DRMフリーのコンテンツ配信サービス“iTunes Plus”が、国内でも31日から始まった(関連記事)。
アップルと英国のEMI Groupが、DRMフリーの配信サービスに取り組んでいくというアナウンスそのものは、すでに4月に行なわれていた(関連記事)が、その時点で、iTunes Plusが国内で提供されるかどうかは、未定とされていた。結果としては国内と海外の足並みが揃う形になった。
DRMフリーのコンテンツ配信に関しては「当然の流れだ」「むしろ遅すぎたぐらいだ」と考える読者が多いかもしれない。筆者もそれに近い意見だが、とかく保守的と言われる国内でも、海外と歩調を合わせる形でDRMフリーのサービスが開始された意義はとても大きいと感じている。
ユーザーの便宜を考えることが、結果につながる
東芝EMIの決断は「複雑なDRMはユーザーに不便を強いるだけでなく、市場や音楽ビジネスの発展にとっても好ましくない」という考え方が、著作権者にも少しずつ浸透してきたことのあらわれであると思う。編集部の取材に対してニューメディアグループの山崎氏は「いままでやってきたことの中で、ご批判を含めていろいろなことが分かってきた」ともらした。
「DRMをなくすことによる弊害が出るかもしれないが、それよりもお客さんの使いやすさを一番に考えるべき」だと山崎氏は言う。「気軽に買える環境を作って、それでビジネスが拡大していけばいいんじゃないか」という考え方を全世界のEMIグループで共有しているのだという。
DRMフリーは国内でも広がるか
東芝EMIは、基本方針として、現状配信している楽曲のすべてにDRMフリーの選択肢を設ける。国内ではいまのところ17~18万曲がDRMフリーの状態でデータ化されているが、これらは、順次iTunes Plusの配信楽曲として提供されていく。
また、同社は現在13社の音楽配信サービスに楽曲を提供しているが、これらのサービス業者との間でも、少しずつDRMフリーの配信に関するディスカッションを始めているという。iTunes Plusが一定の成果を挙げれば、それに追従するレコード会社や配信会社も増えていくだろう。
一方で、DRMは必要という根強い声もある。
先日行なわれた記者発表会で、レーベルゲート(株)の今野敏博代表取締役社長は「著作権保護は音楽を作る人へのリスペクトであり、必要なことだ」とコメントしている。その上で、DRMの使いにくさそのものを改善していく必要があるという姿勢を改めて打ち出した(関連記事)。レーベルゲートは、国内の大手レコード会社の共同出資で設立された音楽配信サービス会社で、大手配信サイトの“mora”などを運営している。
東芝EMIとレーベルゲートの姿勢は一見対照的に見えるが、現状のDRMのあり方に、権利者サイドも問題意識を持っているという点は共通しているように感じる。
DRMフリーは、著作権フリーという意味ではない。パソコンにダウンロードしたコンテンツのバックアップや、プレーヤーへの転送に技術的な制限が加わらなくなったとしても、コピーが許されるのは私的な利用に限られている。ユーザーが入手したコンテンツをインターネットを使って好き勝手に配布していいというわけではない。
ユーザーの著作権意識も問われている
DRMはコンテンツを利用するユーザーと、アーチストやレコード会社の間にムダな軋轢を作ってしまったような気がする。重要なのは、ユーザーとレコード会社の間の信頼関係を取り戻すことだ。
店頭に足を運ばず好きなアーチストの音楽を気軽に入手できる音楽配信は、本来であれば、音楽との出会いの場をより一層豊かなものにしてくれるものである。
「今回の主旨は、より使いやすく、音質もあげてお客さんに満足できる商品作りを行なうこと。これをぜひ楽しんでいただきたいと思うと同時に、アーティストの権利も守りながら、育てていきたいという気持ちもあります」と山崎氏は話す。
使いやすく高音質なコンテンツを、ユーザーが納得できる価格で提供するという企業努力も必要だが、アーチストがいい作品を生み出せる環境についても、改めて考えなければいけないと思う。