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日本の原子力研究が産んだスタートアップ。新たなレアメタル回収技術で世界のリサイクルが変わる

独自技術でレアメタル回収システムの確立を目指す エマルションフローテクノロジーズ

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2024年にはパイロットプラントが立ち上がる

 2021年1月、エマルションフローテクノロジーズ設立を決定。CEOを誰にするのか考えた鈴木氏だが、「今から『エマルションフロー』という技術を理解する人材を探してCEOをやってもらうよりも、すでにこの技術を理解している自分がやった方がいいと決断した。支援者として教育する側に回るべきと言われたこともあったが、実際に企業を起ち上げた経験がないと適切なアドバイスもできないのではないか? という思いもあった。今、企業経営をしている立場になってみて、現場に立たないとわからないことがあったと実感している」と逡巡の末、自らCEOとして関わる決断をした。

 技術を生み出した長縄氏も、CTOとして起業に関わっていくことを決断した。ほかにも原科研出身者が加わって計4人となり、2023年12月時点で25名の人員体制となっている。

(画像提供:エマルションフローテクノロジーズ)

 本格展開を狙うビジネスは、「エマルションフロー」を活用したレアメタル回収を自分たちで実施することと、レアメタル回収の装置を販売することの2本立てだ。

「きちんと実績を見せなければ、装置を買ってもらえない。実績を見せるためには、まず自分たちでレアメタル回収に取り組む必要がある。また、お客さんごとにレシピが異なるため、装置もカスタムメイドで作る必要がある。そのために研究ができる、工場要素もある社屋が必要だった」と鈴木氏は話す。

「原子力発電において核燃料を燃やすと、核分裂反応などによって多種多様な元素が生じる。この使用済み核燃料から発生する高レベル放射性廃棄物に含まれる元素をグループ分けする必要があるが、そのときに使われるのが溶媒抽出。4年に一度、溶媒抽出に関わる研究者、技術者が集まる国際会議があるが、全世界から毎回2000名くらいが集結する。参加者は、原子力分野、金属製錬分野、化学分野など様々で、大学での基礎研究の発表も多い」と長縄氏。「エマルションフロー」を使ったレアメタル抽出装置が提供されていくようになれば、この会議の参加者の顔ぶれも変わっていくのかもしれない。

 技術自体は長年の研究で確立されたものであり、これを実装していくための開発が現在進められている。

「研究者が作った会社といっても、我々は技術オリエンテッドな会社ではない。技術は事業を作らない。事業が技術を作ると思っている。技術中心では市場からずれてしまうこともあるため、きちんと市場ニーズに合致した技術を開発し、事業化を進めていきたい」と鈴木氏は強調する。

 また、原子力研究発の技術が社会に実装され、事業化していくことで、「原子力分野にも還元できると思っている。また、高度な技術を生み出す原子力研究の可能性に気がつく人も増えていくのではないか」と鈴木氏は自分たちが進めている技術開発の原子力分野へのフィードバックも期待する。

 事業展開を目指すのは前述の通り2026年だ。「2024年の早い時期にパイロットプラントを作る。実際に自分の目でレアメタルを取り出す様子を見れば、自社に欲しいと考える人が出てくるのではないか」と2024年が事業化につなげていくために重要な年となると鈴木氏は考えている。

 ターゲットとしてはグローバルを対象に、特に東南アジアに顧客がいると想定。リサイクルプラントの実現を皮切りに、日本発でビジネスを行う企業へと成長していくことを目指していく。

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