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【INTERVIEW】2000年はS3にとって飛躍の年になる──S3のポタシュナー会長、社長兼CEOに聞く

1999年11月08日 00時00分更新

文● 編集部 佐々木千之

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2日に台湾VIA Technologies社と合弁でS3-VIA社の設立を発表し、またMTVなどの音楽関連企業と提携するなど、グラフィックチップメーカーの枠を越えて事業を拡大している米S3社。その会長、社長兼CEOであるケネス・ポタシュナー(Kenneth F.Potashner)氏の来日を機に単独インタビューを行なった。

──ノートパソコン向けのグラフィックチップ『Mobile Savage』が好調なようですね?

「パソコンメーカー上位5社のうち4社のモデルで採用してもらっています。0.18μmプロセスで製造されたモバイル用グラフィックチップを安定して量産出荷できているのはS3のみだということが評価されたのです。ノートパソコンなどで使う場合、消費電力を抑えつつパフォーマンスを維持し、なおかつダイサイズをあまり大きくしないことが必要で、それにはプロセスの高密度化が不可欠です」

──台湾大地震後に1度値上げのリリースを出されていますが、その後の動きは?

「(S3に限らず)ほとんどのグラフィックチップベンダーは影響を受けたはずです。ほとんど7日から10日の間、チップの供給が停止となったでしょう。その結果として、グラフィックチップ市場が非常にタイトになり、スポット市場では価格が上昇しました。(S3がグラフィックチップの製造を委託している)台湾のUMCグループとは強い信頼関係を持っており、優良の顧客として高い優先度で製品供給を受けています」

S3は正しい方向に戻ってなすべきことをしている

──過去に、グラフィックチップベンダーとしてそのシェアを落とした時期がありました。そして、その後に『Savage3D』発表の際に、「この製品で巻き返す」というアナウンスがありましたが、そこまでには至りませんでした。その後投入した『Savage4』と『Mobile Savage』が多数のパソコンベンダーに採用され、シェアは急回復していますが、トップベンダーに返り咲くのはいつ頃を目標にしていますか?

米S3社会長、社長兼CEOのケネス・ポタシュナー(Kenneth F.Potashner)氏
米S3社会長、社長兼CEOのケネス・ポタシュナー(Kenneth F.Potashner)氏



「Savage3Dは技術的に重要な製品だったと位置づけています。Savage4では、多くの部分でSavage3Dのテクノロジーが利用されています。Savage4とMobile Savageは、IBM、コンパック、NECなどのOEMメーカーが待ち望んでいた用途にぴったりの、最初の製品と考えています。当社はこの製品ラインを拡大し、ハイエンド製品である『Savage2000』や、現在非常に強いMobile Savageファミリー製品、そして先頃発表された、台湾のVIAとの提携により、コアロジックと統合されたデスクトップ用の製品を供給していく予定です」

「我々は正しい方向に戻って、なすべきことをしており、来年はS3にとって本当にビッグな年になると考えています。また、米ダイアモンド・マルチメディア・システムズ社の買収により、グラフィックボードに参入し、ホームネットワーキング市場、モデム市場、MP3製品でもマーケットリーダーとなっていることを付け加えておきます」

──ダイアモンドの買収によって、グラフィックボードベンダーを手に入れたわけですが、それによってほかのグラフィックボードベンダーとのビジネスに影響はでるのでしょうか?

「ダイアモンドの買収によって、いくつかの顧客とは競合関係になりました。そして、我々はまた、チップを製造してから、同時にそれを搭載したグラフィックボードを出荷できるという、市場投入時間の短縮というアドバンテージを手に入れたのです。チップとボードを両方出荷するという点においては、カナダのATI テクノロジーズ社と競争できる立場になったわけです」

「そしてまた、メジャーなOEMに対しても、(グラフィックボード部門に出荷するのと)同じタイミングでグラフィックチップを出荷します。ダイアモンドの統合終了後も、この方針には変わりありません。競争もするが、出荷もする、そういうことになります。そして、グラフィックボード部門は、たとえば米nVIDIA社からもチップを購入する場合もあります。グラフィックボード部門がどういったチップを選ぶかという点では、nVIDIAとも競合関係にあることになるわけです」

「ほかの多くのメーカーもこのようなビジネスモデルは採用しており、たとえばIBMはデル・コンピュータと競争関係にありながら、多くの製品をデルから購入しています」

統合チップはS3-VIAから提供

──台湾のVIAとの提携について、まず春先に提携を行なって共同で製品を開発するというニュースリリースがありました。その後、合弁会社S3-VIA社を設立することになりましたが、両者が開発した統合した製品はこの会社から出ることになるのですか?

「VIAとの提携は、ライセンシング事業ではありません。S3とVIAは、お互いの技術者やテクノロジー、そしてお金を出し合って会社を丸ごと作ったわけです。出資比率はS3が51パーセント、VIAが49パーセントとなっており、S3-VIAは自社の製品として、グラフィックスチップとコアロジックチップの統合チップを、OEMに対して直接販売することになっています。最初の製品はSavage4のグラフィックスエンジンと『Apollo PRO』のコアロジックを統合した製品となる予定です。サンプルチップはこの四半期中に出荷し、量産出荷は2000年の第1四半期を予定しています。これらのチップは、S3-VIAブランドでの出荷となります」

──今後のパソコン用グラフィックチップは、米nVIDIA社の『GeForce』のように、ジオメトリエンジンを搭載していく方向に進むのでしょうか?
──今後のパソコン用グラフィックチップは、米nVIDIA社の『GeForce』のように、ジオメトリエンジンを搭載していく方向に進むのでしょうか?



「GeForceは、2300万トランジスターを使用しており、非常に高価なアーキテクチャーとなっています。GeForceについては、非常にいい製品ではあるが、市場に占める割合は非常に小さいと考えています。我々の新製品であるSavage2000もジオメトリエンジンを搭載していますが、グラフィック市場においてより低い価格のセグメントにフォーカスしており、(GeForceの)半分ほどのトランジスター数に抑えています。価格の点で、GeForceに対して十分な競争力を持つと考えます。この(価格を抑えることができる)アーキテクチャーによって、現在のデスクトップ製品のメインストリーム製品から、スムーズに移行することができ、またコアロジック製品との統合も可能になるのです。大多数のユーザーは、最先端の技術を手ごろな価格で手に入れたいと考えていると思っています」

「nVIDIAが、GeForceのようなハイエンドでかつ、高価な製品で、ボリュームマーケットに挑戦し続けることができるのかどうか興味深くみています」

──ワークステーション向けのようなハイエンド製品についてはどうでしょう?

「ワークステーション向け製品については、米IBM社と5年間の技術提携関係にあり、『FireGL』はIBMがメインのチップ部分をデザインし、S3の専門部隊がソフトウェアドライバーの開発を行なった製品です。競合するチップメーカーである米3dfx Interactive社は、新製品の投入が延び延びになっていますし、米3Dlabs社は資金面で問題を抱えています。FireGLは品質もよく、10万~20万円台の製品においては、非常に競争力のある製品だと考えています」

成長が著しいいくつかの市場に参入

──音楽関連会社の買収や提携を行なっていますが、どういった戦略をとられているのでしょうか?

「S3はコンテンツプロバイダーとパートナーシップを結んでいます。すなわち、ユニバーサルや、MTV、MusicLibraryなどです。S3は、音楽コンテンツの配信、検索、演奏、ダウンロードの4つの技術を持っています。音楽メディアを持っているが、それをどうやってディストリビュートしたらいいかわからなかったところと提携し、RioPort.comの名前を使って普及させていけるようなところと提携していくつもりです」

──そういった事業は、もはやグラフィックチップベンダーの枠を越えていると思いますが、S3としてはこの事業にどの程度の期待をしているのでしょうか?

「RioPort事業に限らず、戦略として、ホームネットワーク市場のような、いくつかの成長の著しいマーケットに対しては参加していきたいと考えています。ホームネットワーク製品ではトップシェアであるし、広帯域モデムやケーブルモデムでは2位、MP3製品でも1位となっています」

「これらの製品や技術の開発がやりやすいように、いくつかのグループ分けも行ないました。S3の業績が良くなかったのは、それほど以前の話ではありません。業績回復後、もう1つステップアップするために、製品の幅を広げる必要がありました。ダイアモンドにしても、資金力の不足から新しい分野への進出ができないでいたわけです。そういう意味では、2社の合併は非常にうまくいっていると思います」

──ホームネットワーク製品について、米国では好調であるとのお話ですが、日本での展開については?

「米国では日本に比べて、より多くのユーザーが2台目のパソコンを使っていて、それを接続する製品も多く発売されています。このホームネットワーク市場が来年には10倍になるというデータもあり、S3は、複数の製品を投入して、ユーザーの選択肢を与えています。現在我々が提供しているものとしては、電話線を使用するもの、電波を利用するもの、電灯線を利用するもので、それぞれの分野のスタンダード技術を採用しています」

「日本においては、日本の基準に準拠しながらどれがもっとも適した製品になるかを検討しています。現在この市場は、アメリカに続いてヨーロッパで立ち上がり始めたところで、(日本を含めた)アジアはまだ低いレベルにあります」

S3-VIAはインテルにはハッピーではないかも知れない


──S3はインテルと10年間のクロスライセンスを結んでおり、グラフィックとコアロジックの統合チップはインテルから出るのかと思われましたが、結局VIA(S3-VIA)から出ることになりました。インテルとの関係はどうなっているのでしょう?
──S3はインテルと10年間のクロスライセンスを結んでおり、グラフィックとコアロジックの統合チップはインテルから出るのかと思われましたが、結局VIA(S3-VIA)から出ることになりました。インテルとの関係はどうなっているのでしょう?



「インテルは内部にグラフィックチップ部門を持っています。スタンドアローンでのチップ提供はやめたように、あまりよいパフォーマンスの製品ではありませんが。VIAは(米ナショナル・セミコンダクターから)サイリックス事業部門を買ったことで、S3にとって大きな可能性を持つことになったのです」

「インテルとは依然として技術パートナーではありますが、統合チップに関しては競合する立場にあります。また、統合チップの提供が可能という点では、ATIやnVIDIAといったほかのグラフィックベンダーは追従できないでしょう。この点が重要なのです」

──S3-VIAが出荷しようとしている統合チップについて、インテルとS3のクロスライセンスに抵触するような可能性はないのですか?

「インテルはS3と10年のクロスライセンスを結んだ際に、S3にそんな資金があると知って驚いたようです。また、S3が会社として生き残れると考えていなかったようなふしもあります。それに、インテルはS3がVIAのようなほかの会社と提携するとは思っていなかったようで、S3-VIAには非常に驚いたに違いありません。S3-VIAにおいて、S3が51パーセントと過半の出資をしているのは、(インテルとの)クロスライセンスで入手した技術を利用するためです。インテルにとってはハッピーではないかもしれませんが」

──ありがとうございました。

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