本連載「Apple Geeks」は、Apple製ハードウェア/ソフトウェア、またこれらの中核をなすOS X/iOSに関する解説をあますことなくお贈りする連載です(連載目次はこちら)。
UNIX使い向けをはじめ、Apple関連テクノロジー情報を知りつくしたいユーザーに役立つ情報を提供します。
巷ではiOSで盛り上がっているところ、米SONYが「SNAP」という次世代デジタル家電アプリケーションプラットフォームを発表した。意表を突いてObjective-C、それも「GNUStep」をベースに開発環境が整備されるという。GNUstepとはなんぞや? という読者も多いと思われるので、今回はGNUstepについて解説してみよう。
What's 「GNUstep」?
まさか、まさかの「GNUStep」。耳聡い読者ならばすでにご存じだろうが、米SONYがコンシューマー向けデジタル家電のアプリケーションプラットフォーム「SNAP」(Sony's Networked Application Platform)を立ち上げた。そこに採用された基盤フレームワークが、今回採り上げるGNUstepだ。
GNUstepは、OPENSTEPを構成する一部のAPI(Foundation FrameworkとApplication Kit)が1994年に仕様公開されたことを受け、NEXTSTEP/OPENSTEP互換環境を構築すべく設立された開発プロジェクト。Mac OS Xと直接のつながりはないが、極めて近い関係にある。その歴史をまずは説明したい。
1993年頃、ハードウェア販売で苦戦の末に撤退したNeXT Computer(1985年にNeXTとして創業、1986年頃NeXT Computerに社名変更、さらに1993年にNeXT Softwareに社名変更している。以下NeXTと表記)は、新たな策としてマルチプラットフォーム化を推進。NEXTSTEPの上位レイヤーとして実装され高評価を得ていた技術 ― Application Kitなどのフレームワーク ― を同社以外のハードウェアでも利用できる体勢への転身を進めていた。
OPENSTEPは、経営を安定させたいNeXTと、Solaris上にNeXTのソフトウェア技術を載せたいSun Microsystems(現Oracle)の、それぞれの思惑が合致したゆえの産物といえる。
その際に採られた戦略が、カーネル(Mach)などの基礎部分を除いた、NEXTSTEPの上位レイヤーの仕様をオープンにするというものだ。仕様は文書(「OpenStep Specification (October 19, 1994)」)として公開され、Sunに至ってはSolaris上で動作するOPENSTEP環境「Solaris OpenStep」の無償提供まで実施した。ソースコードが公開されたわけではないが、仕様がわかれば再実装可能……ということで有志ユーザーがスタートさせたプロジェクトが、GNUstepなのだ。
しかし予想外だったのは、1996年末に発表されたAppleによるNeXTの買収。オープン路線で新たな進化を始めるかに見えたOPENSTEPが、再びクローズドな世界に戻った瞬間だ。そしてOPENSTEP APIを含むNeXTの技術は、Cocoaと総称されるフレームワーク群に引き継がれ、現在に至る。
多少語弊はあるが、NeXTのDNAを持つ真の後継がMac OS Xだとすれば、GNUstepはその塩基配列を見ながら手作りされたNeXT準拠のフレームワーク、といえるだろう。
(次ページへ続く)
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