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「IBMでは、Y2K問題の対策に1万人の体制作り」――――JIPDECの“広がるネットワーク社会から(後編)

1999年10月05日 00時00分更新

文● 編集部 井上猛雄

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後半のパネルディスカッションでは、コーディネーターに内閣内政審議室の中村薫氏、パネリストに横浜銀行の鈴木嘉博氏、富士通(株)の小永吉信氏、(株)野村総合研究所の藤田好也氏、(株)セブンイレブン・ジャパンの碓井誠氏、日本アイ・ビー・エム(株)の関敏夫氏、東京青山法律事務所弁護士の後藤康淑氏が招かれ、ハード、ソフトベンダー、流通、ユーザー、法務の立場から、Y2K問題の対応状況や問題点について討議した。

コーディネーターは内閣内政審議室の中村薫氏
コーディネーターは内閣内政審議室の中村薫氏



登壇した6人のパネリスト
登壇した6人のパネリスト



IBMは、越年対策として1万人の体制作り

まず、パソコンのハードベンダーとしての立場から、富士通の小永氏が、同社の2000年問題の取り組みについて説明した。

「富士通では、Y2K対策が終わり、現在、危機管理のブラッシュアップをしているところです。危機管理計画は各本部がそれぞれ策定し、年末年始に向けて関連各社に対する迅速な体制を考えている。たとえば、ユーザーから何かトラブルがあったと報告された場合には、専用のウェブに情報を書き込み、対応員がその書き込みを見て、すぐに対処できるようにする」と述べた。

日本アイ・ビー・エムでは、越年対策として1万人の体制作りを進めているという。同社の2000年ソリューションセンター部長である関氏は、社内の越年対策について語った。

「IBMでは、'96年からY2K問題の対応が始まっていた。新たに昨年から新規プロジェクトを発足した。関連企業などの対策も終わったところ。越年対策では1万人の体制作りをどのようにするかを考えている。その1つとして“ミレニアムセンター”を作る。また、越年に向けて社内対応ハンドブックを全社員に配布する予定だ」――。

横浜銀行の鈴木氏(左)と富士通の小永氏(右)
横浜銀行の鈴木氏(左)と富士通の小永氏(右)



ソフトベンダーやユーザーも年末年始に特別体制でのぞむ

ソフトベンダーの立場からは、野村総合研究所の藤田氏がユーザー対応状況について報告した。

「プログラムのステップ数換算で約2億4000万ステップの対応が終わっている。8月末で全体8の3パーセントが終わったことになる。危機管理体制としては、アウトソーシング顧客別の危機管理計画と、インフラが不能になった場合に備えて、ビューロー型サービス別危機管理計画を練って、ユーザーとすり合わせをしている」――。

「現時点における重点事項は、メーカーが作ったソフトウェア製品でパッチを当てるものや、お客との対外接続テストの対応が遅れている。そのほかに、海外および中小企業の障害による影響を調査すること。年末年始の体制は、全社対策本部を横浜におき、さらに拠点別に都内と大阪に分室を作る。正月には1000人体制を敷く」――。

また、ベンダーから受けたソフトやハードを使用するユーザーの立場から、横浜銀行の鈴木氏が状況を説明した。

「EB(エレクトロニックバンキング)の送受信がうまくできるかどうかテストしている。危機管理計画を策定し、リスク内容の拾い出しと復旧代替策を考えている。実際に2000年のデータを扱ってチェックし、すでに3回の模擬訓練を実施した。年始のスケジュールでは、1000人程度行員が出勤する予定で、1月1日には全行によるシステムや設備などの稼動チェック、2日には全銀、ACSなど金融ネットワークとの稼動状況を確認、4日は危機管理計画に基づく勤務体制で臨む」という。

セブンイレブンジャパンでは照明用のUPSを店舗に設置

Y2K問題では、電力、水道、ガスなどの基幹インフラやメーカーばかりではなく、流通関連企業にも大きな影響が出る。

セブンイレブンジャパンの碓井氏からは「仕分けシステムなど受注生産在庫管理システムのチェックは済んでいるが、そのほかの空調や製造機器についてはまだわからないので、メーカーにチェックをお願いしている。組み込み型のマイコン機器でまだ問題がのこっていると思う。商品の供給体制は、例年25日が締めだが、今年に限り年末ぎりぎりまでメーカーの倉庫をあけてもらい、出荷体制の確保をする。また、UPS(無停電電源)をPOSレジ、レジカウンターを設置して、照明電源を確保する」という発言があった。

Y2K共通の問題として法務関係問題がある。この観点から弁護士の後藤氏がいくつかコメントした。

「守秘義務があるので詳しいことについては明言できないが、日本でのトラブルとしては、ソフトハウスから導入したY2K非対応会計ソフトの改修費を、食品メーカーが請求した事例がある」――。このケースは、メーカー側がY2K問題に対応してくれないので、ユーザー自らがプログラムを直してメーカー側に1400万円を請求したというもの。また、企業買収でも、買われた会社がY2K問題に対応していない場合にもし事故が起きれば、問題がおきるだろうと予測した。

左から野村総研の藤田氏、セブンイレブンジャパンの碓井氏、日本アイ・ビー・エムの関氏と東京青山法律事務所の後藤氏
左から野村総研の藤田氏、セブンイレブンジャパンの碓井氏、日本アイ・ビー・エムの関氏と東京青山法律事務所の後藤氏



自社ばかりではなく、海外の関連企業は大丈夫か?

「Y2K問題では、相手先も含めて企業経営そのものについても対応が必要になってくるが、中小企業などの対外的な問題についてどのように考えているか?」とコーディネーターの中村氏が質問した。これに対し、金融関係では鈴木氏が「銀行では1535社のうち危機管理計画ができていないのは10月時点で4社のみ。中小企業でも進んでいる」と答えた。また、富士通の小永氏も「いまユーザーサイドの対応をしているところで、メーカーでもかなり進んでいる」と答えた。これに対し、藤田氏は「地震や火災ならある程度は対策を想定できるが、Y2K問題ではどのようなことが起きるかわからない」と答えた。
「自分のところは大丈夫だが、たとえば東南アジアの企業などの関連企業については、果たして大丈夫なのだろうか?」という問いに対しては、関氏は「マレーシアでは日系企業がたくさんあり、日本と同じ状況だと見ている。ただし独立系企業はよくわからない状況で、実際困っている」とも。ハードがY2K問題に対応済みかどうかはすぐに分かるが、このような対外関係などを考えれば、すべてにおいて対応済みとは言いきれないところがあるようだ。

後藤氏は、アメリカでのY2K問題の訴訟状況では、いまのところ現実的な損害がないので、訴訟が起こっても負けている事例ばかりだという(http://www.2000law.com/html/lawsuits.html)。まだ2000年になっていないので訴訟の動きは少ないが、来年以降になって問題が起きれば、やつぎ早に訴訟が起こるだろうという。

最後に藤田氏が法曹界に望むこととして、「訴訟問題になった場合、対応費用をどちらが出すのか? どういう場合に責任を追わなければならないのか、その責任の所在がわからないので、判断材料を公に明確にしてほしい」との提言があった。

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