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2007年06月22日更新

第6回 納入者と購入者の利害を一致させるインセンティブ契約

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エンジニアを中心にIT業界で働く人々の間で、プロジェクトマネジメントの国際資格「PMP(Project Management Professional)」の受験者が急増しています。受験者の多くは、PMP資格のバイブルとも呼ばれる「PMBOKガイド」という本を中心に勉強をしていると思いますが、PMBOKガイドからそのまま出題されるのは試験問題全体の一部にすぎず、合格には“プラスα”の勉強が必要となります。そこで、本連載では、主にその“プラスα”を取り上げ、プロジェクトマネジメントとPMPへの理解が深まる「特別講義」を週1回掲載します。

インセンティブ契約とは

 前回はプロジェクトに係わる立場の違い(納入者と購入者)によって生じる利害の衝突を回避するための定額契約と実費償還契約を紹介しました。

 しかし、これらの契約タイプでは、その選択によって金銭的リスクは納入者と購入者のどちらか一方がすべてを受け持つこととなってしまいます。つまり、どちらかにとって、必ずリスクが100か0となるのです。同様にコスト削減によるリターンも購入者と納入者のいずれか一方のみが得ますので、こちらも100か0ということになります。

 定額契約では、納入者は利益の最大化を目的としてコスト削減に努めます。しかし、その恩恵を購入者が受け取ることはありません。一方、実費償還契約では、購入者がコストをすべて負担するために、納入者にとってコスト削減に向かう金銭的な動機づけがありません。

 リスクを取る方がリターンを得ることは当然なのですが、コストに対する意識に差が生じてしまうという、プロジェクトにおいては好ましくない状況を受け入れざるを得ないことになってしまうのです。

 これを解決する契約方法の1つが「インセンティブ契約」です。

 インセンティブ契約とは、実費償還契約をベースに、コスト削減分の一部を納入者に報酬(インセンティブ)として上乗せしようというものです。

インセンティブ契約における支払額と報酬

 インセンティブ契約では、まず「予想コスト」と「期待利益(予想コストに対する納入者の利益)」、および「配分比率(share resio)」を決めます。配分比率とは、予想コストと実コストの差額を購入者と納入者で分ける比率のことです。共有比率とも呼ばれ、[l/m]で表されます。lが購入者負担比率、mが納入者負担比率で、l+m=100となります。

たとえば、

・予想コストが100万円
・期待利益が20万円
・配分比率(共有比率)が50/50

のケースを考えてみましょう。

 実際のコストが予想どおりであれば、購入者の支払額は120万円です。

 では、コストが80万円に抑えられた場合を考えてみましょう。削減分の20万円を購入者と納入者とで配分比率「50/50」で分けると10万円ずつということになります。この結果、納入者の利益は10万円増えた30万円となります。一方、購入者の支払額は実コスト80万円と納入者利益30万円の合計で110万円となり、こちらも10万円安くなりました。

 それでは、逆にコストが120万円に増えた場合はどうなるでしょう。超過分の20万円を半分ずつ負担するので、納入者利益は10万円に減ります。一方、購入者の方は実コスト120万円と納入者利益10万円の合計である130万円が支払額となり、こちらも10万円割高となりました。

 いかがですか。このようにコストが予想よりも安く上がった場合には、その恩恵を購入者と納入者とで分け合い、逆にコストが超過した場合には超過分を双方で負担し合う。利害をともにすることで、双方が同じ目的に向かって努力する状況を作るのがインセンティブ契約なのです。

インセンティブ契約の分類

 では、上記の例でコストが150万円に超過した場合を考えてみましょう。

 配分比率を適用すると、購入者の支払額は予定の支払額120万円から25万円増えますから、145万円です。残りの5万円は納入者負担となり、納入者利益はマイナス5万円となってしまいます。

 このようにならないために、あらかじめ納入者にとっての下限の報酬額を設定します。どんなに予想コストを超過しても実費の償還を保証するのです。これを実費償還契約におけるインセンティブ契約といい、「CPIF(Cost Plus Insentive Fee)」と呼びます。

 上の例では、下限の報酬額を5万円と決めた場合、実コストが130万円を超えてしまうと、契約の実態は前回説明したCPFF(Cost Plus Fixed Fee)契約と同じになるのです。

 反対に上限の支払総額を設定しておく方法をFPI(Fixed Price Insentive)、またはFPIF(Fixed Price Insentive Fee)といいます。こちらは定額契約に分類されるインセンティブ契約となります。

定額契約と実費償還契約の複合型:T&M契約

 ここで、PMBOKガイドに挙げられている契約タイプをもう1つ紹介しておきます。「T&M契約」(タイムアンドマテリアル契約)と呼ばれるものです。

 契約は、定額契約と実費償還契約の両方の特徴を持つ契約タイプで、プロジェクト開始時に時間(T:Time)や資材(M:Material)の単価やレートをのみを決める契約です。

 固定レートなので、納入者の調達レートが予想を上回ってしまう場合が納入者のリスクとなり、定額契約に近い部分です。

 また、総時間や使用量を決めないために、支払総額は契約時に分かりません。これが、実費償還契約に近い部分となります。

 たとえば小額のプロジェクトなど、契約の段階での正確なコスト予測の必要性が低いケースでは、T&M契約によって契約作業自体を簡略化することが可能です。ただし、効率化やコスト削減に対する納入者の動機づけはありませんから、執行に際しては購入者による監視が必要になります。

 いかがでしたか。ここまで解説した契約タイプは、定額契約と実費償還契約、およびT&M契約の3つ、さらに別の切り口としてインセンティブ契約の有無があるのです。下表にまとめましたので確認してみて下さい。

 次回は、契約タイプに関する例題に挑戦してみましょう。

第5回、第6回のまとめ
第5回、第6回のまとめ
隈元辰浩

著者 隈元辰浩
ブリスポイントネットワーク代表取締役。PMP試験対策講座や生産マネジメントゲーム研修など、プロジェクトマネジメントに関するものを中心に、さまざまなビジネス研修や講座を行なう。


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