メディア運営の新潮流である“オープン化”。だがその中身は、語感とは裏腹に、すべてをコントロール下に置くプラットフォーム戦略にほかならない。
コンテンツ制作とメディア運営
コンテンツはメディアに載って初めて人の目に触れ、流通することができる。
かつては、「コンテンツの時代」とも言われ、コンテンツを持つものがメディアを制するような語られ方をされることもあったが、実際のところ、コンテンツ制作や著作権管理のノウハウと、メディア運営のノウハウはまったく異なるものだ。
ネットの登場によってメディアが多様化し、結果求められるコンテンツも細分化されたことで、インディーズコンテンツにも注目が集まるようになった。
しかし、嗜好の細分化は市場の細分化でもあり、ロングテールで商売があたかも成り立つかのような錯覚にとらわれた事業者・サービスは、そのインフラ固定費の負担に耐えきれず、あるいは費用対効果を見い出せなくなり、メディア市場から退場していくことになった(大手でも、2009年にはヤフーやAsk.jpが個人投稿型のビデオサービスを終了している)。
現在の電子書籍でも同様の見方ができる。はっきり言ってしまえば、電子書籍そのものは「誰でも作れる」。
しかし、それだけでは自費出版が単に電子化しただけに過ぎない。趣味であればそれでもいいが、もしビジネスとして成立させようとすれば、作品をどう読者に知ってもらい、購入に至ってもらうのか、送り手にとってはそのプランニングの多くの割合を占めるメディアの活用にこそ本質がある。
価値観が多様化したなかで、特定の趣味嗜好を持つ人々(コミュニティ)に対して、どう作品・商品を届けていくことができるのか? ネットメディアはそのための強力な武器でもある。しかし、その姿は日々刻々と変化している。テレビのようなマスメディアとは異なるその特徴と全体像を、今回はヤフーとGoogleの提携を通じて、把握し考えてみたい。
ヤフーとGoogleの提携をどう捉えるか?
7月27日にヤフーがGoogleの検索システムと検索連動広告システムの採用するという発表は、驚きをもって迎えられた。読者はこのニュースをどのように捉えられただろうか?
実のところ、この決定はごく自然な内容だったと考えている。
米国Yahoo!がMicrosoftのBingを採用することを決定した以上、日本のヤフーの何らかの判断を迫られていた。
井上社長の「自前で検索エンジンをもたない会社」というのはプレス向けのメッセージで、実際には日本語という特殊な言語環境に対応するために、技術開発体制はしっかりと持っている。そのリソースを今後どこに振り向けようとしているのか?筆者はむしろそこに注目している。
電子書籍のメジャーフォーマットであるEPUBや、HTML5での日本語の扱い方が議論されている。検索システムでもその対応の優劣が市場での勝敗を分ける。ヤフーもその技術開発には相当注力していた。
そう考えれば、日本語版Bingよりも早く日本語圏で展開を進めていたGoogleを採用することはとても自然な判断だ(しかも広く採用されている広告システム、Adwords・Adsenseを広告主に提案することができる)。
資本関係もある米国Yahoo!に追随する必要はなかったのか、という意見もみられる。しかし、実際のところは米国と日本との間では意見交換会が月に一回程度開催されているだけで、米国サービスを必ずしもローカライズしなければならないといった約束事も存在していなかったと聞く。
「時代は検索の時代から、ソーシャルメディアの時代に移行したのである。それだけのこと」(Techwave湯川鶴章氏)といった意見もある。Facebookに代表されるようなソーシャルメディアに対抗するためという見方だ。
確かに、検索に対してソーシャルメディアが持つ訴求力は無視できない伸びを示している。けれどもその二者を対立関係に見るのには無理がある。
ジェネラルな情報を探すのに適した検索と、射程距離は短いが鮮度と嗜好との合致率が高いソーシャル情報とは本来組み合わせて使うべきものだ。
ダイアモンド社のインタビュー(ダイヤモンド・オンライン「ヤフー 先行者利益守る巨象ではない? 自前主義捨て新たな収益目論む」)に対して、ヤフーメディア企画部長川邊健太郎氏(GyAO代表取締役も兼務)は「Facebookとの提携も考えたい」と一歩踏み込んだ発言で注目されている。
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