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発展し続ける「ウィジェット」

2008年08月06日 18時00分更新

文● 柴田文彦

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シームレスな環境を目指すウィジェット

 OS 9までのMacにも、仕組みはまったく異なるものの、今日のウィジェットに相当するミニアプリケーションがあった。それは、初代MacにまでさかのぼるDA(デスクアクセサリ)だ。

 当初のMacは、マルチタスク機能を持たず、一度にひとつのソフトしか使うことができなかった。何かのソフトを起動すると、Finderまでもが、いったん終了してメモリー上から消えてなくなる。これは当時のミニマムなハードウェアを考えると、やむを得ない仕様だったとも言えるが、そのままではユーザーはかなりの不便を被る。そこで、その不便を軽減するために考えられたのがDAだった。デバイスドライバーとしてシステムに組み込むことで、一般のアプリケーションが動作中でも、複数のDAを使うことができた。

 本来は、電卓やアラーム時計といった単機能のソフトを動かすための環境として用意されたものだが、一般のソフト顔負けの機能を実現するものも登場し、Macでマルチタスクが可能になった後も、OS 9時代まで使われ続けた。一種のソフトウェアプラットフォームとして予想外に大きな発展を見せたその背景には、「アップルマーク」メニューから選択して素早く起動できるというインターフェースとしての利便性があったことも、重要な要因だろう。

 OS XではDAは使えなくなってしまったが、それでもミニソフトの実行環境に対するニーズは根強くあったはず。それは強力な機能よりも、手軽な使いやすさに対する要求だ。そうしたアップルが取りこぼしたニーズは、よくあることだがサードパーティーが拾うことになる。それがDashboard以前にMac上でウィジェットの動作環境を実現した「Konfabulator」だった。

 KonfabulatorにしろDashboardにしろ、現在のウィジェットは少なからずウェブアプリケーションの技術を応用している。このような特徴をさらに押し進めたのが、OSに依存しないアプリケーション実行環境の普及を目指す「Adobe AIR」だ。MacとWindowsの垣根を取り払うだけでなく、ある意味ローカルなソフトとウェブアプリケーションをシームレスに接続するものとも言えるだろう。こうしたシームレスな実行環境の原点は、MacのDAにあったと見ることもできるのだ。

 一方のWindowsでは、比較的早くから曲がりなりにもユーザーにマルチタスク環境を提供していたこともあり、DAのような特殊なミニソフト実行環境といったものは存在しなかった。初期のWindowsで「アクセサリ」と分類されているものも、技術的には一般のアプリケーションと変わらない。電卓などもウィンドウ内に固有のメニューを持つスタイルで、DAやウィジェットとはかなり雰囲気の異なるインターフェースだ。これはXPまでずっと変わらなかった。しかし、そうした状況もVistaのサイドバーの登場で一変した。この点から見ても、Windowsもここである種の転機を迎えたのだ。名前の違いはともかくとして、こうしたウィジェット実行環境は、単なる流行ではなく、OSの違いやプログラムが動作する場所などをユーザーに意識させない、シームレスなソフトウェア環境への先駆けとなるものと考えられる。

Mac OS

Mac vs Win 初代のMacから装備していたDAでは、電卓、時計、パズルゲームなど、今日のウィジェットとも同様のジャンル、規模のミニアプリケーションが揃っていた。時計など、すでに伸縮するウィンドウを採用している
Mac vs Win 「アップルマーク」メニューから選ぶだけで起動するというDAの手軽な使いやすさは、OS 9にまでそのまま受け継がれている。ジョブズがデザインしたと言われている電卓も、初代からほとんど変わっていない
Mac vs Win Mac上でのウィジェット実行環境の先駆けとなった「Konfabulator」は、純正のDashboardの登場後、マルチプラットフォーム化した。また米ヤフー社に買収されたおかげで、無償で使えるようになったのはユーザーにとってはむしろありがたいことだった
Mac vs Win Adobe AIRは、ウェブアプリケーションの開発環境や開発手法を生かして、デスクトップ上のミニアプリケーションを開発できるというもの。中味はDashboardと同様のウィジェットだが、目的はJavaにも似ている

Windows

Mac vs Win Windows 3.1のプログラムの一分類である「アクセサリ」。名前や機能はアクセサリー的なものだが、実態は普通のアプリケーションだ
Mac vs Win Windows 3.1では「電卓」も普通のウィンドウ上で実行する普通のソフトだった。味も素っ気もないデザインだが、機能的にはなかなか優れていた
Mac vs Win Windows XPの「電卓」は、同3.1時代の電卓の使い勝手をそのまま引き継いでいる。XPまでの、ある意味貧弱なソフト実行環境の象徴と言える

(MacPeople 2008年7月号より転載)


筆者紹介─柴田文彦


著者近影

MacPeopleをはじめとする各種コンピューター誌に、テクノロジーやプログラミング、ユーザビリティー関連の記事を寄稿するフリーライター。大手事務機器メーカーでの研究・開発職を経て1999年に独立。「Mac OS進化の系譜」(アスキー刊)、「レボリューション・イン・ザ・バレー」(オライリー・ジャパン刊)など著書・訳書も多い。また録音エンジニアとしても活動しており、バッハカンタータCDの制作にも携わっている。


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