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NTTなど、世界で初めて電子の飛行量子ビット動作を実証

2024年01月18日 08時41分更新

文● MIT Technology Review Japan

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NTTと仏サクレー原子力庁センター(CEA Saclay)、物質・材料研究機構、韓国科学技術院の共同研究チームは、グラフェン中を伝播する電子の軌道を量子的に操作することにより、世界で初めて電子の飛行量子ビット動作を実証した。飛行量子ビットとは、空間的に配置された素子に量子を通過させることで演算を実行する量子ビットである。飛行量子ビットを用いることにより、空間的に離れた量子コンピューターの接続が可能となるほか、原理的に大規模化可能な量子コンピューターの構築も期待されている。

NTTと仏サクレー原子力庁センター(CEA Saclay)、物質・材料研究機構、韓国科学技術院の共同研究チームは、グラフェン中を伝播する電子の軌道を量子的に操作することにより、世界で初めて電子の飛行量子ビット動作を実証した。飛行量子ビットとは、空間的に配置された素子に量子を通過させることで演算を実行する量子ビットである。飛行量子ビットを用いることにより、空間的に離れた量子コンピューターの接続が可能となるほか、原理的に大規模化可能な量子コンピューターの構築も期待されている。 電子の飛行量子ビットについては、ガリウム砒素半導体を用いた「マッハ・ツェンダー干渉計」に単一電子を入射することで、その軌道を量子的に操作することを目指す方式が広く研究されている。だが、ガリウム砒素半導体のマッハ・ツェンダー干渉計には、複雑な構造と低い安定性のせいで、電圧パルスにより発生する熱・電圧に耐えられないという課題があった。加えて、単一電子源には、干渉計に入射する電子のエネルギーが毎回微妙に異なるため干渉結果が変わってしまうという課題があった。そのため、電子の飛行量子ビットをこれまで実現できていなかった。 研究チームは今回、グラフェンp-n接合を用いて電子のマッハ・ツェンダー干渉計を作製し、これを「レビトン」と呼ばれる単一電子源と組み合わせることで、上記の課題を克服。同干渉計により、量子干渉性が失われる温度および電圧を、従来の干渉計と比べて1桁向上させ、レビトンにより、量子ドットなどを使った従来方法と比べて電子のエネルギーの揺らぎを大幅に抑えることに成功した。 実験では、レビトンの単一電子を同干渉計に入射し、グラフェンのn側を伝播する量子状態と、p側を伝播する量子状態の量子的重ね合わせを制御することで、電子の飛行量子ビット動作を実証した。具体的には、入り口側のビームスプリッタ(電子を2つの方向に分ける機器)の透過率を変化させることでそれぞれの量子状態の存在確率を制御し、干渉計を貫く磁束量子の本数を変化させることでそれぞれの量子状態の位相差を制御して、任意の量子重ね合わせ状態を実現できることを示した。 電子の飛行量子ビットは量子情報を固体素子中で伝送できるという点で既存の量子ビットとは本質的に異なる機能を有しており、特に量子もつれ対のオンデマンド生成などへの発展が期待されるという。研究論文は2023年12月14日付けで米国科学誌サイエンス(Science)に掲載された

(中條)

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