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「謝罪会見、つらかった」 iPS山中教授にイノベーション大賞

2014年07月08日 19時15分更新

文● 盛田 諒(Ryo Morita)/アスキークラウド編集部

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 8日、楽天の三木谷浩史代表率いる新経済連盟が「新経済連盟 イノベーション大賞」授賞式を開催。受賞者には「iPS細胞」の研究者・山中伸弥氏が選ばれた。記念の盾と賞金3000万円を贈呈された山中氏は「いろんな意味で大きな意味がある賞。国費という制限がある中で、出来ないことが出来るようになる」と述べた。

 イノベーション大賞は日本全体のイノベーション促進を目的に、同連盟が今年から設置した賞。三木谷代表は「日本人の可能性を世界に示し、日本全体に希望を持たせ、イノベーションの重要性を知らしめた」点を評価し、山中氏を選出したという。

 「iPS細胞の発明だけではなく、実用化に向けたマネジメントにも注目した。(iPSの研究から実用化までの)エコシステム構築にあたっても先生はイノベイター」(三木谷代表)


iPS研究が突き当たった「大学の限界」

 山中教授はいま、iPS細胞研究所で300人を超える研究者をマネジメントする立場にあり、自身の仕事について「ジグソーパズルを組み立てるようなもの」と説明する。

 「大学で生まれた新しい科学技術を応用に持ちこむにはさまざまなピースが必要。わたしたち基礎研究者も重要なピースだが、臨床研究や治験を経て、知財を確保し、厚生労働省に認可をもらい、生命倫理の課題を克服し、企業と連携し……さまざまな方に集まっていただかないと完成しない」(山中教授)

 一方、国費に頼らざるをえない大学研究のジレンマがあるとも山中教授は打ち明ける。25億円余りのiPS細胞研究基金を得たが、大学の研究費としては使用制限がある。

 「例えば、外国から一流の研究家を招聘しようとしたとき、奥さんを連れてくるのが条件と言われた。ノーベル賞受賞者に近い人が来てくれるのに、国費では『奥さんの分は出せない』と言われてしまう」(山中教授)

 甘利明経済再生担当大臣は発言を受け「外国の教授を呼ぶために規制があったら取っ払う」と話す。

 「日本が数年後、世界を変えていくのは常に日本からと言われるよう環境整備をしたい。(イノベーション大賞にかける)思いに恥じぬような国家体制を作っていきたい」(甘利経済再生担当大臣)



成長速度と有効性の両立が課題

 安倍内閣は再生医療を重要な成長分野と位置づけ、「再生医療は有効性と安全性が確認できれば承認を早めるべきだ」としている。iPS細胞に関しては昨年、文科省が5年間で1100億円の予算をとると表明した。

 だが反面、産業の成長速度を重視すると、STAP細胞のように話題性が先行し、第三者による検証がなおざりになるような事態も起きかねない。有効性・安全性が疑われれば研究者の負担増にもつながる。山中教授も今年4月、14年前に書いた論文をめぐり「切り貼り疑惑」の調査・検証に追われた。

 「私も最近、2回の謝罪会見をして精神的につらかった時期がある」と山中教授は当時を振り返る。「友人・家族が支えてくれてなんとかやってこられた。この場をお借りして友人や家族に感謝を捧げたい」。

 山中知佳教授夫人はこのコメントを受け、記者団を前にこう挨拶した。

 「夫には家ではとかく厳しくあたりがちだが、これからはここにいる皆様の顔を思い出し、もっと優しく大切に接していこうとお誓い申し上げたい」(山中教授夫人)


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