日本企業は世界でどう戦うべきか?
あれから76年、パナソニックには特別な中央電気倶楽部の意味
2008年11月05日 05時01分更新
大阪・堂島という場所
牛丸副社長が、この場所を選んだのには理由がある。
1932年(昭和7年)5月5日。中央電気倶楽部において、同社は「第1回創業記念式」を開き、創業者である松下幸之助氏は、集まった168人の社員に対して、「所主告辞」を発表した。
所主告辞では、「凡ソ生産ノ目的ハ 吾人日常生活ノ必需品ヲ充実豊富タラシメ 而(しかも)シテ其生活内容ヲ改善拡充セシメルコトヲ以テ 其主眼トスルモノデアリ 私ノ念願モ 亦茲(またここ)に存スルノデアリマス」との言葉が含まれ、松下電器が生産する電機製品によって、生活を改善していくとの使命感を示している。
もともとパナソニックの創業は、1918年(大正7年)3月7日である。創業から14年も経過して創業記念式というのもおかしな話ではあるが、そこには幸之助氏の熱い想いがあった。
ある日、幸之助氏は知人の誘いを断りきれずに、奈良県天理市の天理教本部を訪ねた。幸之助氏自身は、天理教の信者ではない。だが、この時、喜々として奉仕する信者の姿を見て、大きな感銘を受けたという。そして、それが、事業経営について深く考えるきっかけになったのだという。
幸之助氏は、自らの立場に置き換え、次のように結論づける。
「人間には精神的安心と、物質的豊かさが必要である。宗教は、人々の悩みを救い、人生に幸福をもたらす聖なる仕事である。対して、事業経営も人間生活に必要な物質を生産、提供する聖なる仕事ではないか。そこに事業経営の真の使命があるはずだ。今後はこの真の使命に従って、経営をしていかなければならない」
そして、この時、語られたのがパナソニックの経営の源泉ともいえる「水道哲学」である。
「産業人の使命は貧乏の克服である。そのためには、物資の生産につぐ生産をもって、富を増大させなければならない。水道の水は加工され価あるものであるが、通行人がこれを飲んでもとがめられない。それは量が多く、価格があまりにも安いからである。産業人の使命も、水道の水のごとく物資を豊富にかつ廉価に生産提供することである。それによって、この世から貧乏を克服し、人々に幸福をもたらし、楽土を建設することができる。松下電器の真の使命もまたそこにある」
幸之助氏は、この水道哲学を実現するために、建設時代10年、活動時代10年、社会への貢献時代5年の25年を1節とし、これを10節繰り返す「250年計画」を発表。テーブルを叩きながら、強い意志を持って語られたこの言葉に感動した社員たちは、続々と壇上に駆け上がり自らの所信表明を行った。
その後、この日を、本来の創業日とは別に「創業命知の日」と呼び、幸之助氏はその後、「うちの創業日は昭和7年5月5日」と公言してはばからなかった。
そしていまでも創業記念式では、「所主告辞」が読まれている。
パナソニック株式会社にとって、それだけ重要な場所が、この中央電気倶楽部である。
牛丸副社長は、この場において、パナソニックへのブランド一本化による進化を、決意として表明してみせた。
そして、同時に、パナソニックに変わっても、経営理念や企業としての本質が変わらないことを示した。
創業命知から76年。国内販売部門は、パナソニックブランドによる白物家電事業を、同社にとって、あまりにも大きな意味を持った場所からスタートした。
ナショナルからパナソニックへのブランド統一により、新たなパナソニックに生まれ変わるには最適な、いや最適すぎる場所だったといえよう。
あとは、パナソニックブランドの白物家電を、いかに短期間に深く、国内市場に浸透させることができるか、事業をどこまで成長させることができるかといった成果が求められることになる。
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