ファンデルワールス力とクーロン力のバランスを指先で感じる!
NII、分子の間に働く力を“体感”できる教材『HaptiChem』をデモ授業で公開
2007年03月15日 19時15分更新
国立情報学研究所(NII)は15日、東京・田町の東京工業大学附属科学技術高等学校にプレス関係者を集め、8方向から糸とモーターで制御された玉を操作することで、力の働きを再現できる教材装置『SPIDAR-G』(スパイダー・ジー)とWindows XP対応の専用ソフトを組み合わせて、分子の間に働く引力/斥力(反発力)を体感できるという教材『HaptiChem』(ハプティケム)のデモ授業を公開した。
ソフトウェアは本日からNIIの特設ページで無償公開されている(関連サイト)。SPIDAR-Gは教育関係者向けにすでに市販されているが、こちらは90万円超と高価なため、日本国内の高等学校での教育目的に限り、期間限定での無償貸し出しを行なう用意があるという。詳細は国立科学研究所の化学情報学研究室に問い合わせていただきたい。
山手線/京浜東北線の田町駅から芝浦側(海側)を望むと校庭が見下ろせる、東京工業大学附属科学技術高等学校で行なわれた今回のデモ授業は、応用化学分野で推薦入学した1年生の生徒12名を対象に行なわれた。
授業ではまず、分子同士が一定の距離に近づくと働く引力(ファンデルワールス力)と、静電気の作用によって分子同士が反発しあう斥力(クーロン力)の理論を20分程度学んだあとで、今度はSPIDAR-Gを使ってその力を生徒が代わる代わる体感した。
理論的には、ある一定距離まで分子が近づけていくとファンデルワールス力が働いて引力(引き合う力)が強まる、しかし特定の距離まで近づけると今度は分子同士が静電気による反発を受けて斥力(離れようとする力)が働く。これをSPIDER-Gの玉に結びつけられた糸の張力で再現するというもの。
生徒たちは制御ソフトのパソコン画面を見ながら、玉を動かしていくとファンデルワールス力が強くなる様子(玉に引っ張られる)や、引力と斥力のバランスが取れて玉が動きにくくなる点、さらに同じ方向に動かすと今度は斥力のほうが強くなる(玉が跳ね返される)様子などを体験して、不思議そうな、あるいは習った理論に納得したような声を上げていた。
この教材は、装置のSPIDER-Gもソフトウェアも国内の研究者が作ったもので、いわば純国産。可視化するソフトウェアの3Dモデルは、国立情報学研究所 情報学プリンシプル研究系助教授の佐藤寛子氏が作成した、オープンソースライブラリーの“ケモじゅん”を採用している。
実際に授業に参加した生徒たちは、「体感できるとは聞いていたけど、本当にここまで力がかかるとは思わなかった」「最初はゆるゆるだったけど、最後にぐぐぐっと引っ張られて、釣りをやってるような感じがした」「化学は目に見えないこととか体験できないことなので、周りにプレゼンするときには想像で補わなければならないことが多いので、実際に体験できてよかった」などの感想を口にしていた。
一方、今回のデモ授業を実施した東京工業大学付属科学高等学校校長の市村禎二郎氏は、「情報化学の授業では、特に体験学習させることが重要。体験したことは一生記憶に残る。今回の生徒たちの中からも、今回の体験を通じて化学に強い興味を持ち、将来の進路を選んで、ノーベル賞を受ける科学者が出てきてほしい」と期待感を示した。