スシ・ポリスから見えてくるブランド戦略不在の日本
── “スシ・ポリス”の話が本の冒頭に出てきます。
【坂村氏】 イタリアなんかは自国の料理というカルチャーを世界に主張していくために、イタリア政府の認定料理店というのがあります。日本にも17店くらいあるんですよ。タイ政府もやっている。フランスなんかは政府がやらなくても、ミシュランが世界的権威を持っていて、そういう機能を果たしている。
ところが、農林水産省が日本食の認定制度を海外で始めようとすると“料理ナショナリズム”だとかニセ日本食を取り締まる“スシ・ポリス”だという話になってしまう。
── なぜ日本ではそういう展開になるのでしょうか?
【坂村氏】 ここで問題になるのは、海外の自国料理のレストランを評価すること自体は、世界的にズレているわけじゃないのに「何でスシ・ポリスという話になっちゃうんだろうか?」という点だと思うのですよ。
あれはプレゼンテーションの失敗としか言いようがなくて、せっかくいいことを考えても、うまく説明できずに誤解を受けちゃっている。「それじゃカリフォルニアロールはスシじゃないのか?」なんて別の話になってしまう。話が本筋とはずれたヘンな方向にいっちゃったりするんですよね。
例えば、イタリア政府の認定料理店でなくても、イタリア料理店として営業したって構わないわけですよ。日本の喫茶店に行けば、ナポリタンとか、イタリア料理だか何だか分からないものも出てくるわけです。そんなものに対して、イタリア人はケチを付けませんよね。
日本が、いま変わらなければならない点はたくさんあるけど、そういうプレゼンテーションのやり方とか、世界に対するアピールの仕方を考えなければならないと思いますね。
── 日本のブランディングもありますよね。
【坂村氏】 そういうことをやるべきだと書きました。せっかく、制度を作ってもスシ・ポリスのようにつまずくというのは、まさにマネージメントの失敗ですね。
ブランドマネージメントが重要だというのは、高級ブランドショップに行ってみると分かります。なんでもないように見えるビニールのバッグが15万円で売れるなんて凄いなと思うんだけど、あれなんかはブランドマネージメントの勝利ですよね。
だって、それを買ってしまうわけでしょう。ブランドなんてまさに究極のソフトだと思うんですよね。そういうことに対して、日本は気付かないといけない。
── 日本には、そういう戦略がない。
【坂村氏】 日本は、いいものはたくさんあるんですよ。もうちょっとやり方に気を付ければ、正当に評価してもらえる。
やり方で失敗するのは、結局オペレーションする人たちに哲学や戦略がないからなんです。だから間違える。日本はそういうマネジメントが下手です。国だけじゃなくて、企業もそうだし、個人も変わらないといけない。(こういったことは日本人だけの問題じゃなくて)実は、世界にも望まれていると思いますよ。
(後編に続く)
遠藤 諭(えんどう さとし)
(株)アスキー取締役。1991年より『月刊アスキー』編集主幹。日本のモバイルやネットのこれからについて、業界での長い経験を生かした独自のスタンスで発信している。著書に『新装版 計算機屋かく戦えり』や 『遠藤諭の電脳術』など。ブログ“東京カレー日記”も更新中。