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【東京国際ブックフェア 2000 Vol.2】玉石混淆のインターネット書店が台頭。オンデマンド出版はビジネスとして本格始動

2000年04月24日 00時00分更新

文● 千葉英寿

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世界25ヵ国から500社が一堂に会する日本最大の本の見本市“東京国際ブックフェア 2000”が東京ビッグサイトにおいて開幕した。一般公開日の22日、23日までの4日間にわたり、本に関する情報、書籍やCD-ROMなどが紹介された。また、洋書を割引で手に入れたり、サイン会や対談会などさまざまなイベントも行なわれた。
 
会場は“東京国際ブックフェア”をはじめ9つのフェアで構成されている。本稿では、“電子出版・マルチメディアフェア”と“デジタルパブリッシング技術フェア”を中心にリポートする。

日販が進める巨大インターネット書店『本やタウン』

  インターネットが一般化することにより、一般的な商材がEコマースにおける取り扱い商品として成り立ってきたのと同様に、書籍やデジタル書籍の流通も提案されるようになってきた。
 
これは出版流通を突き崩すためのものではなく、ダウンロード販売という新しい流通手段を提示している。同時に、インターネットを使った“書店の無店舗化”という新しい販売スタイルを打ち出してきている。

この新しい販売スタイルをすべての書店に提供しようというのが、日本出版販売のブースで紹介されていた『本やタウン』

インターネット書店の『本やタウン』、オンデマンド出版の『ブッキング』などさまざまな新しい書籍流通の姿を提示した日販ブース
インターネット書店の『本やタウン』、オンデマンド出版の『ブッキング』などさまざまな新しい書籍流通の姿を提示した日販ブース



同社は書籍流通の要としての役割を果たしてきた書籍流通の大手である。本やタウンは、インターネット時代にあって、これまで培ってきた同社の情報資源(書誌情報、在庫情報、注文追跡情報)をクローズドにして抱え込むのではなく、読者に対して広くオープンにすることで潜在需要を喚起し、書店経営を支援しようというもの。

具体的には、同社の持つ150万点以上の書誌データベースからエキスパート検索で目当ての書籍を探し出し、在庫の有無を流通ポイント(書店店内、日販流通センター、出版社)で把握して注文する。注文した書籍は、指定の書店でこれまでと同様に購入する。つまり、ユーザーにとっては、書店に行って、在庫を確認し、ない場合は注文する、という手間が省けるわけだ。

得意分野で特色を出すインターネット書店も登場

  もちろん本やタウンだけで、すべてが事足りるわけではない。書籍流通は複雑だからだ。流通会社には、取り扱う出版社の傾向によって、得意なジャンルと不得意なジャンルがある。これは出入りする流通会社を選択する(もちろんその逆もある)事で、その書店の特色を出すこともできる、ということだ。

その点を上手くついているのが、大日本印刷が進めている『専門書の杜』だ。専門書の杜は、人文書などをはじめとする専門書の流通を得意とする鈴木書店(通称まるす)の協力を得て、専門書、実務書を中心に約2万冊の書誌データベースから検索、注文ができるもの。このほかに世界最大の1600万点という洋書データベースから検索、注文できる『赤い靴』がある。
 
しかし、購入のためにわざわざ書店に出向くのでは、それほどの魅力は感じない。もちろん、宅配による代引き配送などもあるが、やはり電子決済まで用意して、本来のインターネットのメリットがあるだろう。

そうした課題を単独で提供することで、検索、注文、宅配、決済を一貫して行なえる書店がある。出版社でもある大手書店の紀伊国屋書店が提供する『KINOKUNIYA BOOK WEB』だ。このシステムでは、店頭在庫100万冊から検索し、注文できる。もっともこの場合は、会員として入会し、クレジットカードで引き落としをする決済方法を取っている。これならば一切外出することなく、インターネットを使って本を購入できる。

紀伊国屋書店ブースでは、インターネット書店『KINOKUNIYA BOOK WEB』の説明をしていた紀伊国屋書店ブースでは、インターネット書店『KINOKUNIYA BOOK WEB』の説明をしていた



オンデマンド出版がインターネット書店を補完する!?

インターネット書店によって流通の活性化は促せるかもしれないが、読者の必要とするコンテンツ、つまり本の内容が伴わなければ、インターネットによる新しい流通も意味を成さない。次に必要なのは、品切れ本、絶版本、稀覯本(きこうぼん)を復活させ、読者のニーズに応えることだろう。これに応えることができるかもしれないのが、オンデマンド出版だ。

数年前よりビジネスとしての成立が待たれていたオンデマンド出版だが、インターネットとオンデマンド印刷がつながることで、オンデマンド出版が現実味を帯びてきた。
 
本やタウンを提供している日販では、新会社ブッキングを立ち上げ、プリントオンデマンドで、絶版、品切れ本を1冊から供給する“ブッキング”サービスを提供している。IBMのPOD(Print OnDemand)システム『InfoPrint』によって作成されるオンデマンド書籍の作りは、決して最高級とは言えないものの、本としての手触りをある程度持ち合わせたものに仕上がりつつある。

商品化に向け本格化するオンデマンド出版

オンデマンド出版が、インターネット書店を補完するだけのものとは違うことを示す動きも出てきている。

大日本印刷は、早くから出版の電子化、オンデマンド印刷に強く興味を示し、編集者の津野海太郎氏らと共に本とデジタルの関わり方を『季刊・本とコンピュータ』という雑誌で模索してきた。子会社トランスアートを通じて、すでに評価のある絶版本などの復刊だけではなく、個性的であるが故に一般には出版しにくい作品をオンデマンドで出版する試みを進めている。

これが4月19日より発売が開始された『HONCOパーソナル』だ。第一弾は、『んの字 小沢信男全句集』(小沢信男・著)と『こんちりさんのりやく・ロザリオ』(長谷川集平・著)だ。これらのオンデマンド出版物は、HONCO on demand取扱書店またはHONCO on demandホームページで注文できる。

ブッキングのシステムで作成された青空文庫版『風の又三郎』と『半七捕物帖』(左)。大日本印刷のHONCOシリーズ(右)
ブッキングのシステムで作成された青空文庫版『風の又三郎』と『半七捕物帖』(左)。大日本印刷のHONCOシリーズ(右)



こうした動きはブッキングにも起きている。ブッキングは、メールマガジンサイト『まぐまぐ』を運営するユナイテッドデジタルとの業務提携により、メールマガジンをオーディションによって書籍化するPODサービス“ぷりぷり”を開始した。現在、その第一弾として“まぐまぐオーディション”を実施している。

ここまでのインターネット書店、オンデマンド出版という新しい出版の流れを総合的に捉え、積極的に展開を進めているのが、『本屋さん』だろう。一般書籍だけではなく、洋書、楽譜、CD、DVDなどもメニューに加えている本屋さんは、リクルート『ISIZE』、インフォシークなどとの業務提携、iモードからの受注を行なうなどインターネットの利点を積極的に活用している。今回のオンデマンド出版スタートは、書籍流通への参入から、出版という新しいフェーズに入ってきたと言えるだろう。

印刷会社としてオンデマンド印刷を提供しているのが、プリコだ。同社はオンデマンド印刷機を24時間稼動させ、文字の入力、編集からプロによる製本、発送までの一貫したサービスを提供している。  

本屋さん(左)とプリコ、いずれのブースも富士ゼロックスのDocuTechを使って、オンデマンド印刷を実演して見せた
本屋さん(左)とプリコ、いずれのブースも富士ゼロックスのDocuTechを使って、オンデマンド印刷を実演して見せた



印刷会社でのデジタル印刷機導入が徐々に進んでいることから、今後、印刷会社によるオンデマンド印刷のサービス提供も一般化してくるかもしれない。

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