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日本アイ・ビー・エムが大和事業所を公開

1999年07月07日 00時00分更新

文● 浅野純一

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日本アイ・ビー・エム(株)は2日、同社大和事業所の施設の一部を報道陣に公開した。パソコン系メディアを対象にした事業所公開は一昨年に実施されて以来2年ぶりのこと。約3時間にわたってツアーが行なわれた。

神奈川県大和市にある大和事業所は、同社が国内に持つ拠点の中のひとつ。敷地面積は約4万8000平方メートル、3つのビルを擁し延床面積9万7000平方メートルを誇る。ここでは主にノートパソコン“ThinkPad”シリーズの開発部門、リサーチ部門の東京基礎研究所、ソフトウェアを開発するソフトウェア開発研究所などがある。IBMでは日本を含むアジア地域は、APTO(Asia Pasific Technical Operations)という組織に区分されているが、同事業所はAPTOの中でも、また日本アイ・ビー・エムにとっても重要な戦略拠点に位置付けられている。公開されたのは、人間工学、EMI計測、音響・残響計測、ThinkPad試験などの4つの施設。ただし、残念ながら施設の撮影は一切許可されなかったのでご容赦願いたい。

最初に事業所の概要について説明がなされた。ちなみに日本アイ・ビー・エムの国内拠点には、大和事業所のほかハードディスク担当の藤沢事業所、高密度基板やLCDパネル製造の野洲事業所がある
最初に事業所の概要について説明がなされた。ちなみに日本アイ・ビー・エムの国内拠点には、大和事業所のほかハードディスク担当の藤沢事業所、高密度基板やLCDパネル製造の野洲事業所がある



ユーザビリティーテストから、落下テストまでをカバー

人間工学に関する試験は、市井のユーザーから被験者をピックアップし、人間工学的な見地からソフトあるいはハードウェアの使い勝手などを詳細に観察するところ。UCD(User Centered Design)、つまり利用者の視点に立った設計を目指すべく、スペックに表われない製品の特徴や欠点がチェックされる。被験者はパソコンやソフトウェアが設置されたブースで定められた操作を行ない、手元や表情などを撮る4台のカメラや出力画面を別室でモニターする。開発者自身がモニターに参加することも多く、こうしたナマのフィードバックが開発の大きな手助けになるという。その結果がたとえばダイアログボックスのボタン配置やメニューのデザインなどに生かされることになる。

大和事業所の主力製品ThinkPadシリーズのレクチャーも行なわれ、製品ポリシーや開発、設計に関して話がされた
大和事業所の主力製品ThinkPadシリーズのレクチャーも行なわれ、製品ポリシーや開発、設計に関して話がされた



電子機器が発する電磁波や電波については、日本ではVCCI、米国ではFCCなどの規格が決められているが、こうした電磁波・電波対策を行なうことをEMI(Electro-Magnetic Interference:電磁波妨害)対策と呼ぶ。パソコンの中に鉄板やアルミ板の囲いが目立つことが多いが、あれが目に見えるEMI対策のひとつだ。同事業所にはそのための計測を行なう電波暗室が3つある。その最大のものは22×18×4メートルというサイズで、電波吸収剤を敷き詰めたそのスペースでは、すべてのIBM製品の電磁波・電波の発生状況がテストされているという。当然IBM製品もVCCIやFCCに適合するよう設計、調整されているが(地域によっては同社基準にあわせている)、仮に試験中に適合しない電磁波が出たときは、チェンバー横に隣接された計測室で臨時の対策を施すことができるよう、工具なども揃えられている。

IBM製品が発する音をテストするのが残響・無響室だ。パソコンにはハードディスクや空冷ファンなど音を発するパーツが多い。その動作音を計測するのがこれらのチェンバーだ。パソコンの動作音に関しては、同社が独自に基準を規定しており、それを必ず下回るように設計されている。残響室は音が響くよう設計された部屋で、機器が発する音を増幅することで、動作音全体のエネルギーを測定する。基準となる音源を用意し、それを上回らないようテストされている。また無響室は吸収剤がはりつめられており、まったく音が反響しない部屋。こちらでは機器が発生する音の純粋な大きさを測定している。



さまざまな来客を迎えるスペースには、ThinkPadのほか、さまざまな製品が展示されている
さまざまな来客を迎えるスペースには、ThinkPadのほか、さまざまな製品が展示されている



ThinkPadの性能試験は、ヒンジの強度をテストするための液晶パネル部分の開閉テストや、バッグにしまった時の圧力への強度を見るプレッシャーテストが公開された。これらは繰り返し状況を再現できるロボットの手を借りて行なわれており、たとえばヒンジテストでは1万回以上くり返されるという。もちろんThinkPadの広告でアピールされたとおり、70センチメートルからの動作中の落下テストや、温度テスト、コーヒーなどをキーボードにこぼすテストなども同事業所で行なわれている。

ノートパソコンに対する日米ユーザーの違いとは

施設の見学が終了したあと、同事業所の主力製品・ThinkPadについてのレクチャーが行なわれた。その中で日米ユーザーのノートパソコンに対する要求の差、たとえばバッテリやサイズ、パフォーマンスなどの要求順がまったく異なること、それに対してIBMは常に最高のパフォーマンスを提供していくポリシーであること、過酷なテストによる徹底した品質管理は続けること、また2000年いっぱいは、シリアルやパラレルといったレガシーインターフェイスを残すつもりであること、そして将来のThinkPadに対するビジョンなどが語られた。

大和事業所には顧客との商談や交流に使うブリーフィングセンターが用意されている。レクチャーもここで行なわれた
大和事業所には顧客との商談や交流に使うブリーフィングセンターが用意されている。レクチャーもここで行なわれた



米国ユーザーが求めるのは、まずパフォーマンス。そして空港や機内など場所を問わず利用するためのバッテリの駆動時間、何よりもこの2つに対する要求が高い。一方日本では、まずサイズ。そして重さが重要視されており、パフォーマンスや駆動時間はそれほど重要視されていない。また、液晶パネルの解像度に対する要求も、漢字とアルファベット表示の違いもあってか、米国ではSVGAで十分なのに対し、日本ではXGAが求められているという。また、国内他社が積極的に取り組んでいる銀パソについては、当然大和事業所内でも議論があったが、IBMらしくない、ThinkPadのイメージに合わないなどの意見が大勢を占めたという。

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