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ジェネラルパーパス・テクノロジー(前編)

日本のITは20年間進化していない──野口悠紀雄が語る

2008年07月16日 11時00分更新

文● 遠藤諭、語り●野口悠紀雄

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野口悠紀雄

野口悠紀雄氏。バブル経済の問題点をいち早く指摘したことでも知られる

 日本の電子政府は北朝鮮以下──そんな衝撃的な調査を米ブラウン大学がまとめた。1980年代に世界を席巻した日本が、なぜ停滞しているのか。

 経済学者の野口悠紀雄は「ITは日本にとって不利な技術変化だ」と断言する。下克上を生むITは、本質的に日本の社会構造にそぐわないのだろうか? ここでは近著「ジェネラルパーパス・テクノロジー」(アスキー新書)で同氏が展開している議論を紹介しながら、さまよう日本政府や企業の行く末について考える。



80年代、日本は世界を制覇したかに見えた


── 本書を書くとこになったきっかけは?

「ジェネラルパーパス・テクノロジー/日本の停滞を打破する究極手段」(アスキー新書)。野口悠紀雄、遠藤諭著。定価780円

野口 日本経済の状況は、かなり深刻です。昨年の夏から、株価も大きく下落しています。長期的にみても、1990年代以降、日本の経済はまったく状況が良くない。その原因としてさまざまなことが言われていますが、技術の問題、とくにITの問題が大変重要だと思います。簡単にいえば、ITという新しい技術体系に日本の社会全体が対応していないということです。そうしたことを以前から考えていましたが、遠藤さんとのお話しの中から、共同で本を書こうということになったわけです。

── 一昨年の暮れにお会いしたいときに、すでにこれに近いお話は出ていましたね。

野口 1990年代以降の話ですから、ここ1、2年に起きたというよりも、かなり長期的な問題です。1970年代頃まで、日本経済はかなりうまくいっていた。とくに1980年代には、日本が世界を制覇したと思えた面もありました。ところが、1990年代になって、状況が悪いことが誰の目にも明らかになった。一般には、1980年代のバブルが崩壊して、日本経済が悪くなったのだと考えられています。しかし、それよりも本質的な問題があるというのが、私の見方です。

── そもそも1980年代が良かったことすら実感がなくなってきています。

野口 世代によってとらえ方が違うかもしれませんね。私は1980年代に何度かアメリカで講演をする機会がありましたが、日本経済についての講演会には、多数の聴衆が集まりました。講演会が終わったあとでは、聴衆が私のところに寄ってきて、日本に投資したいのだがアドバイスが欲しい、といったことを言われました。

 アメリカのある町で講演をやったときのことですが、世話役はGM(ゼネラル・モーターズ)の副社長をやって引退した人でしたが、その人が翌日に飛行場まで車で送ってくれることになっていた。GMの副社長をしていた人ですから、車は当然キャデラックですが、スタートしようとしたら、エンジンがかからない。

 そのとき、彼が言うには、非常に残念だ。昔ならこんなことはなかった。GMのキャデラックが動かないというのはどうしたことだというのです。日本車だったらこういうことはないのかもしれない、とも言いいました。私は、このときのことを、とてもよく覚えています。

1980年代、世界に大きな影響力を持っていたハズの日本がなぜ停滞しているのか……

──  1980年代だと日本製品はよいものだということが定着していますからね。

野口 当時のアメリカ人は、我々の子供の世代は、我々と同じくらいの豊かさを享受できるだろうかと、真剣に心配していた。つまり、1960年代、1970年代がアメリカ経済のピークで、これからはどんどん落ちていく。そういうことが、アメリカ人の一般的な考えだったのですね。

 ちょうどその頃、日本はバブルになっていて、アメリカのさまざまな物件を日本企業が買いあさりました。ニューヨーク・マンハッタンの中心にあるロックフェラー・センターを日本企業が買ったというのが、象徴的な事件です。どこの町に行っても、日本の企業が中心部を買い取っていた。日本が、世界を制覇してしまうのではないか? 本当に、実感としてそう感じられた。それが、1980年代。いまからわずか20年前の話なんですね。いま思い返してみれば、信じられないようなことです。

── アメリカは、双子の赤字とかいって最悪の時期だったのに対して、日本は非常に調子がよかった。

野口 それが、アメリカのショッピングセンターなどを買い占めることに象徴的に表われていたんですね。

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