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「パソコン」から「オーディオ」の世界に進んだ理由──西和彦氏に聞く

2008年03月03日 18時00分更新

文● 編集部、写真●小林 伸

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パソコンには2つの積み残しがあった


 デジタルドメインの製品発表会を取材した記事では、コンピューター業界の昔の寵児がオーディオで経営の最前線に戻ってきたという論調が多かった。しかし、取材から筆者が感じとった印象は、ビジネスというよりは、純粋なものづくりとして、西氏がオーディオを捉えているというものだった。

西和彦氏

マイクロソフトでIBMのパソコンに携わったときに2つの積み残しがあり、それが心にひっかかっていたと話す

 しかし、ここで疑問も生じる。さまざまなデジタル機器が氾濫する中、成熟しきったオーディオの市場になぜ参入しようと考えたのだろうか。

 西氏は以下のように答える。

 「すこし尊大に聞こえるかもしれないですが、マイクロソフトの技術担当副社長としてIBMのパソコンを作ったときに積み残しが2つあると感じていました。それはハイクオリティーなオーディオとビデオを載せなかったということです。当時からそれが引っかかっていて、そのことをこの10年ぐらいずっと考えてきたような気がします」

 パソコンの市場はコモディティー化が進み、十分な性能を持つ製品が手ごろな価格で手に入るようになった。しかし、同時にそれが価値の均質化を生み、コストパフォーマンスの高さだけで製品の価値を判断する風潮につながっていったのも事実である。

 「パソコンでは業界構造上、値段の競争が主戦場になってきました。でも、高品位なパソコンは必要とされているんです。例えば、DTPでは正確な色の再現が求められている。デルの30インチディスプレーをビル・ゲイツも使っていたけど、こういったハイエンドのニーズは必ずあります。僕は最近は安いパソコンを設計していないし、今後もおそらくするつもりはないんだけど、高品位なオーディオ再生が可能なメディアセンターPCを1台ぐらい作ってもいいかなという気持ちは持っています」

 オーディオでしっかりとした評価を勝ち得た上で、いずれはオーディオとパソコンをつないでいきたいと西氏は話す。また、将来的には高品質なビデオの世界にも踏み込んでいきたいと抱負を語る。

 「パソコンは命が短いですが、オーディオなら10年、20年生き続ける製品を作れる。(会議室に置かれていたマークレビンソンのDACを指差して)これもずいぶん前の機械だけど、今でも高値で取り引きされています」



オーディオは自分の青春


 趣味として長年続けてきたオーディオだが、ビジネスとしてそれに携わるつもりはなかったと西氏は話す。

西和彦氏

長年趣味としてきたオーディオだが、ビジネスとして携わるとは思ってもみなかったと西氏は話す。オーディオの次は高品位なビデオの世界にも進んで生きたいと抱負を述べていた

 「アスキーにいたときは、さすがに自分でオーディオをやろうとは思わなかった。そういう会社に投資してもいいかなとは思っていたけど。でも、じっくり10年近く研究して、実際に作ったものがあって、いい音だなと言ってもらえた。1年や2年でできたものではないんです。たくさんの人にたくさん教えてもらったし……」

 神田のオフィスには、製品の開発のために集めたオーディオ機器がぎっしりと置かれていた。新品だけではなく、インターネットのオークションなどを通じて評価の高い名機も入手し、300台は実際に買って研究したという。書棚には、オーディオ雑誌「STEREO SOUND」と「無線と実験」が創刊号から並べてあった。

 「あれは僕の青春。月刊アスキーや週刊アスキーに対してもそんな風に思ってくれる人いるかな」

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