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中国テック事情:ついにEVも「脅威」になった米国の政治的事情

2024年03月07日 15時54分更新

文● Zeyi Yang

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Stephanie Arnett/MITTR | Envato

画像クレジット:Stephanie Arnett/MITTR | Envato

米国のバイデン大統領は、中国製電気自動車(EV)が米国の安全保障上の脅威になり得るとしてリスクを調査すると発表した。しかし、米国でほとんど売れていない中国車がターゲットにされたのは別の理由がありそうだ。

この記事は米国版ニュースレターを一部再編集したものです。

これまで、電気自動車(EV)に関する米国での議論は主に、科学的、経済的、または環境的な視点からのものだった。ところが突然、それが極めて政治的な議論になった。

2月29日、バイデン政権は中国製スマートカーによる安全保障上のリスクを調査すると発表した。ホワイトハウス(大統領府)の声明によると、それらは「米国の市民およびインフラについての機密データを収集し、中華人民共和国へ送っている」 可能性があるという。

中国の他の多くのテクノロジーが安全保障上の懸念から精査されている一方で、EVはこれまで、そのような注目をほとんど浴びたことがなかった。結局のところ、EVとは、クリーンで再生可能なエネルギーへの世界的な移行を大いに助けるテクノロジーの象徴なのだ。そのため、中国における急速な成長は賞賛されてきたのである。

しかし、トランプ政権時代とパンデミック以降、米中関係は最悪の状態にあり、2国間の貿易や交流が安全保障面で監視下に置かれるのは時間の問題のように見える。そしてEVの番がやって来たのだ。

ホワイトハウスは、調査の背景に経済と安全保障という2つの動機があることを明らかにしている。

声明ではEVへの明確な言及はなかったものの、中国の自動車メーカーが米国の同業他社にとって手強い競合となっており、その唯一の理由がEVであることは否定できない。 比亜迪(BYD)のような中国企業は 、手頃な価格で高品質のEVを製造し、国際市場での競争力をますます高めている。業界団体の米国製造業連合(Alliance for American Manufacturing)は最近の報告書で、EV競争を「米国の自動車産業に対する中国の実存的な脅威」とさえ言い表している。

「中国製EVの輸入の問題は、実に多くの主要な政治的要因に対し、同時に打撃をもたらします」と、プリンストン大学で産業政策と中国を研究する社会学研究者のカイル・チャン博士は言う。「ミシガンやオハイオのような選挙激戦州の自動車工場だけでなく、より広範な自動車製造セクターが多くの重要な州にまたがっています」。

米国の自動車産業が競争力を維持できなければ、何百万人もの国民の雇用の安定が脅かされることになる。そして米国経済の中で、他の数えきれないほどの部分に影響が出るだろう。したがって、中国製EVが対処すべき経済的脅威と見なされるのは驚くようなことではない。

それは実際に、今回の選挙周期で誰もが同意しているように見える数少ない課題のひとつである。バイデン政権の調査に先立ち、トランプは選挙演説中、中国からの輸入品に60%の関税を課すと宣言して中国製EVに注目を集めた。共和党上院議員で長年の中国タカ派であるジョシュ・ホーリー議員は2月27日、中国車に対し125%の関税をかける法案を提案した。メキシコなど他の国々で製造された中国ブランドの自動車も対象となる。

しかし、バイデン政権の取った新たな行動は、この議論に安全保障上の脅威というもうひとつの要因を取り入れている。

基本的に、ここでの議論は中国製自動車、特に環境から情報を収集したり、通信や衛星ネットワークに接続したりするスマート機能を備えた新型車が、情報を盗み、米国の国益を損なうために使われる可能性があるというものだ。

多くの専門家からすれば、この議論には現実による裏付けがほとんどない。ティックトック(TikTok)とファーウェイ(Huawei)に同様の懸念が向けられたのは、製品が米国で広く使用されていたためだった。しかし、中国製自動車の大半は中国国内で走っている。米国では、最新モデルはもちろんのこと、中国車はほとんど販売されていないのである。そうなると、ホワイトハウスの立場はやや奇妙に見えてくる。

自動車アナリストでEV産業の観測筋であるレイ・シンは、バイデン政権の発表に含まれた安全保障上の非難について非常に強い意見を持っている。「声明は、実際よりもはるかに大きな脅威と安全保障リスクのイメージを描こうとする主観的で不正確な発言にあふれています。大統領選の戦いが過熱する中、有権者の支持を得ようという狙いがあるのは明らかです」とシンは語った。

とはいえ、データセキュリティに対する懸念は、米国では政治的領域を超えて共有されている。「ワシントンでは党派を超えて、潜在的なテクノロジーのチャネルを介した中国によるデータ収集を懸念するという総意が生まれようとしています」とチャン博士は言う。

現在、中国と関わりのあるほぼすべてのテクノロジー製品に疑問を投げかけるにあたり、この視点が使われるようになっている。中国製自動車、シーイン(Shein)やティームー(Temu)のような中国のEコマース・アプリ、ティックトックやウィーチャット(WeChat)のようなソーシャルメディア・プラットフォーム、スマート・ホーム用ガジェットなどに関して、データセキュリティに対する心情は同じである。

こうした他のテクノロジーが地政学的な集中砲火を浴びるのを遠くから見ていた中国のEV企業は、発表された内容に対しほぼ準備を整えていた。

「中国のEV企業は、すでにこれを計算に組み込んでいたはずです」とチャン博士は言う。「彼らは、多くの合弁事業を立ち上げ、パートナーを増やして世界中の他の市場へ進出を進めています。しかし、そんな中で、米国市場へ多額の投資をすることには非常にはっきり抵抗を示していました」。

最近、BYDアメリカ(BYD Americas)の最高経営責任者(CEO)はインタビューで、メキシコの新工場は米国へ輸出するのではなく、国内市場でのサービス提供を予定していると述べた。シンは最近、別の中国車企業であるニオ(NIO)が、2025年までに25の市場へ参入を目指すという初期計画から米国を外したとの情報を入手した。これらはすべて、中国EV企業がしばらくの間、少なくとも政治的な反感がなくなるまでは米国市場を避けることの兆候である。世界第2位の自動車市場で販売できないことは明らかに良いニュースではない。しかし、彼らには、欧州、ラテンアメリカ、東南アジアに多くの潜在顧客がいる。

「(中国の自動車産業は)今のところ『よく見て学ぶ」モードに留まり、それに基づいて戦略を立てるでしょう。メキシコは、EV産業が最終的に米国へ進出するかどうかにかかわらず、北米地域にとって重要な市場かつ重大な生産拠点となるでしょう」(シン)。

人々が米国で中国EVを運転するようになり、ここをホームグラウンドとする米国車にどう立ち向かうのか。そうした光景が見られる日を私は指折り数えていたが、長く待つことになりそうだ。

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1. 中国では、3月5日に全国人民代表大会が開幕した。これは中国において最高位の政治会議であり、経済計画やその他の重要な政策意図が発表されることの多い場である。よって注目に値するだろう。(NBCニュース

  • 中国で30年ぶりに、首相が報道陣に概要を述べて質問に答えるという毎年恒例の流れが廃止となった。中国の政治指導者と接触できる稀な機会のひとつが無くなってしまった。(ロイター通信

2. 親ロシア的な感情を表し、ロシア製品を販売するために、ディープフェイクで作られたウクライナ人ユーチューバーのクローンが中国人に利用されている。(ボイス・オブ・アメリカ・ニュース

3. 数百人の北朝鮮人が、中国の水産物工場で頻繁な殴打や性的虐待に耐えながらの強制労働に陥っている。これらの工場の製品は、ウォルマートやショップライト(ShopRite)といった米国の大手小売業者に供給されている。(ニューヨーカー

4. 米国政府は、中国や他の敵対国へのデータブローカーによる機密データの販売を防ぎたいと考えている。(ウォール・ストリート・ジャーナル

5. ニューヨークの小さなスタジオで、米国のティックトック・インフルエンサーが中国の仲間たちからライブストリームを活用したEコマースのコツを学んでいる。(レスト・オブ・ワールド

6. 米国司法省は、5年前に企業秘密を盗んだとして中国の半導体メーカーを告発した。同社は、裁判で無罪判決を受けたばかりである。(ブルームバーグ

7. 中国の発明家によって出願される特許件数が急速に増加しており、史上初めて米国での出願件数を上回っている。(アクシオス

中国企業の厳しすぎる転職禁止ルール

中国の大学を卒業したルー・チーは、1つ目の会社としてPDD(ティームーを所有する中国のEコマース企業)に就職した。しかし転職の際に、競業避止義務の補償として同社から3万6000ドルの支払いを求められることになるとは思っていなかった。 中国メディアの財新(Caixin )が報じているように、中国のテック企業、特にPDDは、競業避止義務をあまりに広範囲に及ぶようにしていると憤りを引き起こしている。

それは、重要な地位にある主要人物に影響を与えるだけはない。若手や末端の役割であっても、ほとんどすべての従業員が採用時に契約へ署名しなければならない。契約を執行するため、PDDは私立探偵を雇って元従業員を尾行し、新しい職場への通勤を撮影することさえある。これらの企業が企業秘密保護の名目で行き過ぎた行為に及んでいるとの疑問が投げかけられている。

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