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【Key Word Survey】アナログがデジタルコンテンツを支える

1998年08月27日 00時00分更新

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 インターネットが普及し始めて3年足らず。誰でも使えるツールとして定着し始めたが、最近そのコンテンツ作りの部分に危機感を抱いている。ことはウェブのコンテンツに限らない。CGやDTPなどデジタルコンテンツ制作全般にいえる。

 それはアナログ部分の欠如だ。アナログ部分とはコンピューターに頼らない制作工程や、コンピューターを使う前に行う企画や構成作りなどの諸作業、そして温もりのある味わいをだす感性を指す。

 現在紙媒体や電子媒体におけるCGの多くはコンピューターとCG用アプリケーションでつくられる。一方、CGを教える学校も林立し、卒業生はコンテンツが不足する業界で仕事に追われる。CG制作の物理的な環境は整うが、扱う人間の養成が不充分なままコンテンツが作られていくような気がしてならない。またクリエーターに与えられる制作環境が同じであるため、作られる作品のテーストもほとんど似たようなものになっている。

 デジタルハリウッドという学校があり、毎年多くのクリエーターを輩出しているが、卒業制作を見るかぎりではどれも同じような作品になっている。卒業後はオリジナリティーのある作品を作る人もいるが、そこには制作者としての個性が要求される。学校ではコンピューターを使った制作技術を教えるが、授業時間の関係で感性や個性を伸ばすような教育まで手が回らないのだろう。

 知人のデザイナーは、フルデジタルで作る作品は無機質になるからと、実際にオブジェをつくり、それを撮影してデジタル化している。主にポスターや雑誌、単行本の表紙デザインの仕事をしているが、その制作で用いているのがこの方法である。元の作品が現実のオブジェであるため、温もりを感じさせる作品に仕上がっている。

 米国で制作される映画の多くにコンピューターが使われているが、CGやアニメーションをつくる際にしっかりしたデッサンが描かれている。このことからも制作の現場で従来から使われている方法論がどんな時代にも必要とされているといえる。

 急速に技術が進歩し、制作時間の短縮に寄与するアプリケーションが数多く開発されているが、制作の基本は企画であり、構成であり、演出であり、編集だ。これらは人間が脳みそに汗をかいて行なう作業だ。どんなにテクノロジーが進歩し、制作を支援することができても、脳みそに汗をかかなければ作品の質は上がらないだろうし、面白い作品はできない。テクノロジーに依存しすぎると制作の本質を見失い、無機質な作品ばかりが世に出ることになる。より良いデジタルコンテンツを支えるものが“アナログ”というわけだ。

 いまウェブや衛星放送などメディアが多様化し、コンテンツ不足が叫ばれている。こんな時代にこそ、クリエーターは“アナログ”作業を見直し、その手法をしっかりと習得すべきだろう。さもなければバランスを欠いたとんでもない作品が世に蔓延し、取り返しのつかないシーンを観ることになるかもしれない。

木村剛(きむら たけし)氏プロフィール

現在、かながわサイエンスパーク(川崎市高津区)において神奈川県、川崎市、(株)ケイエスピーが共同で運営する「KSPネットワークサロン」(http://www.ksp.co.jp/comet/)のコーディネーターとして、セミナーの企画運営や、WEBCastingの研究会等を主宰している。

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