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日本SaaS普及の足がかりになるか? 日本大学のGoogle Apps導入について聞く(後編)

2007年05月03日 00時00分更新

文● 吉田彰男

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 4月3日からグーグル(株) の提供する『Google Apps Education Edition』を導入した日本大学。後編では、その導入の意図について日本大学の関係者にお話をうかがった。

吉田氏と小野氏

お話を伺った日本大学総合学術センター情報企画課 課長の吉田誠氏(左)と同システム管理課 課長補佐の小野浩樹氏(右)



10万人の学生に同じ水準のサービスを提供したい


 日本大学は、これまで、14の学部や短大、研究機関などが日本各地に分散しているだけでなく、各組織が異なるネットワークシステムを運用していたため、性能や学生するサービスの差、構築/運用コストの過負担といった問題を抱えていた。

 日本大学総合学術情報センター 情報企画課課長の吉田誠氏は次のように話す。

「改善ポイントは大きく分けて3つありました。学部間の標準化による学生サービスの均一化、運用に関わるコストの削減、セキュリティの強化です。グーグルさんがサービスを開始したことは昨年の8月ごろに知りました。まずは、学内でも前向きだった松戸歯学部、商学部、薬学部、経済学部の4学部のメンバーからなるワーキンググループを立ち上げ、導入に向けて動き出したんです」(吉田氏)

吉田氏

学生に対するサービス向上はこれからの大学にとって重要と吉田氏

 Google Apps 導入の陣頭指揮を取ったワーキンググループのリーダー・小野浩樹氏は下記のように話す。

「最初にグーグルさんにお話をうかがったのは昨年10月でした。大学の予算を使って、自前のシステムを構築するというプランもありましたが、なんといってもGoogle Appsはサービスが無償で、アカウントもほぼ無制限に追加でき、すべての学生に対して同じレベル──しかもかなりハイレベルなサービスを、行き渡らせられる点に魅力を感じました」(小野氏)



Google Appsの進化の速度には驚いている


小野氏

Gmailの機能の豊富さに感銘を受けたと小野氏

 今回の導入に際しては「タイミングも良かった」と小野氏は言う。実はグーグルと話を始めた数ヵ月後に、類似したホスティングサービスの提案を競合メーカーからも受けたのだという。

 大学当局から承認が降りたのは12月19日。年明けには、システムインテグレーターを通じて、日本大学向けのカスタマイズが行なわれた。具体的には、日本大学の持つ生徒ひとりひとりのデータベース(学生基本台帳)とGoogle Appsの連携が図れるアカウント管理システムの構築である。この間にも、Google Appsはバージョンアップが重ねられ、APIに関しても変更が加わった。そのスピードに業者が追いつくのも大変だったそうだが、グーグル側のサポートも迅速で、滞りなく進められたという。

「Google Appsでは、利用できるアプリケーションを管理者が自由に選択できるようになっています。日本大学の場合、『Gmail』『Google Talk』『Google Calendar』の3つからスタートしましたが、学生に開放してからすぐに『Google Docs & Spreadsheets』を追加しました。その後も『Start Page』や『Google Page Creator』などを加えていくことになりましたが、この速さに教える教員を付いていかせるのも大変です。(小野氏)

 ちなみに、Google Appsの利用に際しては、アカウント発行時には大学内のシステムからアクセスする必要があるものの、ひとたびIDとパスワードを取得してしまえば、学外(自宅のパソコンなど)から自由に利用できるようになる。「ウェブメールは学生も普通に使っているので、違和感なく使ってもらえるはず」と小野氏は話す。

 学生に対してGoogle Appsのどのサービスを提供するかは、大学側が選択権を持つが、今後は携帯電話などからアクセスできるようにしていきたいという。なお、現状のサービスでも、Gmailの転送機能などを利用して、大学のアカウントに届いたメールを携帯電話で参照することが可能だ。こういった柔軟性の高さもGoogle Appsを導入したきっかけになった。



学生のニーズにあったサービスを提供できない大学は取り残されていく


 4月3日に7学部、約3万人の学生にIDを配布して1ヵ月ほど経過した。『Google Apps』の使われ方には、温度差があるようだが、「ゴールデンウィークが明けて、学生が本格的にキャンパスライフを送り始める5月が過ぎれば、具体的な状況が入ってくる」と小野氏は話す。大学側では、サークル内や研究室の連絡、講義や試験の時間割の案内や学校行事・休講などの告知、レポートの作成・共有・提出などにもGoogle Appsが活用できると想定している。

 Google Appsに代表される、低コストで品質の高いサービスを提供できるホスティング型のサービスには他の大学も関心を示している。前出の吉田氏は、他大学からの問い合わせも受けていると話す。

「学生のニーズに合ったサービスを提供し、それを高めていけない大学はどんどん時代に取り残されていくでしょう。Goolge Appsの導入により、学生へのサービス提供が高いレベルで標準化されたことは、当校にとって大きなアドバンテージになると考えています。できれば他大学さんにもどんどん導入していただき、グーグルさんが後戻りできないような状況を作ってもらいたい(笑)。Google Apps には、日本の教育機関全体のコミュニティーを、大きく変えていく力があるのですから」(吉田氏)


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