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「SXとビジネスは矛盾するものではない」長期的視点でチェンジメーカーを目指すための4ステップとは

“SX=サステナビリティ変革”先進企業は11%、特徴は? 富士通調査

2024年04月25日 14時15分更新

文● 大河原克行 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp

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 富士通は2024年4月23日、サステナビリティトランスフォーメーション(SX)に関するグローバル調査の結果をまとめた「富士通SX調査レポート2024」を公開した。15カ国の11業種、600人の経営層(CxO)を対象に調査を実施したもので、ビジネス成長とSXを両立している先進的な「チェンジメーカー」企業は、全体の11%を占めたという。

 富士通 コーポレートマーケティング統括部の駒村伸氏は、「チェンジメーカーに共通する特徴として『長期的な視点を持つこと』『社会と地球環境にプラスの影響をもたらしたいという動機があること』、それに加えて『SXに関して組織の枠組みを超えてデータを利活用していること』が確認できた」と述べた。

「富士通SX調査レポート2024」より。

富士通 グローバルマーケティング本部 コーポレートマーケティング統括部 シニアマネージャーの駒村伸氏

サステナビリティは「ビジネスの最優先事項」、ただし成果は実感できず

 同レポートは、ビジネスとサステナビリティの価値創出に関する経営層の意識を調査したもので、2022年度に続き2回目。FT Longitudeに調査を委託し、2023年11月~12月にかけて実施された。

 まず、サステナビリティを「今後5年間のビジネスにおいて最優先事項」ととらえる経営層は、前回調査から13ポイント増加し70%に達した。その一方で、「(第三者機関や政府などの)外部機関が定めるサステナビリティ目標を下回っている」という回答も45%(前回比22ポイント増)に及んでいる。

 また、サステナビリティ戦略を実行して「具体的な成果を実感できている」経営者はおよそ4分の1(26%)にとどまり、残りの74%は具体的な成果を得られていないこともわかった。

 こうした結果について、富士通 グローバルマーケティング本部 コーポレートマーケティング統括部 マネージャーの高橋美香氏は「経営者層がサステナビリティにおける厳しい状況に気がつきつつある」ためだと前向きに分析する。「SX推進に意欲的な企業や組織は増えているが、進捗が厳しいことが浮き彫りになった」(高橋氏)。

サステナビリティ戦略の実行により「具体的な成果が出た」とする企業は全体の4分の1程度にとどまる

 同調査では、SXの取り組みを「地球環境問題(Planet)」「デジタル社会の発展(Prosperity)」「人々のウェルビーイング(People)」の3カテゴリー/14項目に分類し、それぞれの成果についても質問している。

 「具体的な成果が出た」という回答が最も多かったのは「消費者体験の向上」だったが、それでも21%にとどまっており、それに次ぐ「情報セキュリティの確保」および「働きやすい環境と労働力不足の解消」も20%。14項目中の11項目が10%台にとどまるのが実態だ。高橋氏は、なかでも「地球環境問題」の取り組みでは成果が出ていないこと、取り組み優先度の高さと成果達成が必ずしも結びついていないことを指摘した。

 業種ごとの分析では、外部のサステナビリティ目標に対して「下回っている」とする回答が最も多かったのが「公共」(60%)、次いで「資源・エネルギー」(55%)、「運輸」(54%)など。一方で、「製造」(25%)、「流通・小売」(35%)、「製薬」(36%)はその割合が低かった。

「チェンジメーカー」企業は成果を実感、売上/収益への直接貢献も

 今回のレポートでは、SXの成熟度、14項目の取り組みにおける進捗、SXに対する姿勢や考え方の定着度など複数項目をベースに「チェンジメーカー」企業を規定している。チェンジメーカーは、SXに対する先進的な取り組みと事業成長を両立させており、13カ国、11業種に見られ、全体の11%を占めたという。

 高橋氏は、全体的にSXの進捗が鈍いなかでも、「具体的な成果を出し、より強力なパフォーマンスをあげている少数のグループ」がチェンジメーカーだと説明した。業種別では「資源・エネルギー」が17%、「医療・ヘルスケア」が13%、「銀行・金融」「製造」「流通・小売」がそれぞれ11%だった。

 ちなみに国別で見ると、ドイツでは24%の企業がチェンジメーカーであり、フィンランドでは23%、シンガポールでは17%を占めた一方で、チェンジメーカーに該当する日本の企業は“ゼロ”だった。日本のサンプル数が30人と少なかったこともあり、あらためて日本の200人の経営層に追加調査を行ったところ、チェンジメーカーの割合は4%と算出された。「だが、グローバル平均の11%に比べると低い水準であることに間違いはない」(高橋氏)。

業種別、国別の「チェンジメーカー」企業が占める割合

 同レポートでは、チェンジメーカーとそれ以外の企業の、成果や業績についても比較を行っている。

 たとえば、チェンジメーカーでは81%が「サステナビリティ戦略から具体的な成果を上げた」と回答しているが、それ以外の企業では19%にとどまっており、大きな差が生まれている。

 また、14項目の取り組みそれぞれの成果を見ると、チェンジメーカーはビジネスパフォーマンスにおいて高い成果を上げていることがわかった。高橋氏は「『顧客満足度』や『社会的責任』『収益』など、ビジネスパフャーマンスに関する12項目すべてにおいて、チェンジメーカーは、それ以外の企業の指標を上回っている」と指摘する。「過去12カ月間に増加/向上した指標」についても、「収益」「株価」「市場シェア」が増加したという回答が、チェンジメーカーのほうが15ポイント以上も高い結果だった。

 そして「SXの取り組みが、売上げ/収益に直接貢献している」と回答した割合も、チェンジメーカーでは65%に達しており、それ以外の企業(48%)と大きな差を付けている。

チェンジメーカーの場合は81%が成果を実感。またビジネスパフォーマンスも向上している

チェンジメーカーでは「SXの取り組みが売上/収益に直接貢献している」割合が65%と高い

「SXはビジネス成長を促進する」という長期的な視点、データ活用の成熟が鍵

 チェンジメーカーとそれ以外の企業における業績比較の結果を総括して、高橋氏は「SXと業績の間には、相関がある可能性がある」と語った。なぜそうした相関が生まれると考えられるのか。

 冒頭に触れた駒村氏のコメントにあるとおり、チェンジメーカーに共通する特徴は「SXを通じて長期的な価値を生み出すことに重点を置く視点」と、「組織の枠組みを超えてパートナーと連携し、データを利活用する能力の高さ」の2点だという。

 ひとつめの「長期的視点」については、チェンジメーカー以外の多くの企業では、SXを通じて財務的利益の追求を重視する傾向があり、SXの主な動機が「投資の呼び込み」になっているのに対して、チェンジメーカーはSXの動機に「地球環境と社会にポジティブな影響を与えること」を掲げており、「ブラントイメージや評価の向上」を動機とする回答が最も多かったという。

 「チェンジメーカーは、SXとビジネスは矛盾するものではなく、ビジネス成長を促進していくという長期的な視点で捉えていることがわかる」(高橋氏)

チェンジメーカーとその他の企業における「SX推進の動機」の違い

 もうひとつの「データ活用」については、成熟度レベルの観点から分析した。組織内および外部組織とのSXデータ活用の状況を見ると、78%のチェンジメーカーが「サステナビリティの目標を達成するには、データからインサイトを導き出す能力が必要である」と回答している。

 高橋氏は「組織内でのSXの取り組みにはデータ活用が必要。チェンジメーカーの多くが、最も高い『レベル4』の成熟度に達している」と説明した。この「レベル4」は、AIなどの高度なテクノロジーを取り入れ、相互接続されたデータを活用して、未来のシナリオを予測およびシミュレートすることで、意思決定プロセスの強化と水準の向上を実現している企業を指している。

 さらに、チェンジメーカーでは組織の枠組みを超えたデータ活用も進んでおり、69%のチェンジメーカーが「組織間連携の成熟度が高い」と回答している。うち44%は「業種を横断した戦略的パートナーシップを結んでいる」、25%が「より強力なエコシステムを形成し、SXの取り組みを中心に共創の価値を生み出すことができるようになっている」という。

 一方で、チェンジメーカー以外の企業では、過半数が「自社のSXの取り組みにおける意思決定に、統合したデータを活用できていない」こともわかったという。「サステナビリティの取り組みを追跡する指標を積極的には導入しておらず、必要なデータが存在しなかったり、データが使えていないという状況にあったり、さらにはデータの活用方法がわからないという企業も多い」(高橋氏)。

チェンジメーカーを目指すうえで重要な「4つのステップ」

 レポートでは、企業がチェンジメーカーを目指すために重要な「4つのステップ」も示している。

 その4ステップとは、「組織のパーパスを策定し、達成目標を明確にする」「SX戦略を策定し、目標の達成に向けた行動を推進する」「データ利活用の成熟度を上げる(社内組織間連携)」「組織の枠組みを超えてデータ利活用のコラボレーションをする(社外組織との連携)」だ。

 駒村氏は、「富士通ではパーパスドリブンの経営を行っており、SX戦略をもとにした活動を行っている。また、基幹系、人事系データの集約や活用を進めており、経営ダッシュボードとして見える化している。成熟度もレベル4の取り組みに入っていく」と説明し、富士通自らがチェンジメーカーのなかに入りつつあることを強調した。

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