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「今後発火事故は起こさない!」

JEITAとBAJ、安全なリチウムイオン電池を作るための手引書について説明

2007年04月25日 20時39分更新

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(社)電子情報技術産業協会(以下JEITA)と(社)電池工業会(BAJ)は25日、東京都内にて記者説明会を開催し、両者が20日に公開した“ノート型PCにおけるリチウムイオン二次電池の安全利用に関する手引書”(以下手引書)についての説明を行なった。手引書に準拠してリチウムイオン二次電池(電池)やバッテリーパックを設計・評価することで、充電池の安全利用を著しく向上させるとしている。

ノートパソコン用バッテリーパックの中身の見本

ノートパソコン用バッテリーパックの中身の見本。1本のセルを“単電池”、単電池を複数まとめたバッテリーパックを“組電池”と称する

2006年に相次いだ、ノートパソコン用充電池の発火事故と回収騒動は、まだ記憶に新しい。JEITAとBAJはこれらの事件の発生を受けて、電池そのもの(単電池)の製造や、ノートパソコンに使用するバッテリーパック(組電池)の製造について、“より安全な利用に関する指針”が必要であるとして、2006年10月に“ノートPCリチウムイオン電池安全利用特別委員会”を発足。技術検討ワーキンググループ(WG)で指針の取りまとめを行なっていた。手引書はその指針をまとめたものである。手引書の対象となるのはノートパソコン用のリチウムイオン電池のみで、そのほかのデジタル家電などは対象としていない。

説明会の冒頭で、同委員会委員長の山本正己氏は、同委員会は起こった事故への対策ではなく、リチウムイオン電池搭載ノートパソコンのさらなる安全性を追求し、「今後、発火に至るような事故は起こさない。重大事故は0にするという究極の目標に向かって活動を進めている」と力強く述べた。また、後を受けて発言したBAJ 小形二次電池部会部会長の中谷謙助氏も、手引書の意図について「治療ではなく、その先を考えた予防にある」と述べ、今後の安全対策のための指針であることを強調した。

手引書の要旨については、JEITA 技術検討WG 主査の中尾健治氏(レノボ・ジャパン(株))と、BAJ“リチウムイオン電池安全性および安全使用特別委員会”委員長の世界孝二氏によって説明が行なわれた。説明に先立ち中尾氏は、製造部門での品質改善活動によって、製造工程内での不良率は大きく下がる一方で、さらに大きな品質改善を実現するには発想の転換・意識改革が必要であり、手引書はこれを説明するものであるとした。

JEITA 技術検討WG 主査の中尾健治氏

JEITA 技術検討WG 主査の中尾健治氏

単電池と組電池のそれぞれに指針を定義

手引書は大きく分けて、バッテリーパックの中にある単電池と、バッテリーパックそのものである組電池の、それぞれ設計における留意点を明記した章と、単電池、組電池とそれを搭載したパソコン自体に対する試験および判定基準で構成されている。単電池に関しては、まず発火の要因となった内部短絡(電池内の異物によるショート)を防止するために、製造工程管理面での異物混入防止や、内部短絡の発生しにくい、あるいは発生しても発火に至らない構造設計の必要性が明記されている。

また、単電池を安全に使うための考え方として、充放電電圧・電流・温度域のそれぞれについて、安全領域の指針が示されている。例えば、充電時の電圧については4.25Vを上限とするほか、充電電圧や充電電流の安全域が狭まる低温度域や高温度域では、これらの値を下げることが望ましいとしている。

上限充電電圧の指針を示すスライド

上限充電電圧の指針を示すスライド。一般的な温度条件では、4.25Vを上限として、それを超えることは避けるとしている

上限充電電圧と最大充電電流、温度の上限下限の例

圧壊や過充電試験時の、上限充電電圧と最大充電電流、温度の上限下限の例

単電池を上限電圧・最大充電電流で充電したうえで、圧壊や外部短絡、外部過熱などの追加試験を実施することも求めている。追加試験については、充電済みの単電池内に微小な異物を挿入した上で外から圧力を加えて、模擬的に内部短絡を発生させて挙動を調べる試験も新規に検討されている。

新規に検討されている、内部短絡の試験の概要

新規に検討されている、内部短絡の試験の概要。充電した電池の内部に異物を加え、さらに外圧を加えて短絡を発生させる

組電池については、ひとつの単電池に発生した障害が他に波及して被害を拡大させることを防ぐ構造や、振動・衝撃対策、温度対策、過充電・過放電対策、さらに電池の劣化をユーザーに警告する手段などが言及されている。

構造面では、単電池の向きの指定や電池間に適当なスペースを設けることで、被害がほかに波及することを防ぐことが求められている。さらに、短絡による過熱で単電池内に発生した高温の電解液蒸気を単電池外に排出した場合、蒸気がバッテリーパック内に溜まって引火することを防ぐためにパックに蒸気の排出口を設けるほか、排出蒸気がユーザーの方に排出されないような設計も求めている。中尾氏は、蒸気をノートパソコン内部の空間に排出するという案を示し、それによってパソコン自体が破壊されたとしても、非常事態であればユーザーが負傷するよりはましである、との考えを述べた。

バッテリーパック内の単電池配置の例

バッテリーパック内の単電池配置の例。電池間にスペースや断熱構造を設けて、ひとつの電池の異常発熱がほかに波及しないように配慮する

電解液蒸気の排出口の例

電解液蒸気が洩れた場合、ユーザーにとって安全な方向へ逃がすことで、発火や破裂を防ぐ構造も求められる

そのほかにも、バッテリーパック内の制御回路基板が熱や液漏れによって破損しないように、隔壁を設けたりコーティングで保護するという指針や、バッテリーパック自体に自己消火機能(加熱が続かない限り、発火しても自然に消える)を備えた難燃性材料を使用することも求めている。

温度管理については、パック内の単電池の表面温度を測定する機構の設置や、単電池間の温度を均一化すること、温度異常感知時の充放電回路の遮断が必要とされている。充電についても、単電池間の充電のばらつきを監視して、上限充電電圧を超えた場合の電池利用制限を行なう。電池の劣化については、検知してユーザーに告知を行なうメカニズムが求められている。例では、容量保持率(初期容量を100%として、どれだけ充電容量が低下したかの割合)が50%を割り込んだ場合は“劣化の進行”を、30%を割り込んだ場合は電池の使用禁止をユーザーにメッセージで告知するとの案が示された。

電池の劣化は、必ずしも各単電池に平均して起こるわけではない

電池の劣化は、必ずしも各単電池に平均して起こるわけではなく、バランスが崩れると劣化が進行した方の単電池から液漏れが起こる可能性が高まる。劣化度合いをユーザーに伝える仕組みが求められる

レノボのノートパソコンに搭載されているバッテリー情報を表示するソフトの例

レノボのノートパソコンに搭載されているバッテリー情報を表示するソフトの例。バッテリーからの詳細な情報を、OSやアプリケーション側で利用するための標準化も必要となるだろう

今回の手引書には法的な拘束力はないし、現時点では国際的な標準規格でもない。しかし、JEITAとBAJでは電池やノートパソコンの設計・製造事業者に対して、今回の手引書への準拠を「強く推奨する」と、異例の調子で強く求めている。海外の製造事業者に対しても、手引書の英訳版の作成を行なって、手引書への準拠を広げていく。また、国際的な標準化組織のひとつである“国際電気標準会議”(IEC:International Electrotechnical Commission)に規格化検討の提案を行ない、検討の開始がすでに認められているという。

また、ノートパソコン以外のリチウムイオン電池を使う機器についても、今回の手引書を元にそれぞれに機器に対して水平展開を行なう予定であるという。

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