このページの本文へ

21世紀のCG映像技術はどうなる?! 第3回“Shobi World Forum”開催

1999年06月04日 00時00分更新

文● 平野晶子、編集部 井上猛雄

  • この記事をはてなブックマークに追加
  • 本文印刷

2日、(学)尚美学園は、東京・中央区の有楽町朝日ホールで“Shobi World Forum”を開催した。今回で第3回目にあたる本フォーラムは、『21世紀のCG映像技術の展望‐デジタルクリエイターはCG羊の夢を見たか‐』と題され、コンピューターグラフィック技術の現状とその未来をテーマに進められた。



カンファレンス第1部の基調講演では、NICOGRAPH論文委員長などの要職を務める、東京工業大学の中嶋正之教授がVR(ヴァーチャルリアリティー)システムに関する最新の話題や、同校で進めているVRの研究について語った。

特に興味深かったのは、東工大が日商エレクトロニクス(株)と共同で進めているCAVEシステムだった。CAVEシステとは米国イリノイ大学EVL(電子視覚研究所)、NCSA(国立スーパーコンピュータ応用センター)によって開発された総合ヴァーチャルリアリティ空間システム。正面、両側面、床面の4面大スクリーンに映像を投影し、観客に没入感のある空間を体験させるシステムだが、中嶋教授のもと、日本で初めて音声コマンドが実行できるようになったという。この複合的インターフェースを使えば、画面上にある物体の後ろ側にあるような見えない物体にもアクセスできるようになる。

東工大のCAVEシステム。音声コマンドを実行しているところ
東工大のCAVEシステム。音声コマンドを実行しているところ



そのほかCAVEの応用事例として『WARAJI』というゲームのデモも行なわれた。その名のとおり、草鞋のような入力デバイスを履いて、足の重心移動によってゲームを進めていくというものだ。
 
また、すでに東工大ではCAVEシステムをPCで動かせるシステムも開発しているそうだ。通常ならばSGI製の『Onyx』クラスのビジュアルスーパーコンピューターを使用するところだが、東工大では500MHzのPentiumマシンを4台接続して、CAVEシステムを構築しているという。

足の重心移動を検出する、まさに草鞋のようなインターフェース。これを履いて、ゲームを進めていくのだ
足の重心移動を検出する、まさに草鞋のようなインターフェース。これを履いて、ゲームを進めていくのだ



次に登場したソニー(株)ホームネットワークカンパニーホームネット研究所の杉沼浩司氏は、コンピューターの新技術が追い風となり、CGの分野でも新技術が生まれるということや、ディスプレー以外の表示技術が進歩しながら、従来の情報の在り方にも変化をもたらすことを強調した。

新技術としては、ネットワークがますます重要になって、離れた場所で作られたCGデータを自分の手元でレンダリングするようなことができるようになるという。そして、常時接続こそが家庭内アクセスの望まれる姿になると予測。実際、杉山氏がアメリカに在住していたときは、毎秒約200Kバイトで常時接続をしていたそうだ。このようなことが日本でも行なえる時代がやってくるはずだという。

また、表示デバイスの例としては、約1メートル先に30インチ相当の画面が再現される同社のVR表示用デバイス『グラストロン』を紹介しながら説明をくわえた。直接目に情報を送り込むように、表示デバイスの設置場所にこだわらなくなれば、いままでと異なる場所でもCGを活用させられると説いた。

ユーモアまじりのユニークな講演を行なう杉沼氏。「機密事項に触れると、会場にいる会社の人間に合図を送られるんです」と冗談まじりに話す
ユーモアまじりのユニークな講演を行なう杉沼氏。「機密事項に触れると、会場にいる会社の人間に合図を送られるんです」と冗談まじりに話す



第2部ではCGの具体的な活用分野として、“アニメーション”と“ゲーム”に的を絞って講演が行なわれた。

CG制作やデジタル映像処理などの研究開発を行なっているスーパーメディア(株)取締役の河内隆幸氏は、3Dアニメーションは芸術性を高めるだけのものではないと主張。自然科学や社会科学の法則を導入することにより、数多くの個体(エージェント)から構成される群集の行動をコンピューターで解析し、それを3DCGでアニメーション化する『群集アニメーション・システム』を紹介した。群集アニメーション・システムのデモでは、あるパーティーの中でエージェントが知り合いを見つけて徐々に近づいていく様子や、ある空間内で災害にあったときに緊急に非難する様子などをシミュレーションしてみせていた。

部屋の内外から右下へと集まる群衆シミュレーションの様子
部屋の内外から右下へと集まる群衆シミュレーションの様子



続いて(株)セガ・エンタープライゼス第5AM研究開発部マネージャーの武田博直氏が、大型映像アトラクションにおけるVRについて解説した。

大型映像アトラクションを“体感劇場”と捉え、『2001年 宇宙の旅』の特撮で知られる米のダグラス・トランブルをその第一人者として紹介。彼の発見した「大画面がリアリティーを増す」という法則に則り、VRの三要素は1)大画面、2)インタラクティヴィティー、3)揺動(モーション・デザイン、視聴覚以外の体感刺激)であると定義した。

特に2番目のインタラクティヴィティーは、大型映像アトラクションの分野ではディズニーも視察に来るなど、日本独自の技術であることを強調。好例として、東京ジョイポリスの『クリプト、彷徨』をビデオで紹介。5面マルチスクリーンCAVEの現在唯一の商用利用例であることをアピールした。

このほかにも同社の手がけた『ワイルドリバー激流』、AS-1『スクランブル・トレーニング』、ヘッドマウンティド・ディスプレーを装着して楽しむVR-1『スペースミッション』などのデモ映像を多用し、VRのエンタテインメントへの応用を楽しく紹介していた。

93年に開発されたAS-1『スクランブル・トレーニング』のビデオデモ。8人のりのライドだ
93年に開発されたAS-1『スクランブル・トレーニング』のビデオデモ。8人のりのライドだ



講演終了後、杉沼、河内、武田の3氏がステージに集合し、聴衆との質疑応答が行なわれた。「CGの魅力は何なのか」との学生からの質問に対し、まず杉沼氏が「自由にものを動かせる点」と答えると、河内氏は「3Dの魅力はメタモルフォゼス(変容)にこそある」と主張し、最後に武田氏は「とにかく面白いものを見つけたから」と笑みを浮かべながら、さらに「小さな画面で見た時と大きな画面で見た時ではまるで印象が違う」と付け加えた。

また、ソニーの杉沼氏にセガのドリームキャストの、セガの武田氏にソニーのプレイステーションの感想をそれぞれ訊きたいという質問には両氏とも苦笑。「個人的な見解」とした上で杉沼氏は「ドリームキャストは単なるゲームマシンに留まらない、さまざまな可能性を持っていると思う」とエールを贈り、武田氏はまず自社のドリームキャストの特徴として「インターネット接続の容易さ、通信機能の充実」をアピールしてから「プレステは通信機能がいまひとつ。しかし、情報家電の中核として位置付けるなら大きな可能性を秘めている」と結んだ。

このほかにもVRMLや立体映像の人体への影響などについて、時間いっぱいまで会場との活発なやりとりが続き、熱気をはらんだまま閉幕となった。

ディスカッションではユーモアたっぷりの回答を聞くことができた
ディスカッションではユーモアたっぷりの回答を聞くことができた

カテゴリートップへ

注目ニュース

ASCII倶楽部

プレミアムPC試用レポート

ピックアップ

ASCII.jp RSS2.0 配信中

ASCII.jpメール デジタルMac/iPodマガジン