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“第8回コンピュータ将棋選手権”は東京大学大学院生に栄冠

1998年02月13日 00時00分更新

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 昨日開幕した“第8回コンピュータ将棋選手権”には、意外な結末が待っていた。本日行なわれた決勝で優勝したのは、東京大学大学院生の棚瀬寧さんら4人が開発した“IS将棋”。市販プログラム勢を次々と撃破し、戦績6勝1敗で2位以下を引き離しての完勝。2度目の出場にして栄冠を手にした。市販プログラム以外の優勝は初めてで、IS将棋はベストアマチュア賞も併せて受賞。2位には“金沢将棋3”、3位にはこれまたアマチュアの“SHOTEST v.2.0”が入った。2連覇を狙った“YSS8.0”((株)アスキーサムシンググッドの将棋ゲームソフト『AI将棋』が採用)は、3勝4敗と振るわなかった。

 決勝には、昨日の予選を勝ち残った5チームのほか、昨年上位に入った“YSS8.0”、“金沢将棋3”、“柿木将棋”の3チームが出場。計8チームで総当たり戦を行なった。IS将棋は、常連の“森田将棋8”に次いで予選を2位で通過したものの、いわば“ノーマーク”。しかし、ノーマークならではの未知なる棋力を決勝で一気に開花させたといえる。

 IS将棋は、決勝第1戦で優勝候補の筆頭YSS8.0を下すと、続いて柿木将棋、森田将棋を連破、第3戦を終えた時点で早くも単独トップに躍り出た。第4戦でも勝利を収め、2位に勝利数で2差をつけ、このままぶっちぎるかとも思われた。しかし、第5戦で昨年2位の金沢将棋に惜敗、場内にはほっとした空気さえ流れた。

 



 決勝に残ったプログラムの中では、前述のYSS8.0のほかに、金沢将棋、柿木将棋、森田将棋の3つが市販(いずれもプログラム名と同じタイトルで、前から順に(株)セタ、(株)アスキー、(株)ランダムハウスが発売)されており、決勝前、“4強”の優勝争いを疑うものはなかったといってよい。ところが結局、互いに星をつぶしあうこととなり、最終戦を待つまでもなく、4強の優勝の目は消滅。手順の傾向などを研究されやすい、という市販プログラムの宿命もあった。

 こんな中で、IS将棋の前に立ちはだかったのが、もうひとつの伏兵“SHOTESTv.2.0”。地味ながら予選を3位で通過したプログラムで、開発者は「チェスのアルゴリズム研究が本職」というイギリスのプログラマーJeff Rollasonさん。SHOTESTはIS将棋と同様、昨年が初出場であったが、予選で10位とあえなく敗退しており、今大会でももちろんノーマーク。しかし本日、大盤解説をした日本将棋連盟6段の武者野勝巳氏は、「まだまだ粗削りだが、コンピューターを翻弄するような、意外性のある人間らしい手を打つ」とその棋風を評価。そして何よりも、予選でIS将棋に土をつけた唯一のプログラムでもある。

 最終戦は、5勝1敗のIS将棋と、4勝2敗のSHOTESTとの直接対決となった。IS将棋が勝てば、もちろん優勝。SHOTESTが勝てば、規定により直接対決に勝利したSHOTESTの優勝。対局がスタートすると、会場はいやが上にも盛り上がった。両者とも“矢倉囲い”という陣形で自陣を固める作戦。IS将棋は、予選では中飛車戦法を駆使して敗北したため、作戦を変更している。中盤で、SHOTESTが持ち前の“意外”な一手を放ったが、これが裏目となった。流れは大きくIS将棋に傾き、完全にIS将棋のペース。SHOTESTも執拗に抵抗したもののついに投了、IS将棋開発者4人の「やった」というガッツポーズとともに、第8回コンピュータ将棋選手権の幕は閉じた。

 IS将棋を開発した棚瀬寧さん、長井歩さん、後藤礼史さん、岸本章宏さんは東京大学理学部大学院の同級生。IS将棋は誕生して2年足らず、昨年の初出場では予選6位で姿を消しているだけに、対戦相手や観客だけでなく、4人にとっても優勝が信じられない様子だった。リーダー的存在の棚瀬さんは、最終戦の勝因を「SHOTESTに負けて、昨夜アルゴリズムを修正したんです。矢倉囲いならばいけると思った」と分析し、「1年間、開発に打ち込んだかいがあった」と喜びを表わした。最終戦が始まる前、棚瀬さんがコンピューターに手を合わせ、じっと拝んでいる姿が印象的だった。(報道局 浅野広明)

 



・決勝の結果

1位 IS将棋 6勝1敗
2位 金沢将棋3 4勝3敗
3位 SHOTEST v2.0 4勝3敗
4位 柿木将棋 4勝3敗
5位 YSS8.0 3勝4敗
6位 森田将棋8 3勝4敗
7位 宗銀Win 2勝5敗
8位 Mブレイン 2勝5敗

*勝利数が等しい場合、負かした相手の勝利数の合計が多いチームを上位とする。

http://www.ff.iij4u.or.jp/~jun1/csa/

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