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【年末特別対談モバイル編Vol.3】携帯電話以外のモバイルシーン――Palmは?、Windows CEは?

1999年12月28日 00時00分更新

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年末年始特別企画対談モバイル編Vol.3では、WorkPadやWindows CEマシンなど、今年登場したモバイル端末や、そのキラーアプリケーションについてお話ししていただいた。

WorkPadは成功したか?

編集部「今年発売された小型携帯端末としては、2月に発表された日本IBMのWorkPadははずせないと思うのですが、WorkPadについてはいかがですか? 普及について何らかの予想をされていたと思いますが、どうですか」

山田「僕は予想よりは多いなと思います。これまで日本市場は、ザウルスもあるし、電子手帳からの流れを汲むものもある、既存の文化がある市場でした。いろいろな端末がギシギシひしめき合っていたところに切り込んできて、ポンとシェアを勝ち得たことはすごいなと。アメリカみたいに爆発的な普及はなかなか難しいと思います」

中島「もう少し頑張るかなと思っていましたが、やはり2バイト文字はちょっと苦しいのかな。手書きでアルファベットだけというのがね。かなで入力できれば違うと思うんですが」

山田「そうなんですよ。たぶんそこが、「日本語ができるようになったよ」と言われて買った人たちには、つらかった部分じゃないかなと思います」

編集部「最初の立ち上がりはよかったですね」

中島「WorkPad c3が出てしばらくしてから後は、ちょっと伸びてないんじゃないですかね」

編集部「WorkPadが出たときに、すぐ買って触って、オリジナルのアプリケーションだけだと、よくできてはいるものの、こじんまりとしていて、「あれ、こんな程度?」という感じだったんです。ところが、いろいろな方が作られたフリーソフトウェアやシェアウェアを入れていくとどんどん使いやすくなる。自分にあったものにできる。で、そのソフトを入れるときにちょっとした注意があったりして、これは“DOS文化”だと思いましたね。そういう、ソフトを見つけてきてインストールしたりというのを簡単にできて、かつそれを楽しいと思う人にはぴったりの製品ですね」

山田「ただ、そういう人たちは、WorkPadが発表される前からPalmを使っていたんじゃないでしょうか。もちろん、WorkPadが発表されて、ユーザーはドーンと増えたんだけど、以前からPalmを使っていた人っていうのは、別にどうしてもWorkPadじゃなきゃだめだということではなくて、せっかく日本語版が出たからっていう感じで買った人もいるでしょうね。これは、「おれたちが広めなければだれが広めるんだ」というようなユーザー意識があるのだと思います」

編集部「惜しくも製造中止となったHP200LXに通ずるところもあるかも知れませんね。あれは本当の意味での日本語版は出なかったわけですが」


『HP200LX』米ヒューレット・パッカード社が'94年9月に発売した、手のひらサイズのPC/XT互換機。640×200ドットモノクロ液晶ディスプレーとキーボードを備え、MS-DOSおよびPIMソフト、表計算ソフト、メールソフトなどをROMに搭載していた。重さは電池を含め312g。'99年の秋に生産が中止されるまで、5年間に渡って、ほとんどモデルチェンジされずに製造・販売されていた。もともと英語版しか無かったが、ユーザーの手による日本語化が行なわれ、その日本語化システムが商品化されるなどした。
『HP200LX』米ヒューレット・パッカード社が'94年9月に発売した、手のひらサイズのPC/XT互換機。640×200ドットモノクロ液晶ディスプレーとキーボードを備え、MS-DOSおよびPIMソフト、表計算ソフト、メールソフトなどをROMに搭載していた。重さは電池を含め312g。'99年の秋に生産が中止されるまで、5年間に渡って、ほとんどモデルチェンジされずに製造・販売されていた。もともと英語版しか無かったが、ユーザーの手による日本語化が行なわれ、その日本語化システムが商品化されるなどした。



山田「それから、WorkPadはユーザーだけでなく、メーカーにも与えた影響は大きいと思いますね。WorkPadのパソコンとのシンクロのしやすさというのは、格別ですから。最近のザウルスなどでは、明らかに影響を受けたところが見えますね。ザウルスはパソコンが無くても単体で完結している製品ではありますが。あと、値段が安いのはすごくいいと思いますね。

僕自身は、今年はWorkPadにとって成功の年だったと思ってるんですけど、ただ、それが主流になるかどうかっていうのはまた別だと思うんですよ。


山田道夫 Mobile News編集長――大きな体のコンプレックスの裏返しか小さなマシンに心惹かれる。東芝初代DynaBookのJ-3100SSを発売日に購入してからモバイル人生を歩む。J-3100SSがとても丈夫だったため、丈夫なのが当たり前という誤った先入観をもってしまった。今のメインマシンはJornada 680。ウェブマガジン(http://www.mobilenews.ne.jp/)、メールニュース“Mobile News”を毎日配信中

山田「それから、個人的には手書きはやっぱりだめなんですよ。PalmもWorkPadもいくつか買ったけど、いつも同じ理由でやめたんです。手書きは自分にはだめだと。だんだん疲れてくる。そういう意味でサムタイプとか、あるいは富士通高見沢コンポーネントの『片手入力キーボード SH-Keys』とか出てきたのはうれしい。特にオカヤ・システムウェアのThumbTypeはすごく面白いと思います。日本ではわからないですけど、ワールドワイドで広がる可能性があるんじゃないかなっていう気がしますね」


『片手入力キーボード SH-Keys(Single Hand Keys)』しなの富士通、富士通高見沢コンポーネントの3社が開発した、片手で操作する18個のキーで日本語の入力を行なう方式のキーボード。'99年3月にWorkPad用として商品化され、その後WorkPadc3用も発売されている (http://www.fujitsu.co.jp/hypertext/ft/whats_new/sh-keys.htm)


『ThumbType』オカヤ・システムウェアが販売している、WorkPadのディスプレー下部の手書き入力部分に、貼り付けて使用する超小型のキーボード (http://www.osw.co.jp/products/mobile/thumb.htm)

中島「取材させてもらったんですが、今回のThumb Typeは第1弾であって、今後は OEM向けにカスタマイズしていくことも考えているということです。たとえば医療用なら、体温ボタンを押したら体温を見る画面が出るようにするとか、そういった風に」

山田「キーボードといえば、取材のときにWorkPadにGoTypeのようなキーボードをつけてテキストを打っている人いますよね。そこまでするかという感じで。いや、それは別にいいとか悪いとかじゃなくて、そうやって苦労してやっていくことで、より深みに……じゃないけど(笑)」


『GoType』米Landware社が開発したPalm/WorkPad用キーボード。日本語化したものを(株)総合システムサービスが運営するオンラインショップ“Vis-a-Vis(ビザビ)”が販売している
(http://direct.sgs.co.jp/visavis/goods/gotype/gotype.html)


山田:「やっぱりもっと便利なものってあると思うので、全部それでやるっていうのは、ぼくはちょっとがまんできないんですね。いろんなものが好きだから、ぼくはWindows CEも好きだし、もちろんWorkPadやPalmも好きですけど、向くもの、向かないものがあると思うので、一つのものだけにこだわるというのはいやなんですよね」

中島「それはやはり使い分けっていうのがあるんですよね」

山田「この場合は、ほかにノートパソコンだってあるし、全部何でもやろうっていうのは、間違いだとは言わないですけど、もちろんその入力スピードに合っていたり、変換の癖を知っていたりすればそれなりに使えるかもしれないけど、何でも完結しちゃうっていうのはね。できることと便利に使えるってことはまた違いますからね」

編集部「そう考えていくとWindows CEは悪くない?」

山田「Windows CEも使ってるとね、すごく不満が出てくるんです。イライラすることが山のようにあります。ただ、向いている用途で使う分には、いいんですね。長文書く人とか、いまはATOKが出たおかげで、わりとよくなっていますよね」

日本ではWindows CEマシンが次々登場

編集部「Windows CEといえば、今年けっこう元気だったかなと思うのですが、いかがですか?」

山田「世界的に見たら、日本だけ元気よかったんじゃないかって気がするんですけどね。1つには電子メールの普及のせいで、これの一部としてPostPetの影響もあったんじゃないかと。Windows CEマシンを、パソコンは持っていないけど、単体で使うっていう人がいたっていうのはすごく大きいと思います。日立のHandheld PC『Persona』の発表会で聞いた話だと、自宅だけで使うという人は8割ぐらいいる。要するに、メールの専用端末としての需要という見方ができる。

もうWindows CEとか、Windows 95/98パソコンとか全然関係なくて、メールを家でもやりたい。そのためには手ごろな値段で、まあほんとに“簡単”じゃないけど、それなりに設定できてっと考えたときにたまたまWindows CEになっている。PostPetをやりたいっていう人たちには、ペルソナってぴったりだったんじゃないかな。ぼくも、また外した予想ですが、ペルソナが出たときも、こんなのだれが買うんだと思ったんですね。

ところが、ポケットボードの大きいものっていう意識の人には、ペルソナのキーボードはすごく入力しやすいし、つなぎやすいし、メールもたくさん保存しておけるんで、そこが受けたんだと思いますね」

編集部「Windows CEも以前はモノクロだったわけですよね。カラーディスプレーにしたはいいけど、値段を上げてどうするんだっていう気持ちがあったんです。でもやっぱりこの状況を見ると、普通の人はカラーなんだなっていうのを改めて思いましたね。アプリケーションでも何でもカラーのほうが受けがいい」

中島「Windows CEでは、ちょっと ウェブブラウザーは大変ですけど、見られなくはない。ウェブを見たときに、カラーかモノクロかって、これはかなり違います。日本人はハイスペックなものがいいんでしょうね」

山田「ハイスペックじゃなくてオーバースペックが好きなんですよね。何種類かあったら、1番スペックが上のを選ぶ、上なら下をカバーできるだろうっていう発想はあるでしょうね」

編集部「今年、日本ではWindows CEのHandheld PCが、かなり頑張ったと言ってもいいと思うんです。TFTカラー液晶を搭載したシャープの『Telios』、チタンボディーの富士通の『INTERTOP』、MDプレーヤーとの連携が可能な日本ビクターの『InterLink』と、いずれもWindows CEマシンを出していなかったメーカーから登場しました。今までの日本HP、NEC、日立に加えて、こんなに各メーカー出るとは思っていなかった。Palmsize PCはカシオとコンパック以外の大きなメーカーは参入していませんが、Handheld PCは各メーカーがこの秋の製品で、出荷予定目標数を前機種より大きくあげています」


カラーモバイルマシン普及のキラーアプリケーションはPostPet

山田「しかもたいてい、PostPet入ってるんですよね。だからそういう意味で、Windows CEのキラーアプリケーションはPostPetでしたね。僕もPostPetやっているんです。急にはまってしまって。おっさんがはまってどうするのかっていう(笑)」

中島「いや、あれだけたくさんのユーザーがいるのはやっぱりよくできているからなんですよ」

山田「メーラーだと思うと、機能に不満なところもありますが、コミュニケーションのツールだと思えば不満はない。駅でちょっと待ち時間があったらPostPetでメール来ていないか確認したりしちゃいますね」

編集部「パソコン版のPostPetを使っている女性のユーザーでも、Windows CEバージョンのほうがいいと言うんです。なぜかというと、*Windows CEマシンのディスプレーはタッチパネルなので、指先でペットをなでられるからということなんですよ。マウスじゃなくて、指でできるからいいと。だから、Windows版のユーザーなんだけどWindows CEを買うっていう人がいるんですよ」

編集部注:すべてのWindows CEマシンのディスプレーがタッチパネルというわけではない

中島「そうか。それは気がつかなかったですね」

『PostPet for Windows CE』
『PostPet for Windows CE』



山田「それから、Windows CE版は画面全体に広がってて、部屋の世界になっているのがけっこう受けているみたいですね。専用機っぽい感じがして好きだっていう」

編集部「私なんかは取材後に外で原稿を書きますし、おふたりもけっこうモバイル環境でマシンを使われると思いますが、ウェブを見るときはどっかに腰を落ち着けてみますか? それとも電車の中で立ってやったりすることもありますか?」

中島「駅でやることもありますね。PHS主体ですので駅が中心になりがちです。私はあまりWindowsのノートパソコンでやることはなくて、WorkPad + Snapconnectか、MobileGearのMK-22、DOSのやつですね」

山田「やっぱりノートパソコンでは僕もやらないですね。ノートパソコンだと立ち上げるまでに時間がかかるから、電車待ってるときには間に合わないときもあるので。Jornada 680とかWorkPadでやるときはありますけど」

中島「都内にいる場合は特にそうですね。WorkPadかMobileGearです」

H゛と小型記憶メディアに注目

編集部「今まで話していただいたこと以外で、今年のモバイルシーンで印象に残っているのは何ですか?」

中島「個人的にはDDIポケットのH゛に興味がありますね」

山田「H゛が元気いいですよね」

中島「すごいですね。H゛をPHSだと思っていない人も多いでしょうね」

山田「CMでひとこともPHSって言ってないのでは? 作戦でしょうけど。確かに音質はPHSだからいいし、データ通信も64kbpsまでいける。走る車や電車の中でも切れないし。いまH゛はいいですよ」

中島「いいですね。データ通信をモバイル環境でやろうと思ったらH゛が今は一番でしょう」

山田「通話も、もちろん場所によりますが、主要な高速道路上でだいたい使えるようにして、2000年ぐらいかな、スキー場とかそのへんも整備しようとしているみたいですから。かなり本気で使えるようにするみたいですね」

中島「カーナビとH゛がつながるようになれば、データ転送も速いから、いいんじゃないかなと思うんですけどね。iモードは3月にやろうとしてますが。H゛については、いきなり全国サービスを展開するところもすごいなと思いました。64kbpsのデータ通信をNTTドコモでやろうと思ったら、東京か関西に、それもその一部に限定されちゃう」


中島和則――1968年生まれ。(有)手國堂(http://www.technido.co.jp/)取締役。工学部通信工学科を卒業後、東京で通信・パソコン関係の雑誌および書籍の編集者として勤務。1999年6月、(有)手國堂の設立と共に関西へ戻る。ネットワーク関係の原稿を書く関係からパソコンが15台にも膨れ上がり、所有するパソコンはデスクトップとノートがほぼ同数

山田「64kbpsと32kbpsは実際使ってみると、けっこう違いますね」

編集部「メールね、よく外から原稿送るんですが、画像が入った数100KBクラスのメールを送るときに段違いです」

山田「印象に残ったというと、私はちょっと地味かも知れませんが、記憶メディアにいますごく興味持っています。スマートメディアとか、コンパクトフラッシュとか、それがどうなるのか。デジタルカメラや、携帯電話とか PHSも将来きっとSDカードか、あるいはいろいろ入ってくると思いますね。そのへんがどうなるのか気になってるんです」

編集部「まだ日本の携帯電話にはメモリーカードって1種類も入ってないんですが。どっか入ってきそうな気がしますか?」

山田「松下はSDカードをいろいろなものに入れると断言してますね。来年、SDカードが出た段階で出すと言ってますから、その時点で何か出てくると思います。電話かどうかはわからないですけどね。それから、ソニーもね。メモリースティック、大きいので携帯電話に入れてくるかどうかわからないですけど、ただ、いつまでもあの大きさかどうかっていうのもわからないですし。どれが主流になるのか、いますごく気になって。

MP3プレーヤーなどもメモリーカードが入ってきますよね。おそらく来年春以降、家電メーカーからもいろいろなものが出てくるでしょうけど、いわゆる家電メーカーさんは、どこが主流になるか見極めてから出したいということです。決まらなかったら両方出すか、というくらいの感じです」

編集部「ソニーのメモリースティックも、発表以来あまりパートナーが増えなかったのが、今年後半ばたばたと増えたのも、そういう姿勢の表われかも知れませんね。

H゛の今後の展開と、記録メディアのスタンダードは何になるかがお二方の注目ポイントということですね。この点については、ascii24としても、注目していきたいと思います。どうも長時間お話しいただき、ありがとうございました」


【年末特別対談モバイル編Vol.1】メールもウェブも携帯電話の時代到来か
http://www.ascii.co.jp/ascii24/call.cgi?file=issue
/1999/1224/topi07.html


【年末特別対談モバイル編Vol.2】IDOやJ-フォンのiモードへの対抗策は
http://www.ascii.co.jp/ascii24/call.cgi?file=issue
/1999/1227/topi10.html

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