

文● 編集部 鹿毛正之

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“名刺”――社会のデジタル化が進みつつある現在においても、名刺というビジネスアイテムの重要度はいささかも衰えを見せない。情報の交換手段としては実にアナログな方法だが、どんな最先端のIT企業であっても、社員に名刺を持たせない会社はないだろう。

名刺をデジタルデータとして管理するアイデアは数多くあるが、名刺そのものをデジタル化する試みは意外と少ない。この盲点をついたのが、5月30日にサービスを開始したばかりのソシオウェア・ドット・コム(株)だ。

同社が提供する“インターネット名刺交換サービス”は、自分のデジタル名刺を作成し、ネットを利用して交換するというものだ。紙の名刺と違ってかさばることもないし、一度相手に渡した名刺のデータを編集することも可能だという。

ascii24編集部では、同社の社長をはじめとする主要スタッフに、ソシオウェア・ドット・コムのビジネスモデルと今後の展開について話を聞いた。

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ソシオウェア・ドット・コムのウェブサイト。名刺の作成や送信、管理などはこのサイト上で一貫して行なうことができる

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メールを使って名刺交換を申し出

同社のサービスを利用するためには、ウェブサイト上で会員登録を行ない。自分のデジタル名刺を作成する必要がある。会員には専用のウェブページが用意され、そのページ上でデジタル名刺を作成/編集したり、送受信を行なうことができる。

デジタル名刺を作成したら、次はその名刺を相手と交換することになる。ここでは、AさんがBさんにデジタル名刺を渡すケースを想定して、その手順を簡単に説明しよう。

1)Aさんが自分の専用ページ上で、BさんのメールアドレスとBさんに送るメッセージを入力する。

2)ソシオウェアのシステムがBさんに対し、Aさんを発信者とする電子メールを発送する。

3)Bさんが受け取ったメールには、Aさんからのメッセージとともに、デジタル名刺を見るための専用URLが付記されている。

4)専用URLにアクセスすると、Aさんのデジタル名刺が表示される。

5)BさんがAさんとの名刺交換を希望する場合は、名刺作成のページに進み、自分のデジタル名刺を作成して交換する。


以上の流れからもわかるように、名刺を送りたいときは相手のメールアドレスさえ知っていればいい。同社の代表取締役社長を務める佐々木裕彦氏が、「相手がソシオウェアのメンバーかどうかを意識する必要はない」と説明するのも納得だ。ちなみに名刺を送った相手がすでにソシオウェアに登録している場合には、相手の専用ページにメッセージが表示される。

ビジネス開発担当の五十川裕氏、社長の佐々木裕彦氏、財務担当の坂本利秋氏(左から)
ビジネス開発担当の五十川裕氏、社長の佐々木裕彦氏、財務担当の坂本利秋氏(左から)



デジタル名刺でも見かけは名刺そのもの

同社のデジタル名刺は、一見して名刺だとわかるデザインになっているのが特徴だ。表と裏の概念があり、裏面は英語表記になっている。「徹底的に名刺のメタファーにこだわった」(佐々木氏)とのことで、これなら初めて同社のサービスを利用するユーザーでも迷いは少ないだろう。

ちなみにシステム自体は多言語に対応しているとのこと。現在、同社サイトのトップページは日本語で表記されているが、いずれは各国語別のトップページを作成し、日本語/英語以外の言語にも対応を図る予定だ。

名刺上の文字は通常のテキストで書かれているため、コピー・アンド・ペーストして表計算ソフトやデータベースソフトに名刺情報をインポートすることが可能。今後は、名刺情報をcvsファイルとして出力する機能も追加する予定だという。「すでにシステムは構築されており、あとはインターフェースを追加するだけ」(坂本氏)とのことだ。

デジタル名刺の例。部署名は複数行を記入することができるので、カンパニー制を採用しているような企業であっても、自分の所属部署を正しく記入できるようになっている
デジタル名刺の例。部署名は複数行を記入することができるので、カンパニー制を採用しているような企業であっても、自分の所属部署を正しく記入できるようになっている



名刺はホルダーに入れて管理可能

一度交換した名刺は、専用ページ内の“名刺ホルダー”に保存される。このホルダーも、実際の名刺ホルダーを模したデザインになっており、名刺を50音別で管理するようになっている。紙の名刺であればホルダーに入れた後の並べ替えは大変だが、そこはデジタル名刺だけあってソートは自動的に行なわれる。

この名刺ホルダーは、デジタル名刺の利点が最大に発揮される場所でもある。紙の名刺であれば、所属部署が変わったり電話番号の変更があったとしても、相手に渡してしまった名刺に記載されたデータを変更することはできない。せいぜい、新しい名刺を相手に送ることができる程度だ。

それがソシオウェアのデジタル名刺では、名刺データに編集を加えた場合、必要に応じて相手に渡した名刺のデータを更新することができるのだ。一気に更新してもいいのであれば、“誰に名刺を渡したか”を意識することなく、自分が渡した名刺すべてを更新できる。名刺をもらう側にとってみれば、自分のホルダーに入っている名刺には常に最新のデータが記入されていることになるので、管理の手間が大いに省けることになる。

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名刺ホルダーには自分に送られた名刺がすべて保存される。交換を申し込まれた場合であっても、もちろんそれを無視することが可能だ


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人対人、人対団体など様々な関係性を実現可能

以上のようにソシオウェアのデジタル名刺は、紙の名刺を模していながらも、ネットワークを活かした機能が付け加えられている。だが、人対人の関係であれば、やはり顔をつき合わせての付き合いが一番大切であり、そこでは紙の名刺を交換することになるはず。その場合、デジタル名刺はあくまで紙の名刺を補完する役割しか果たさないはずである。

この点について、佐々木氏は「ソシオウェアは人と人だけでなく、人と会社、人と団体など、あらゆる関係性を実現できるプラットフォーム」だと説明する。つまり、デジタル名刺を交換する相手は個人には限らないということだ。

同社では、デジタル名刺の事業コンセプトを“リレーションシップ・マネージメント・プラットフォーム”と読んでいる。リレーションシップ(関係性)という言葉には、佐々木氏が主張するように、人と人以外の関係が含まれている。

具体的な例としては、ECサイトなどサービスプロバイダーとの関係が挙げられるだろう。「たとえば楽天のようなサイトがソシオウェアのシステムを導入してくれれば、ユーザーとECサイトでの情報交換が簡単になります」(佐々木氏)。つまり、ユーザーがECサイトと名刺交換を行なうことで、自分の住所や電話番号をいちいち入力/送信する手間が省けるというわけだ。

ちなみに、名刺は何種類でも作ることができる。そのため、自宅からECサイトを利用するときは個人用の名刺を交換すればいいし、会社から取引先のサイトにアクセスする時は仕事用の名刺を交換すればいいことになる。紙の名刺では何種類もの名刺を作るのはナンセンスだが、デジタル名刺であれば必要なだけ名刺のバリエーションを増やすことが可能だ。

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メンバーに与えられる専用ページ。名刺の管理や編集といったサービスは、すべてこのページで一括して行なうことができる。いわば各メンバーに与えられた名刺ポータルページだ

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ソシオウェアが想定する3つのビジネスモデル

では、同社が目指すビジネスモデルとはどんなものだろうか?

1つには、他の商業サイトと同様の“メディア事業”が挙げられる。いわゆる広告バナーやメール広告から収入を得ようというもの。ただ同社では、他のサイトとの差別化要因として「ソシオウェアは、名刺というもっともリアルな情報をアセット(資産)として持っている」ことを強調する。

他のメンバー制サイトでは、登録の際にIDとパスワードしか必要としないところが多い。だが、デジタル名刺を作成するソシオウェアでは、ユーザーはメールアドレスと氏名に加え、必要に応じて住所や社名といった個人情報を登録する。これらの情報を基に、同社では職種や役職を絞ったマーケティングを想定している。たとえば業種ごとに表示するバナーに変化をつけるといったものだ。その際にももちろん、個人が特定できるような情報の開示は決して行なわない。

2つ目に挙げるのは“コマース事業”。例としては、年賀状の宛名印刷に同社の情報を利用したり、お中元・お歳暮の発送リストとして利用するという方法だ。ユーザーが企業単位などで登録しているような場合ならば、有効な手法となる可能性もある。このほか、共同購買システムに結びつけるという展開もある。名刺交換を通じて複数の購入希望者をまとめることができれば、値引きを要求できるといったものだ。「20~30万人のユーザーを集めることができれば、コマース型のビジネスは可能」(佐々木)だと同社ではもくろんでいる。

3つ目の“データ事業”は上記2つの事業モデルとは異なり、ユーザーに直接働きかけるアプローチとなる。これはいわば、名刺管理の“ASP”とも言えるもの。中小企業や大企業の部課レベルを対象に、名刺の一括管理を行なうというものだ。この事業モデルでは、コーポレートアカウントの発行も考えているとのこと。たとえば複数の営業マンがひとつの名刺ホルダーを共有できれば、効率的な顧客管理が可能になる。

顧客管理をさらに発展させれば、当然CRMのようなビジネスアプリケーションとの連携も考えられる。ソシオウェアではオラクル製品のような代表的なアプリケーションに対応するプラグインを開発していく予定だという。システムのインターフェースも積極的に公開し、APIやSDKを企業向けに提供していく方針だ。

クリティカルマスは100万人?

スタートアップしたばかりの企業としては、ソシオウェアは先を見据えたビジネスモデルを持っていると評価できるだろう。だが、どのメンバー制サイトでも同様に、ソシオウェアにとっても“メンバー集め”という最大の難題が立ちはだかっている。

特に、前述のコマース事業やデータ事業は、数10万人単位のメンバーがいなければ成立が難しいビジネスモデルだ。同社では、デジタル名刺のデータベースが十分な威力を発揮するために、「クリティカルマスを目指す、目処は100万人」との将来像を描いている。当面の目標としては、年内に50万人のメンバーを獲得したいとのことだ。

しかしながら、氏名や住所という個人データを登録してもらうには、それなりの裏付けが必要となってくる。メンバーに利便性を提供するのはもちろん、メンバーからの信頼を得る努力が必要だ。同社では近日中に英語サイトの開設を予定しているが、その際は任意団体である米TRUSTeの審査を申し込むつもりだという。米TRUSTeはウェブサイトのトラストポリシーを審査/認定する第三者機関で、スポンサーにはマイクロソフトやインテルといった大手企業が名を連ねている。審査の対象は英語サイトに限られるが、同社では秋までにも米TRUSTeの認定を取得したい方針だ。

幸いにも同社は、パートナーとして大手企業のサポートを受けている。データベースは日本オラクル、ハードウェアはサン・マイクロシステムズ、通信回線はピーエスアイネットから提供を受けているとのこと。本社オフィスは、インキュベーション事業を営むネットイヤーグループ(株)の本社内に間借りしている格好となる。

ソシオウェアのスタッフは現在7名。技術担当者(CTO)が立っている同社オフィスの隣は、キャビネットひとつをはさんでネットイヤーグループのオフィスとなっている
ソシオウェアのスタッフは現在7名。技術担当者(CTO)が立っている同社オフィスの隣は、キャビネットひとつをはさんでネットイヤーグループのオフィスとなっている



今後、同社の目論見どおり100万人のメンバーが獲得できるのであれば、ビジネス展開も十分に可能になってくるだろう。問題は、メンバー登録に複数のステップが必要な上、氏名や住所といった情報を登録しなければならないという敷居の高さだ。同社のシステムでは仮名でも登録が可能だし、住所の登録は必須ではないので、ある程度自分のデータを隠して登録することもできる。しかしその場合、データベースとしての価値は著しく減少してしまう。

また、デジタル名刺というアイデア自体は模倣が簡単なため、短期間の間に数多くのコンペティターが出現する可能性も否定できない。確かに同社のシステムはよく作りこまれているが、ユーザーから見えない部分の工夫が多いため、外見的な差別化は難しいかもしれない。ソシオウェアがデジタル名刺分野でのデファクトスタンダードとなり得るのか。「クチコミによる普及に期待したい」(坂本氏)以上に、ソシオウェア自身の名前を大きく売り込む仕掛けが必要になってくるだろう。

現在同社では、システムの利用状況に応じてポイントを付与し、一定のポイントが貯まった会員に抽選でニューヨーク旅行などをプレゼントするキャンペーンを実施している。もちろんキャンペーンは有効な宣伝手法だが、知名度を上げるための努力を重ねているのはいずれのサイトでも同じこと。せっかく立ち上げ時点でここまでシステムを構築したのだから、プロモーションにおいても練りこんだ手法を期待したい。

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