受精した卵子が胚となり、皮膚や内臓、神経などに分化していく。昔、読んだ生物の教科書にはそう書いてあった。しかし不思議なのは胚の細胞がどうして自分で「この部分は皮膚」「ここは胃」「ここは脊髄」などと分かれて1体の生物となりえるのか……。いやー、生命の神秘だなー、と思ったものだ。
今のところ、消化器、呼吸器などになる「内胚葉」、筋肉、骨、血液などになる「中胚葉」は分泌性タンパク質などが作用することで、生成がコントロールされるのが判明している。しかし、皮膚や神経の元となる「外胚葉」だけ分化にスイッチを入れてコントロールする要素が分からなかった。
しかし先日、理化学研究所が外胚葉の文化を決める要素を見つけたと発表した。その要素とは、特殊な核内タンパク質を持つ遺伝子だったのだ。この遺伝子が初期胚の細胞やES細胞などの多能性細胞に注入されると、他の胚葉への分化をおさえて外胚葉になってしまうというシステム。
現在、ES細胞やiPS細胞は失われた身体の器官を再生して治療する「再生医療」にとってなくてはならない存在で研究が進んでいる。今回の外胚葉へ分化する仕組みがわかったのは、今後の再生治療にとって大切な一歩だろう。